4 潤滑油、燃料油、冷却水
4.1 潤滑油
1)潤滑油の働き
エンジン内部での潤滑油の働きは次の通りである。
(1)潤滑作用
各摺動部分に油膜を形成し、摩擦抵抗を減少させると共に、摩耗、焼付きを防止する。
(2)冷却作用
各摺動部分から発生する摩擦熱や、燃焼ガスによって加熱された部分から熱を運び去って、過熱を防止する。
(3)密封作用
シリンダライナ及びピストンとピストンリングの間に油膜を作り、圧縮漏れや燃焼ガスの吹き抜けを防止している。
(4)清浄作用
燃焼生成物や潤滑油自身の劣化によって生じるスラッジを洗い流し、こし器で濾過して、摺動部分や機関内部を清浄に保つ。
(5)酸中和作用
燃焼生成物からの強酸を中和し、腐食やこれに起因する摩耗を防止する。
(6)応力分散作用
軸受け面に油膜を形成し、燃焼による衝撃荷重を油膜を介して分散させる。
(7)防錆作用
金属表面に油膜を形成し、酸化を防止する。
2)潤滑油の分類
ガソリンおよびディーゼルエンジン用の潤滑油はJIS規格に規定されているが、一般には品質及び使用区分を分類したAPI分類と、粘度のみを分類したSAE分類の組み合わせで表不されている。
(1)API分類
APIとは、米国石油業界(American Petroleum Institute)の略で需要家に対し、エンジンの構造、運転条件、使用燃料油及び添加剤の種類等、油の品質全般について分類している。
APIサービス分類はガソリンエンジン用と、ディーゼルエンジン用にわかれており、それぞれの品質分類に要求されるサービス内容が明記されている。2・3表にガソリンエンジン用、2・4表にディーゼルエンジン用のサービス内容を示す。
2・3表 ガソリン・エンジン用のAPlサービス内容
分類 |
サービス内容 |
SA |
添加剤を必要としない軽度の運転条件のエンジン用で、特別の性能を要求しない。 |
SB |
添加剤の働きを若干必要とする軽度の運転条件用で、スカッフ防止性、酸化安定性及び軸受腐食防止性を備えることが必要。 |
SC |
1964〜67年の乗用車及びトラックのガソリン・エンジン用で、高温及び低温デポジット(注1参照)防止性、摩耗防止性、錆止め性及び腐食防止性が必要。 |
SD |
1968年以降の乗用車及びトラックのガソリン・エンジン用で、デポジット防止性から腐食防止性までSC以上の性能が必要。 |
SE |
1971年製の一部及び1972製の乗用車及び一部のトラックのガソリン・エンジン用で、酸化、高温デポジット、錆、腐食などの防止に対し、SD、SC、より更に高い性能が必要。 |
SF |
1980年製の乗用車及び一部のトラックのガソリン・エンジン用で、酸化安定性及び耐摩耗性がSEより更に優れていることが必要。 |
SG |
1989年以降の乗用車、バン、トラック用で、エンジン・デポジット抑制、酸化安定性、耐摩耗性、錆、腐食などに対し、SFより更に優れていることが必要。 |
SH |
エンジン・オイルの新認証システムのEOLCS(注2参照)によって、初めて認証されたものである。1993年以降のガソリン・エンジン車用で耐摩耗性、省燃費性、低温流動性及び排ガス対策性がSGより更に優れている。 |
SJ |
1996年以降のガソリン・エンジン車用で、酸化安定性、腐食防止性、防錆性、省燃費性、低温流動性及び排ガス対策性がSHより更に優れている。最新の最高グレードのエンジン・オイルである。 |
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(2)SAE分類
SAEとは、米国自動車技術協会(Society of Automotive Engineering)の略で、エンジン油については粘度のみによる分類を制定している。
SAEでは、粘度を0W、5W、10W、15W、20W、25W、20、30、40、50、60の11種類に区分している。2・5表に代表的なもの数種に付きその性状を示す。
2・4表 ディーゼルエンジン用のAPIサービス内容
分類 |
サービス内容 |
慣用呼称 |
CA |
ライト・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用 高品質の燃料を使い、マイルドないしモデレートな運転を行うエンジン用で、軸軸受けの腐食防止性、高温酸化安定性を有する |
ストレート
(S) |
CB |
モデレート・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用 マイルドないしモデレート運転で耐摩耗性、耐腐食性を要する低質燃料(高硫黄燃料)を使う無過給ディーゼルエンジン用で、軸受けの腐食防止性、高温酸化安定性を有する。 |
