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1.7 船尾管軸封装置
 船尾管軸封装置とは、軸系の船体貫通部からの船外の水が船内に流入するのを防ぐまた船尾管内の油が船外および機関室内に流出するのを防ぐ装置である。
 船尾管軸封装置は海水潤滑軸受と油潤滑軸受によって構造が異なる。
 
1)海水潤滑軸受
 海水潤滑軸受の軸封水装置には、グランドパッキン方式のものと端面シール方式の2種類がある。
(1)グランドパッキン方式
 グランドパッキン方式は3・27図に示すような簡単な構造で従来から使用されている。グランドパッキン方式は、パッキン箱を設け、その内部には通常2つ割れのパッキン押えで締付けている封水用のパッキンを配している構造である。パッキンの材料としては、ラミー、フラックス、コットンなどにグリースを含浸させたもの、さらに、メタリック黒鉛を入れたものなど多くの種類がある。なおパッキン押えを締め付けるボルトのうち2本を長く作ってガイドとし、パッキン押えを取り外すことなく、パッキンの取替えや、増入れができるようにすると便利である。
 パッキン部は強い船尾振動を受けるので、パッキンは相当苛酷な使用条件に耐えなければならない。またパッキンの軸との共回りは海水漏洩に対して致命的であるので、パッキンの寸法は慎重に決める必要がある。このためにパッキンをやや長い目(パッキン厚さの1/2程度)に切って、正しく切口を合わせ、1本ずつ確実に奥まで押し込み、パッキンの密度の均一化をはかる。そしてパッキンの外周側の摩擦を大きくすることおよびパッキン箱の奥の端面部の摩擦を増すための考慮も必要である。パッキン全数を詰め込んだ後、パッキングランド押えを取り付けて強く押し、締め付けボルトにナットをかけて、手でいっぱいに締める。この点を基準点とすれば、ここから〔(そのパッキンの呼び寸法)×(本数)〕の5%程度締め込んだ状態で運転を始め、適当な海水の漏洩量になるようにパッキングランドを増締める。パッキングランドの温度は海水温度プラス30℃までが適当と考えられるので、パッキンの締め過ぎには注意を要する。またパッキンの締め過ぎによるプロペラ軸スリーブの異常摩耗は避けがたい。
 
3・27図 グランドパッキン方式の構造
(拡大画面:24KB)
 
 グランドパッキンに関して特に注意しなければならないのは、海水漏洩量の増大、プロペラ軸スリーブの摩耗、パッキンと軸との共回りなどである。
 グランドパッキンを締めた場合のパッキンと軸との接触面圧は3・27図のようにグランド側から奥に行くに従って順次面圧が低くなり、シール作用で重要な奥の方のパッキンの面圧が不足する傾向にある。これにより漏洩量の増大やパッキン共廻りが生じやすい。このためグランドパッキンの締付けが過大になりがちでグランド近くの面圧が高くなり軸摩耗を生じやすい。従ってパッキン取付時には手前から奥まで面圧がなるべく一様になるように努める必要がある。
 次にパッキン取付時より運転時までの要点を順を追って述べる。
(1)パッキンの切断は軸外周に巻付けて、パッキン厚さの1/2程度長目に切る(3・28図参照)。そしてばらばらにならないように糸でしばる。
(2)パッキンはパッキン箱の寸法に合ったものを使用すべきであるが、太さの調整が必要な場合、ハンマ等で叩かず、バイペでロールする。
(3)パッキン挿入時には、切口を120度ずつずらして合せ面を突き合せて外周に張らすようにして一番奥から1本ずつ木片を当てて、軸になじませながら圧縮していく。
(4)進水時にはグランドを取付け、ナットを掛けて指で一杯に締めた後、片締めにならないようにスパナでパッキン箱深さの5%を目安に追締めする。
(5)進水後漏れの状態を見て徐々に増締めする。
(6)航行中は少しずつ締付け、一度増締めすると15〜30分ぐらいは様子を見る。
 漏洩量は軸径にもよるがパッキン摺動部の潤滑、冷却の点から5〜10l/hを目安に調整するとよい。
 
