日本財団 図書館


2.3 動弁装置
 ピストンの動く位置に応じて、吸排気弁をタイミング良く開閉させる機構であり、一般にクランク軸の回転をクランク軸に焼きばめされたクランク歯車から、中間歯車、タイミングチェーン又はタイミングベルトを介してカム歯車に伝え、カム軸に設けられた吸排気カムによりタペット、ロッカアームなどを介して吸排気弁を動かして開閉させる。この一連の装置を動弁機構という。動弁機構ではシリンダに対する弁の配置される位置、カム軸の位置によって分類され、弁がシリンダの側にある形式をSV式、上部にある形式をOHV式及びカム軸がシリンダヘッド上部に配置されている形式をOHC式という。さらに吸気弁用、排気弁用として2本のカム軸を配置している形式をDOHC式という。これらの構造を2・87図に示す。なお、SV式を除く殆どのエンジンはシリンダヘッドの上部に吸排気弁、弁バネ、ロッカアーム、ロッカシャフトあるいはカム軸等を囲っているロッカ室を設けエンジンオイルで強制潤滑しているが、大型ディーゼルエンジンではロッカ室のみ別のオイルで潤滑する構造としたものが多い。
 
(拡大画面:77KB)
2・87図 動弁装置構造
 
 SV式は弁機構が簡単であることより、低回転で長時間使用する小型ガソリンエンジンに採用されたが、燃焼室面積及び容積が大きくなるため熱損失が大きく、又圧縮比を高くとれず高出力を得るには不利であり、最近は少なくなっている。OHV式は熱効率が高く、高圧縮比の採用が可能なことにより、ディーゼルエンジンを始め一般的に採用されている形式であるが、往復運動部品が多くなり高速回転における吸排気弁の作動が不確実になり易い。OHC及びDOHC式はタペットと押し棒又は押し棒とロッカアームが不要で往復運動する慣性質量が減ぜられるため、高速回転のガソリンエンジンに広く採用されている。
 
1)タイミングギヤ、タイミングベルト及びタイミングチェーン
 クランク軸の回転をカム軸へ伝達するには、タイミングギヤによる歯車伝動、タイミングチェーンによる鎖伝動、タイミングベルトによるベルト伝動などの方法がある。
 タイミングギヤはクランク歯車、中間歯車及びカム歯車で構成されており、機械構造用炭素鋼又は特殊鋼等で造られ、歯形には平歯車、ハスバ歯車が用いられるが、高速エンジンには騒音面で有利なハスバ歯車が多く使用されている。又、歯面は浸炭焼き入れ又は高周波焼き入れして硬度を上げ耐摩耗性を向上させている。ギヤトレインの一例を2・88図に示す。
 
2・88図 ギヤトレイン
 
 タイミングベルトはクランク歯車の回転をカム歯車に伝えるもので、コグベルトが使用されている。タイミングベルトはエンジンの回転変動によって撓みや伸びを生じる。そのため、バルブ開閉機構にはベルトの張り具合を適切な状態にし、バルブタイミングを適正に保つと共に、撓みによるベルトの騒音を防ぐためのテンショナを設けている。なお、テンショナにはスプリング式と油圧式がある。その一例を2・89図に示す。
 タイミングチェーンはタイミングベルトと同様にクランク歯車の回転をカム歯車に伝えるもので、ローラチェンや、チェンノイズの少ない特殊構造のサイレントチェンが用いられている。その一例を2・90図に示す。
 
2)カム軸と軸受けブッシュ
 カム軸には吸排気カムを軸と一体で鍛造または鋳造したものと、カムと軸を別々に造り、軸にカムをキー止め又は焼嵌めする方式とがあり、ガソリンエンジンおよび小形ディーゼルエンジンには殆ど一体鍛造又は鋳造したものが使われている。軸受け部とカム表面には高周波焼入れを施して硬度を上げ、耐摩耗性の向上を図っている。又、カム表面は焼き入れ後、研磨によりカムプロフィルを正確に形成させている。なお、一部の小形ディーゼルエンジンおよび中低速ディーゼルエンジンのカム軸には吸排気カムと燃料噴射ポンプカムを有している。
 
(拡大画面:45KB)
2・89図 タイミングベルト
 
2・90図 タイミングチェーン
 
 SV式およびOHV式では、カム軸はシリンダブロックに設けられたカム軸受け孔へ軸受けブッシュを組み付け、この軸受けを介して支持されており、4サイクル機関ではクランク軸の1/2の回転で廻され、吸入、圧縮、燃焼、排気の行程を完了するのに丁度1回転するように作られている。軸受けブッシュヘの注油はシリンダブロック内に設けられた油孔から各軸受けブッシュの油孔を通して供給される。
 またOHC式のエンジンで、カム軸ジャーナル部をシリンダヘッドで支えている。
 カムリフトは2・91図に示すようにカムの最大径と最小径との差であり、このリフト量が弁腕の長さの比率に応じ、吸排気弁の作動リフト量になる。OHC方式ではカムのリフト量が、吸排気弁の作動リフト量になるものもある。
 
2・91図 カムリフト
 
3)タペット
 タペットはカム表面に接触し、SV式およびOHV式ではタペット孔を上下に動きその動きをプッシュロッドを介して弁腕に伝える役目をしている。又OHC式のうちロッカアームがない方式では、タペット孔を上下に動き、バルブを直接押し下げる役目をしている。この方式のバルブクリアランス調整には2・92図のようにアジャストシムによって行うシム調整式と油圧を利用してバルブクリアランスをゼロに保つ自動調整式とがある。
 タペットには2・93図に示すように、接触面にローラを使用したもの、平面又は曲面を持つキノコ形(マッシュルーム形)又はピストン形のもの及びレバーを介してタペットを動かすもの等がある。
 カムとの接触面は焼き入れして耐摩耗性を向上させているが、ガソリンエンジンや小形高速ディーゼルエンジンによく使われるピストン形やキノコ形のタペットにはチル鋳鉄が多く使用されている。
 キノコ形及びピストン形のタペットは、カム接触面が均一に当たるように、殆どの機関はカム巾の中心とタペットの中心とをずらし(オフセットして)運転中にタペットが回転するようにしてある。(2・94図







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION