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1.6 船尾管および船尾管軸受
1)船尾管
 船尾管とは、プロペラ軸あるいは多軸船の場合船尾管軸(船尾軸)が船体を貫通する箇所に装備する筒状の構造物をいい、軸を支持するものである。一般に船尾管本体には鋳鉄あるいは鋳鋼が多く使用される。また、比較的大形船では、特に船尾管本体を設けず、船体と溶接構造で形成する場合もある。海水潤滑式船尾管の場合、青銅製ブッシュに内張りした支面材(リグナムバイタ)あるいは青銅製ブッシュまたは、FRPに内張りしたゴム軸受、樹脂軸受などを船尾管本体に圧入し、軸受とし、海水によって冷却、潤滑をする。油潤滑式船尾管の場合、鋳鋼製あるいは鋳鉄製ブッシュにホワイトメタルを内張りした軸受を船尾管本体に圧入し、油によって冷却、潤滑する。船尾管には一般に船尾側船尾管軸受と船首側船尾管軸受を設ける。プロペラを支持する船尾側船尾管軸受の長さは、船舶機関規則などで定められている。船首側船尾管軸受は、一般に軸受としての役目よりも、プロペラ軸を船尾管に挿入する時のガイドの目的で装備する場合もある。また、軸系アライメント上設けない場合もある。
 
2)船尾管軸受
 船尾管軸受とは、船尾管内にあってプロペラ軸または、船尾管軸を支える軸受を言う。船尾管軸受は潤滑方式による海水潤滑軸受と油潤滑軸受に大別される。
(1)海水潤滑軸受
 海水潤滑軸受とは、海水(淡水)によって、潤滑を行う船尾管軸受で、軸受支面材(軸受材)として、リグナムバイタ、合成ゴム、合成樹脂などが使用される。
(1)リグナムバイタ軸受
 リグナムバイタは熱帯地方に成育する自然木で自己潤滑性に優れた軸受材である。リグナムバイタは海水に浸漬すると膨脹するので、装てん時、長手方向(軸方向)の伸びしろを軸受全長の1%程度見込む必要がある。3・24図に示すように、リグナムバイタ片の円周方向の分割数は1片の幅の寸法を考慮して半円周で奇数とし、垂直直下で合わせ目にならないようにする。また上半分の軸受面は板目、下半分は変形がきわめてすくない木口面とするようにリグナムバイタ片を使用する。軸受の長手方向は千鳥形状になるように配列するのが望ましい。軸受面に設ける長手方向の海水冷却みぞの断面形状は、摩耗により通過面積の急激な減少をさけるためUV形状を採用する。
 
3・24図 リグナムバイタの取付要領
(拡大画面:42KB)
 
 軸受摺動面への異物浸入を防止するには、艤装時に船尾管用の管系などは酸洗いを行なって、管内の付着部を完全に除去する。ゆえに、汚物などが浮遊している港湾、河川などを航行する船舶にあっては、リグナムバイタの摩耗がいちじるしく促進されるので、こし器を通した清浄な海水の強制供給が必要である。また、船尾管内への送水確認のため海水冷却管系にサイトグラスあるいは圧力計・流量計等の設置が望ましい。一般に供給冷却水量の目安としてつぎの式による。
給水量Q=(5〜5.5)×D2×10-3m3/h
D=プロペラ軸スリーブ径<35φcm
 リグナムバイタ支面材の場合の標準軸受すきまは3・1表の値とする。なお摩耗限度については3・2表に示すように船舶機関規則で定められている。
 
3・1表 標準軸受スキマの値(リグナムバイタ)
プロペラ軸の径 標準スキマ
120mm以下 0.4〜0.6mm
120mmをこえ230mm以下 0.6〜1.0mm
230mmをこえ305mm以下 1.0〜1.3mm
305mmをこえるもの 1.3mm
 
 
3・2表 船舶機関規則の磨耗限度
プロペラ軸の径 標準スキマ
120mm以下 4.5mm
120mmをこえ230mm以下 6mm
230mmをこえ305mm以下 8mm
305mmをこえるもの 9.5mm
 