3・28図 パッキンの切断例
 
(2)端面シール方式
 端面シール装置は3・29図に示すようにゴムの弾性を利用した簡単な構造で、密封摺動材には特殊合成ゴムを使用しているため、シール性が良く、寿命が長くしかもプロペラ軸の複雑な振動にも十分対応できるものである。端面シール装置の構造は固定部分と回転部分に大別され、固定部分はケーシング、特殊合成ゴムのシールリングと摺動するメイティングリング(固定摺動リング)、緊急用シールから成っており、また回転部分は、プロペラ軸スリーブ上にシールリングがガータスプリングまたはバンドによって取付けられ、プロペラ軸と共に回転する。
 シールリングのリップはメイティングリングヘ一定の接触圧で押しつけられており、この接触部が回転側と固定側の摺動面で、海水をシールする重要な部分である。
 緊急シールは端面シール装置の使用中、シールリングとメイティングリングとのシール性能が悪くなり、漏水が多くなった時バルブユニットのバルブを開いて、圧縮空気を緊急シールに供給すると、緊急シールが内径側に収縮し、プロペラ軸スリーブを締めつけ、密着し、シールを行うもので、シールリングなどの交換時に使用する。但し、プロペラ軸回転中は絶対に作動させないこと。
 端面シール装置はシール部がプロペラ軸スリーブと直接摺動することがないため、従来のグランドパッキン方式のようなプロペラ軸スリーブの摩耗はないが、電食が発生することがあるので、留意が必要である。
 
3・29図 端面シールの構造例
(拡大画面:12KB)
 
2)油潤滑軸受
 油潤滑軸受の場合、船尾管封水封油装置は船尾管の船外側と機関室内側に装備され、前者の船尾側シール装置は船の吃水で定まる水圧に対し、船外の水が船尾管内に流入するのを防ぐとともに、船尾管内の油が船外に流出するのを防ぐのが目的である。後者の船首側シール装置は、船尾管内にある圧力油が機関室内に流出するのを防ぐのが目的である。
 封水封油装置の主なる種類としてリップシールタイプと端面シールタイプがあるが一般に広く使用されているリップタイプの一例を3・30図に示す。
 船尾側シール装置は3・30図に示すように、リップシールリングは通常3本(最近は4本シールもある)で構成され、海水側に2本のシールリング、および油側に1本のシールリングが配置されており、スタンフレームボスに取付けられる。シールリングはシールリングとの摺動部に設けられた円筒状で軸を覆う船尾側シールライナ(高クロムステンレス鋼が使用されているので一般にクロムライナとも呼ばれる)と摺動し、封水封油の機能を形成する。
 船尾側シール装置のケーシングには、本船の入梁時船尾管軸受の摩耗量計測のための、摩耗計測要具を取付ける座が設けてある。
 船首側シール装置は3・30図に示すように、リップシールリングの本数は2本で、油を密封する働きをするもので、船首側シールライナ(一般にクロムライナと呼ばれる)は、軸上に設けられた二つ割れクランプリングで固定され、シールリングと摺動して密封機能を形成する。
 シールリングの材料にはニトリルゴム(NBR)とフッ素ゴム(FR)の2種類がある。ニトリルゴムの使用可能な温度範囲は、一般に低温は−40℃、高温は乾熱中で120℃である。フッ素ゴムは一般に商品名でバイトンと呼ばれ耐熱性のものが使用される。使用可能な温度範囲は低温は−50℃、高温は200℃であるが機械的性質がニトリルゴムより劣る。
 
3・30図 リップ式軸封装置の一例
(拡大画面:55KB)
 
 油潤滑軸受の船尾管軸受およびシールリング部へは給油の必要がある。その給油系統図の一例を3・31図に示す。船尾管軸受への給油は、本船の吃水より2,500〜3,500mm高い位置に30〜50l程度の重力タンクを設けて行う。また船首側シール部には、軸心より1,500〜2,000mm高い位置に設けた10l程度の重力タンクで給油する。最近では船尾側シール部を独立系統で給油する場合もある。
 
3・31図 船尾管軸受およびシール装置の給油系統図の一例
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