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(1)油圧クラッチの構造
 2・247図に油圧多板式のクラッチの断面図を、又2・249図に、その展開図を示す。
 前、後進用それぞれのクラッチハウジングの内周には溝(スプライン)が切ってあり、その溝がスチールプレートの外周に加工したスプラインの凸部と噛み合って常時回転している。又スチールプレートと交互に配置されている摩擦板の内周にも、スプラインが切ってありそれぞれ前、後進用小歯車の軸に加工されたスプラインと噛み合っている。
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2・246図 油圧湿式多板減速逆転機の構造
 
 前、後進切換弁から、クラッチ軸に設けられた油孔を通って作動油が、シリンダ内に送られてくると、油圧ピストンは摩擦板とスチールプレートを摩擦板受け板に圧着させ、クラッチハウジング、スチルプレート、摩擦板、小歯車の順に動力を伝達する。油圧が抜けると油圧ピストンは戻しバネにより戻され摩擦板とスチールプレートは離されて動力の伝達は解かれる。
 
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2・247図 油圧クラッチの断面図
 
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2・248図 油圧クラッチ部分組立図
 
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2・249図 クラッチ部分の展開図
 
 なお、スチールプレートには、クラッチの嵌脱を良くし、又連れ廻りをなくすためにそり加工が施してある。
(2)動力の伝達経路
 油圧湿式多板減速逆転機の動力伝達経路の一例を2・250図に示す。
 エンジンが始動しクランク軸が回転すると、下記の順序で動力が伝達され推力軸が駆動される。
・前進時
 タワミ軸接手→入力軸(前進軸)→前進クラッチ→前進小歯車→大歯車→推力軸
・後進時
 タワミ軸接手→入力軸(前進軸)→前進クラッチハウジング(逆転駆動歯車)→逆転被駆動歯車(後進クラッチ)→後進小歯車→大歯車→推力軸
 
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2・250図 油圧湿式多板減速逆転機の動力伝達経路
 
(3)クラッチの使用上の注意事項
 クラッチで問題となるのは、スリップと焼き付きである。正常な運転状態ではスリップの心配はないが油圧低下のまま連続使用した場合や過負荷状態で使用すると先ずスリップが発生し、これに気付かず運転を続けると、摩擦板やスチールプレートに焼き付きが発生し、嵌脱が不良となりスリップするほか連れ廻りの原因となる。なお、焼き付きが発生する前には油温が異常に高くなるので油温に注意することが必要である。
 クラッチが何らかの原因でスリップしたり、或いは作動しないときには、前進用のクラッチには緊急ボルトが装備されているので、このボルトを締め付けることにより、応急的にクラッチを結合することが出来る。
 
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2・251図 緊急ボルトの締付図
 
 不具合が発生したときには、機関を停止し、2・251図に示すような付属されている工具でクランク軸をターニングしながら緊急ボルトを均等に締め付けてクラッチを結合する。緊急ボルトは港まで自力で帰るための応急処置である。緊急ボルト使用時は、クラッチは前進側と直結となっており、中立、後進の操作は出来ないので、機関始動時及び着岸時には特に注意が必要である。なお、運転は決められた回転数以下で行うこと。
 
2)減速機
(1)減速機を装備する目的
 機関の高出力化は回転数を上げることと、正味平均有効圧力を上げる2つの方法で計画実施されてきた。機関の回転数を上げる方法では、船舶機関のクランク軸とプロペラ軸が直結されている限り、機関の回転数が上昇するにつれてプロペラ効率が悪くなり、上げ得る回転数には限度がある。しかし回転数を上げなければ高出力化は望めない。この問題を解決するためには、機関の回転数は上げたままとし、プロペラ軸の回転数のみ低くする必要がある。この手段として舶用機関に減速機を装備しプロペラを効率の良い回転数で廻すようにしている。
(2)減速機の種類と構造
 減速機には、いろいろの種類のものがあるが、通常使用されているのは、前項でも記したような大小の歯車を組合わせ、その歯数比により回転数を変える歯車式1段減速機である。
 平歯車、ハスバ歯車、傘歯車、等の歯車が使用されるが、その並べ方により次のような種類がある。なお、最近の減速機には、強度面、低騒音化の面より殆ど、ハスバ歯車が使用されているが、ハスバ歯車は機構上軸方向に推力が発生するので、整備時には軸受けやスキマの取り方に、細心の注意が必要である。
 
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