(2)ゴム軸受
 ゴム軸受の構造はリグナムバイタ軸受と構造的に同じであるが、リグナムバイタの代わりに特殊合成ゴムを用いたもので、近年海水潤滑軸受材として普及してきた。
 ゴム軸受は青銅製ブッシュあるいは軽量、耐蝕およびゴムとの接着性がよいことから、硬化プラスチックのブッシュに特殊な接着剤を使用して、ゴムを強固に加硫接着したものを船尾管本体に圧入する。ゴム軸受に使用される合成ゴムの種類として、耐摩耗性、耐水性、耐油性などを考慮した、NBR(アクリル系)、CR(クロロプレン系)などがある。
 ゴム軸受の構造には、フルモールドタイプとセグメンタルタイプの2種類がある。3・25図に示すようにフルモールドタイプは軸方向に平行に設けた数本の海水冷却みぞを有する一体型ゴムをブッシュ(外筒)の内面に加硫接着させたもので、一般に広く採用されている。このフルモールドタイプのブッシュにはフランジ付きとフランジなしの2種類がある。セグメンタルタイプはブッシュの内面に長手方向に平行に設けたみぞに金属板とゴムを加硫接着させたストリップをはめこんだ形状のもので、隣り合うストリップ間のみぞに海水が供給される。この構造のものは、軸径の大きいものに適し、修理の際は消耗したストリップのみを換装すればよい利点がある。
 ゴム軸受の特長は軸の周速の高い場合、摩擦係数が小さいため、動力損失が少なく、ゴム自体が耐摩耗性にすぐれている。また船体変形による軸受の片当りを緩和できる。しかし軸受部の温度上昇は致命的な軸受損傷につながるので、冷却水の注水には十分留意しなければならない。ゴム軸受は水のないところでは、摩擦係数が極端に大きくなり発熱して焼付け現象を起すので、必ず給水を行ってから軸を回転させる心がけが必要である。
 ゴム軸受には充分なる潤滑冷却水量の供給が必要である。一般に供給冷却水量の目安としてつぎの式による。
給水量Q=(3〜3.5)D l/min
D=プロペラ軸スリーブ外径(cm)
ゴム軸受メーカが推奨するゴム軸受の標準スキマを3・3表に示す。また摩耗限度を3・4表に示す。
 
3・25図 ゴム軸受の構造
(拡大画面:33KB)
 
 
3・3表 ゴム軸受の標準スキマの値
軸径(mm) 標準スキマ(mm)
20〜40 0.2〜0.3
50〜95 0.3〜0.5
100〜150 0.4〜0.7
150〜175 0.5〜0.85
180〜245 0.6〜1.15
250〜265 0.7〜1.30
270〜315 0.8〜1.35
320〜355 0.9〜1.45
360〜405 1.0〜1.55
410〜445 1.1〜1.65
450〜495 1.1〜1.80
500以上 1.2〜2.0
 
 
3・4表 磨耗限度(ゴム軸受)
呼称軸受内径(mm) 摩耗限度(mm) 呼称軸受内径(mm) 摩耗限度(mm)
20〜35以下 1.5 168〜200以下 5
35〜50 2 200〜230 5.5
50〜70 2.5 230〜265 6
70〜85 3 265〜295 6.5
85〜100 3.5 295〜345 7
100〜135 4 345〜392 7.5
135〜165 4.5 392〜以上 8
 
(3)樹脂軸受
 樹脂軸受には、多種多様のものがあるがいずれも樹脂単独で用いられることは少なく、補強材や充填剤の添加が必要である。現在船尾管軸受として使用されているものには、フェノール樹脂に綿帆布やアスベストを入れ積層したもの、樹脂粉末を圧縮プレスしたテフロン系のものなどがある。樹脂軸受の構造としては、一体成形したものと、リグナムバイタ軸受と同じように縦方向(軸方向)に数個に分割したものを裏金内面に並べて使用しているものとがある。
 樹脂軸受の特徴として(1)成形性がよい。(2)自己潤滑性がよい。(3)耐食性にすぐれているなどがある。なお、樹脂軸受の場合も潤滑冷却水の供給が必要である。
(2)油潤滑軸受
 油潤滑軸受とは、潤滑油によって、潤滑を行う船尾管軸受けで、3・26図に示すような構造で、軸受材として、一般にホワイトメタルが使用される。
(1)ホワイトメタル軸受
 油潤滑船尾管軸受は鋳鉄製または、鋳鋼製ブッシュにホワイトメタルを内張りした軸受部分と封水封油装置から構成されている。軸受部分は油にて潤滑され、封水封油装置は、船尾管の船尾側端および船首側端にそれぞれボルト締めにて取り付けられ、海水の浸入を防止するとともに、油の漏洩を防ぐものである。
 船尾側および船首側軸受は鋳鉄製ブッシュにホワイトメタルを遠心鋳造法にて鋳込んだものがもっとも一般的である。軸受ブッシュの外周軸方向に上下左右4個所に油みぞを設け、船の吃水より3〜5m上に設置された重力タンクからの潤滑油はこれらの油みぞおよび水平位置に設けられた油穴を通って軸受面を潤滑する。
 ホワイトメタル軸受は軸受性能が非常に優れており、使用されるホワイトメタルの材料としては、JIS規格のWJ1、WJ2の錫基のものと、WJ7の鉛基のものが多い。WJ1、WJ2の錫基のものは耐食性、非焼付性、耐衝撃性、密着力などにおいてすぐれ、WJ7の鉛基のものは、安価であり、なじみ性が良好なのと海水が混入した時の焼付きが錫基のものより少ないなどの特徴がある。
 
3・26図 ホワイトメタル軸受の構造
 
 ホワイトメタル軸受の軸受スキマの目安を3・5表に示す。
 
3・5表 ホワイトメタル軸受のスキマ
軸系(mm) スキマ(mm)
101〜200 0.4〜0.5
201〜300 0.5〜0.6
301〜400 0.6〜0.7
401〜500 0.7〜0.8
501〜600 0.8〜0.9







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