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4)工事の見積・手配
 作成された作業要領にもとづき、下記の工数見積、必要部品の予測手配、原価算出、工事日程見積など、船主との打ち合わせのための資料をまとめる。
(1)工数見積
 作業要領により、各作業毎に、作業標準、過去の作業データ等をベースに工数を見積もり、本作業全体の工数を見積もる。見積精度を上げたり、効率よく行うためには作業標準の整備と、過去の実績データの整理保管が必要である。
(2)必要部品予測手配
 作業要領書、すなわち、調査データおよび検査データより事実を把握し、修理基準・整備基準に従って、あるいは、故障・事故の状況等に従って、交換が予測される部品を洗い出し、手配することが舶用機関整備士の重要な一つの役目である。また、より正確に予測することが、予定どおり、効率よく作業を進めることにつながる。従って、このノウハウ・技量を身につけるためには、事実にもとづく過去のデータ・実績をよく整理し、勉強することが早道である。
(3)原価算出
 作業要領書にもとづき、原価を算出しておく。
(4)工事日程見積
 作業要領書、見積工数、手配部品の納期、手持ち作業量、能力(人手)、作業場所、船主の希望などを勘案し、工事日程を見積もる。
(5)その他
 分解組立用工具、特にメーカの指定する専用工具の有無を確認し、もしない場合には同業者、メーカより借りるか購入手配をし、準備する必要がある。
 機関を船外に搬出する場合、クレーン車の手配をする。
 
5)工事内容の確認・合意(船主との打ち合わせ)
 以上のデータをもとに、船主と打ち合わせを行い、作成した作業要領書で工事作業の内容を明確に確認し、必要があれば修正し、確認する。
 また、納期、価格および有償無償の工事区分、検査対象船舶の場合は、その検査日程等を打ち合わせし合意決定する。
 なお、これら打ち合わせ事項については、すべての事項を織り込み、詳細に記録しておき、後日のトラブルをさけることが大切である。
 
6)整備・修理工事計画表の作成と検査申請
 合意にもとづき、作業を効率的に推進するために整備・修理工事計画表を作成し、進捗状況を、たえずチェックしていくことが重要である。
 整備・修理工事計画表の一例を2・10表に示す。
 また検査対象船舶の場合には、定期検査、中間検査、臨時検査に対応して、整備工場側の関係書類を作成し、船主の申請書類をとりまとめて、確定した検査日時で、検査機関に検査申請書類を提出するとともに、検査手順の打ち合わせを行い、確認しておくことが大切である。
 
7)整備・修理工事仕様書の作成
 作業の指示は明確にする必要がある。作業要領書の項目ごとに点検事項・計測事項・交換部品などを、作業者にわかりやすく、かつ、もれ落ちの無いように記入し、整備・修理工事仕様書を作成し、指示の徹底を図ることが大切である。この場合、人の配置(人選)、工事場所の選定(船内整備・修理、機関の船外搬出による工場整備・修理など)、および現場責任者を明確にし、特に現場責任者には作業の内容や重要事項の徹底を図ることが必要である。
 整備・修理工事仕様書については、チェック項目を設けておき、作業完了の都度、消し込みを行い「ミス」の無いよう配慮することも必要である。また仕様書の記載内容は、整備工場の規模や作業内容を考慮して実状に適したフォームにすることが望ましい。
 標準整備・修理工事仕様書の一例を2・11表、2・12表に示しているので、これらを参考にして実態にあった仕様書を作成すると良い。
 
8)整備シートの作成
 工事仕様書の項目ごとに、分解手順をまとめた整備シートを作成し、作業者が初めての機種でも、スムーズに作業ができるようにすることが必要である。整備シートができない場合には、少なくともその機種の整備解説書(マニュアル)を準備し、必要箇所をコピーするか、マークを付けて作業者が解るようにする必要がある。
 作業標準として、各項目ごとに整備シートを作成しておくとよい。従って、過去に作成した整備シート等を整理して作業標準としておくとよい。
 整備シートの一例を2・13表に示すのでこれを参考に自分のところにあった物を作成すると良い。
 
