3. 冷却水
3.1 水質に関する障害
冷却水の水質の良否によってディーゼル機関に及ぼす障害としては、主にスケールによるものと、腐食によるものがある。冷却水の水質と障害の関係を4・5表に示す。
ディーゼル機関のジャケット部には、一般的に電気化学的な腐食、キャビテーションが発生するが、これらは、冷却水中に添加剤を投入し、金属表面に安定した保護被膜を作ることにより防止できる。この添加剤には用途により、インヒビタとロングライフクーラントの2種類がある。
1)インヒビタ
防食、防錆を目的とし、凍結防止効果のない冷却水添加剤等よく使用される添加剤の種類について一般的な特徴や諸注意を下記する。
(1)亜硝酸塩系
従来より多くの製品が市販されているが、一般にそのままでは総理府令の排水基準(CODの項目)に合致しない場合が多く、ジ亜塩素酸ソーダ等で酸化した後投棄しなければならない。従って、こうした処理が不都合な場合には使用できない。
また、亜硝酸粉末は消防法上の危険物に指定されているため、指定数量以上の保管には届出が、また、危険物の取扱い者は免許が必要となる。具体的な数量は各銘柄の注記を参照のこと。
(2)リン酸塩系インヒビタ
投棄上の問題はないが、使用する水はアルカリ性であることが要求されるため使用範囲が制限される。
防食性能としてはアルミニウムに対する効果は少ない。
4・5表 冷却水の水質と障害の関係
項目 |
概要 |
障害との関連 |
濁度 |
濁りの程度を示す。 通常10を越えると汚れが目視出来る。 |
沈殿・腐食 |
PH |
PHが7で中性、7より小さいものを酸性、大きいものをアルカリ性という。 通常、天然水ではPHは6〜8である。 |
腐食 |
導電率 |
溶存イオンが多いと導電率が高くなり、水の腐食性が増す。 |
腐食 |
Mアルカリ度 (CaCO3) |
アルカリ度は一定のPHに達するまでに必要な酸の量をいい、Mアルカリ度(前アルカリ度)とPアルカリ度とに区別される。通常天然水においてはMアルカリ度のみ検出され、その主成分は重炭酸塩(HCO2)である。 |
腐食 |
全硬度(CaCO3) |
水中のカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの全量によって示される硬度。 |
スケールの主因 |
塩素イオン (C1−) |
水の腐食性を増大させる。 塩素イオンが500ppm以下を淡水という。 |
腐食 |
硫酸イオン (SO42−) |
Ca2+と結合してCaSO4のスケールを生成する。 水の固形物を増加する。 |
軟質スケール
沈殿・腐食 |
アンモニウムイオン (NH4+) |
クーラチューブ等の銅合金に対して応力腐食割れを起こす。 |
腐食 |
硫黄イオン (S2−) |
同上 |
腐食 |
硫化水素 (H2S) |
同上 |
腐食 |
全鉄 (Fe) |
0.3ppmを超えると沈殿物となって着色、スケールの原因となる。イオン交換樹脂に付着してその効果を低下させる。 |
着色 スケール |
マンガン (Mn) |
同上 |
着色 スケール |
シリカ (SiO2) |
Ca、Mgと結合して硬質のスケールとなる。 硬度の低い水においてはあまり問題とならない。 |
スケール |
遊離炭酸 (CO2) |
腐食の原因となる。 雨水には大気中のCO2が溶解し問題となる。 |
腐食 |
遊離塩素 (Cl2) |
激しい腐食を生じる。イオン交換樹脂の分解を促進する。微生物の除去には有効。 水道水には若干含まれている。 |
腐食 |
溶存酸素 (O2) |
腐食の原因となる。 |
腐食 |
全蒸発残留物 (全固形物) |
蒸発によって求めた不溶性物質の全量である。 |
沈積・腐食 |
全強熱残留分 |
全蒸発残留物を強熱(600°)した場合に残留する物質をいい、無機質がほとんどである。 |
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強熱減量 |
(全蒸発残留物)−(全強熱残留分)の差で有機物がほとんどである。 |
有機物量のチェック |
化学的酸素消費量 (COD) |
酸化剤で水中の被酸化性物資を酸化処理し、酸化剤がどの程度消費されるか推定するもので、おもに有機物、第一鉄等の還元性物質濃度を推定するのに用いられる。 |
有機物量のチェック |
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(3)ケイ酸塩系インヒビタ
投棄上の問題及び毒性や危険性はないので取扱い上の問題はない。
アルミニウムに対する防食性も十分である。
2)ロングライフクーラント
凍結防止を目的とし、防食、防錆効果のある冷却水添加剤で年間を通して使用出来るもの。エチレングリコールに防食・防錆剤を添加したものがほとんどである。
3)不凍液
凍結防止を目的とし、防食、防錆効果のない冷却水添加剤を不凍液という。
これに、防食・防錆添加剤を加える場合は添加剤メーカに混用が可能かどうか確認のこと。
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