プレミアム
(PM) |
CC |
モデレート・デューティ・ディーセル・エンジンサービス用 モデレートないしシビアな運転条件の低過給ディーゼルエンジン用で高温デポジット防止性と錆、腐食、低温スラッジ防止性を有する。 |
ヘビー デューテイ(HD) |
CD |
シビア・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用 広範囲の品質の燃料を使う高速、高過給ディーゼルエンジンサービス用で、耐摩耗性並びに、優れた軸受腐食防止性、高温デポジット防止性を有する。 |
スーパヘビー デュティ(SHD) |
CE |
ヘビィデューティの過給ディーゼルエンジン用で、低速高過重と高速高荷重で運転するものに用いる。CD級より更にオイル消費性能、デポジット防止性能、スラッジ分散性能を向上させたもの。 |
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(マルティグレードオイルについて)
低温において粘度が増加し、高温において粘度が減少すると云う油の特性が改善されて、低温でも高温においても規定された粘度を維持するという油が造られました。○○W−△△と云う油がそれです。
2・5表によれば5Wとか、10Wという油は一18℃の粘度のみ規定し、又20番とか30番と云う油は100℃の粘度のみ規定して、それ以外の温度での規定はありません。
従って2・422図に示すようにAの油も、Bの油も30番の粘度を有する油ですが、100℃以外の温度では粘度が非常に違ってきます。これに対してCの油は−18℃の時10Wの粘度を有し、温度が100℃になっても30番の粘度をもっています。このように低温、高温両方の粘度が規定値を満足し、温度の変化に対して粘度変化の少ない油を粘度指数の高い油といい、温度差の大きい地方や、温度差の大きいエンジンに適用されています。
このように低温、高温いずれでも規定値を満足する油をマルティグレードオイルと云います。
2・5表
SAE粘度番号 |
0°F(−18℃) |
210°F(98.9℃) |
cp |
cSt |
5W
10W
20W |
1,250未満
2,500未満
10,000未満 |
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20
30
40
50 |
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5.6以上 9.3未満
9.3以上12.5未満
12.5以上16.3未満
16.3以上21.9未満 |
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(注)Wは、Winter Gradeの意味です
2・422図 潤滑油の粘度変化
3)潤滑油の選定
潤滑油はエンジンの種類、使用燃料の種類、使用条件などにより異なるためメーカの推奨する潤滑油を使用することが望ましいが、通常は下記を基準に選定する。
(1)適切な粘度の潤滑油を選ぶ。
SAEの粘度区分より適切な粘度の潤滑油を選ぶが、地域、夏冬等、気温により使い分けることもある。
(2)適切なアルカリ価の潤滑油を選ぶ。
API分類の内よりメーカの指定するアルカリ価を保有する潤滑油を選定する。
4)潤滑油の交換基準
潤滑油の交換時期は、エンジンの形式、運転条件、使用燃料の種類、潤滑油の種類、張込み量(補油量)補給量等により異なるので、油メーカに分析してもらい判断するのが最も望ましいが、実際には難しいので、通常はメーカの指定した交換時間を基準にして交換するか、又はオイルメーカの提示しているスポットテストにより、スラッジの混入量、アルカリ価の残存量等を調べメーカの判断基準に基づき交換する。
5)更油時の注意事項
(1)異種の油を混用しないこと。
最近の潤滑油にはいろいろな添加剤が入っているので、メーカの異なる油の使用は避けること。但しオイルメーカの許可があれば使用してよい。
(2)不純物の混入に注意すること。
水分、塵挨等が混入すると、運動部分の摩耗、焼き付きの原因となるので、保管、取扱に注意すること。
(3)機関内部をきれいに掃除すること。
残油があったり内部が汚れていると、新油の清浄性によりスラッジが洗い流され、こし器の閉鎖を起こすことがある。なお、機関内部の掃除には、毛ゴミがこし器を詰まらせるのでウエスや綿の手袋は絶対使用しないこと。
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