9)工事
 整備・修理工事仕様書によく目をとおし、作業内容を理解し、工事仕様書にしたがって作業を進める。
 また検査対象船舶かどうかにより、その作業の進め方、手順が異なるので注意が必要である。
(1)点検
 分解に先立ち、関連部所をよく点検し、作業要領書、工事仕様書と相違がないかチェックし、異なる点があればメモに残し、先に進むことが大切である。
 また故障修理工事の場合には、その部分の写真撮影をしておくことも大切である。
(2)分解洗浄
 工事仕様書の項目ごとに作業標準、整備シートにより注意深く点検しながら分解作業を進める。また分解作業中に工事仕様書に記載された項目以外の不具合箇所を発見した場合、その都度船主(必要があれば検査機関)と打ち合わせ、修理方針を決めて後日のトラブルを防止することが重要である。
 検査対象船舶の場合(定期検査、中間検査)には、次に該当する(主要点検)項目については、状況を記入する必要があるのでその点を十分頭に入れておくこと。(気付き事項はメモしておくとよい)
 主要点検項目(点検内容などについては工事仕様書及び整備シートを参照にして、もれのないようにすること)
(1)往復運動部(ピストン、連接棒、シリンダライナ)
(2)回転運動部(主軸受け、クランク軸 カム軸)
(3)シリンダカバー(シリンダカバー、吸・排気弁)
(4)燃料油系統(燃料噴射ポンプ、噴射弁、燃料油こし器、燃料フィードポンプ)
(5)潤滑油系統(潤滑油ポンプ、潤滑油こし器、潤滑油冷却器)
(6)冷却水系統(冷却水ポンプ、清水冷却器、防食亜鉛)
(7)調速装置(調速機)
(8)始動空気系統(始動弁、各種始動空気弁、始動空気分配弁、始動空気溜め)
(9)過給機系統(過給機、空気冷却器)
(10)動力伝達装置(クラッチ、減速逆転機、軸継ぎ手)
 分解した部品は、それぞれブロック別に分けて整理し、組立時にわからなくなることのないようにする。
 分解した部品を点検しやすいように洗浄する。洗浄の善し悪しが、後の点検に影響することを忘れずに、また部品の洗浄が大きな工数を占めるので、薬品、スチームなど省力化設備などを活用し、効率よく行うことが大切である。
(3)点検・計測・交換
(1)点検
 作業標準あるいは整備シートにしたがって、洗浄された部品を、まず外観の欠陥を、次の点に注意して点検する。異常があれば気付き事項をメモし、かつ、写真撮影をするとともにわかるように選別しておく。
注意点
(a)表面の状態
(b)破損の有無
(c)腐食の状態
  検査対象船舶の場合、上記の主要点検項目については2・14表 内燃機関の整備点検記録を利用し、その点検結果を表に記入する。また検査対象船舶でない場合でも、上記項目については、2・14表を活用して記入し、機関の履歴として残すことが重要である。
 機関主要部品のチェックポイントを2・15表に示す。
 故障修理の場合には、故障部品をはじめとして、その他の関連部品についても特に注意して点検をする必要がある。また必要に応じ写真撮影をしておくとよい。
 目視で発見できない傷や亀裂は、磁気探傷、あるいはカラーチェックの非破壊検査でチェックする必要がある。なお、クランク軸、連接棒等の鍛工品は磁気探傷でチェックするのが望ましい。
(2)計測
 工事仕様書(作業標準、整備シート)により各部品の計測を行い記録する。
 主要摺動部については、寸法計測結果より、総摩耗量、前回整備以降の摩耗量、偏摩耗あるいは異常摩耗の有無などをチェックし、記録しておくことが大切である。
 クランク軸、ピストン、シリンダライナ、連接棒等主要部品の計測個所については、2・16表〜 2・22表に示す。本様式を使用し、各部の寸法を計測・記録し、機関の履歴として保管しておくことが必要である。
(3)検査(受検)
 計測までおわった状態で、必要に応じデータを取りまとめ検査を受ける必要がある。
 また、故障による修理部品、あるいは定期検査、中間検査の結果、修理を必要とする部品が、機関の重要部分である場合は、必ず修理前に検査を受け、処置につき指示を受ける必要がある。
(4)部品交換
 点検、計測結果をふまえて、メーカごと、機種ごとに定められた整備基準、修理基準あるいは使用限度基準に照らして、限度を越えている部品については、修理するか新品の部品に交換する。また限度を超えていなくても、損傷、摩耗の程度によっては、次回整備(検査)までの使用条件や使用時間などを考慮して、交換すべきかどうかを判断する必要がある。このような判断が、舶用機関整備士にとって長い経験を必要とする重要なノウハウであり、経験工学といわれているゆえんである。今後は、常にデータベースで判断できるように、機関履歴簿、整備基準などの技術情報の収集、整理が、これからの整備にとって非常に重要となってくる。
(4)修理組立、再組立
 修理組立、再組立は分解と同じく、作業標準、整備シート(取扱説明書または整備解説書)にしたがって、適正な工具や専用(特殊)工具を使用し、部品の組忘れ、締め忘れなどの落ちのないことを確認し、摺動部には指定の潤滑油などを塗布し、ゴミに注意しながら一つ一つ確実に組み立てていくことが大切である。
 また工事仕様書で、その都度、消し込みをおこなうなど、チェックしながら組み立てていくことも重要である。
(5)調整運転(摺り合せ運転)
 組立完了後の調整運転で、しばしばトラブルを起こすことがある。これは始動前のチェックを省略したり怠った結果である。あるいは、摺り合わせ運転の不備によるものである。したがって、十分に組立後のチェックを行い、作業標準にしたがい、調整運転を行うことが大切である。
 各部の水漏れ、油もれを調べ、油圧、水圧、冷却水の出具合や各計器の作動を確認するとともに、異音、振動など異常がないかチェックする。また機関音や排気色、ミストガスの量に注意し異常の有無を確認する。







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