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第2章 整備工事
 舶用機関の整備業務は、定期的な整備業務と臨時の修理業務に大別され、いずれの場合も、一般に、2・1表の整備・修理工事のフローチャートに示されているような手順で、各項目の業務は、それぞれの担当部門によって行われる。
 舶用機関整備士の主な任務は、本章に記されている整備作業の実施である。そのうち、1級舶用機関整備士は、整備工事の事前打ち合わせに基づく作業要領書の作成から、作業完了報告書の作成・提出までを責任を持って遂行する者のための資格である。従って1級舶用機関整備士は、本章に述べられている整備工事の受注から、状況の調査、工事内容の確認、部品の見積・手配などの工事作業に至るまでの、すべての関連事項を承知し、必要事項については、打ち合わせに参画し、承認し、責任を持つことが期待される。
 ここに、1級舶用機関整備士に期待される業務内容を具体的に箇条書きにて示す。
(1)関連部門からの要請事項を勘案し、高度な技術・経験による適確な判断のもとに、工事仕様に基づいた整備業務を遂行する。
(2)整備工事の管理責任者との打ち合わせに基づき、必要に応じて、機関使用者側と折衝し、整備内容を検討し、工事費の見積を行い、及び法令に基づく検査等の関連事項を含めて、整備工事の計画立案を行い、並びに問題点を検討し、解決する。
(3)整備工事の関連データを記録・整理し、総合的な判断に基づき工事完了報告書を作成し、提出する。
(4)整備作業と関連設備の改善・改良に関する提案を行い、実行する。
(5)最新の関連情報を収集し、2・3級整備士を教育し、指導する。
 
1. 整備工事の手順と作業内容
1.1 整備・修理工事の手順
 受注から完了報告書作成までの流れを一例としてまとめると2・1表のようになる。
 
1.2 作業内容
1)整備・修理作業要領書の作成
 整備または修理作業を受注したら、船主からの条件を考慮しながら、船主・監督・機関長などから機関の状態をよく聴取し、かつ、2)項の実態調査のデータと3)項の現物の確認検査のデータをもとに、点検整備であればどこまで分解整備するか、予想される交換部品は何か、検査の有無とその範囲は、また故障修理であれば、調査結果より診断してその推定原因および対策をする必要の有無、どこまで整備をやるか等々を、船主と打ち合わせの上、整備・修理工事作業の内容を明確にした作業要領書を作成する。
 
2)実態調査
(1)使用条件
 機関長から機関の状態を聴取するとき、次の事項についても調査し、どんな負荷で、何時間、どんな使われ方をしていたかを十分把握することが必要である。
(1)機関の取扱状況
(2)総稼働時間および前回整備時よりの稼働時間
(3)使用回転速度と稼働形態
(4)プロペラマッチングの状態(固定ピッチの場合)
(5)可変ピッチプロペラの作動形態
(2)保守条件
 現状聴取のチェックポイントとして、異常温度、音、振動及び漏れの状況のほか、機関の履歴簿(今回までの整備状況、修理状況および部品の交換状況)をチェックしながら次の事項についても調査することが必要である。
(1)連接棒ボルトの使用(時間)状況
(2)連接棒ボルトの締め付け状態
(3)機関据付ボルトの締め付け状態
(4)ピストン周りの保守と整備状況
(5)吸・排気系統の保守と整備状況 
(6)起動空気系統の保守と整備状況
(7)起動電気系統の保守と整備状況
(8)クランク室過圧防止装置(逃がし弁)の保守と整備状況
(9)システム油、燃料油およびその系統などの管理状態
(10)シリンダ冷却水の管理状態
(11)カム軸駆動装置の作動状態
(12)燃料ポンプおよび吸排気弁駆動装置の作動状態
(13)燃料高圧管や油圧配管などの整備状況
(14)操縦装置の作動状態
(15)過給機軸受けの使用(時間)状態
(16)過給機の保守と整備状況
(17)弾性ゴム継手などの保守と整備状況
(18)ダンパ・バランサなどの防振装置の作動状況と保守・整備状況
(19)減速機や逆転機の作動状態と保守・整備状況
(20)可変ピッチプロペラの作動状態
(3)故障状況の確認
 機関長より故障(事故)状況を確認するとともに、事故の情報が入った段階で、できる範囲内の現状維持のための要領を、現場に指示することが重要である。また、事故の状況はできる限り細かく、かつ確実に把握してメモすることが大切である。例えば、現場に出向いたとき、故障部品が散らばっているからといってあわてて集めるのではなく、どんな部品が、どっちの方向に、どんな形で、どのようになっているかといった位置や距離の関係、破損、変形や異常の状況をメモすることが非常に重要で、故障の原因を突き止める一つの道しるべとなるはずである。
 このように事情聴取と現物の把握をきめ細かく行い、故障が摩耗、腐食、亀裂、振動、異常温度、変形、異物混入、および漏れなどによるものか、また、一次的なものか、二次的なものか判断することが重要である。
 
3)現物の確認検査
 2)項の実態調査を踏まえて、下記点検および計測を行い判断資料を集める。
(1)点検
 整備または修理前の状態を点検検査し、記録しておくことが大切である。例えば、油、水、ガス漏れの有無、ターニングの状況、噴射時期、バルブタイミング(弁隙)、潤滑油の汚れ具合、塗装の焦げ具合、各部締め付けボルトの弛みの有無等々。
 取扱説明書、整備解説書(マニュアル)、整備・修理基準、機関の履歴簿などを準備し、よく目をとおし、今回の作業に必要な専用工具の有無、注意しなければいけないことなどをチェックしておくことは、その後の作業をスムーズに進めることにつながる。
 小形漁船の場合には、その稼動状況(使用負荷の状況)を把握するために、2ヶ所の封印(燃料最大噴射量制限封印及び無負荷最高回転速度制限封印)が解除されていないことを確認すること。
(2)計測
 点検整備(定期検査・中間検査を含む)を行ない、故障の場合でも運転が可能であれば、航走運転を実施し、異常音、異常発熱、振動、漏れなどの有無をチェックするとともに、各回転速度(負荷)のときの、各部温度(機関室、排気ガス、冷却水、吸気、潤滑油、燃料油など)、排気色、各部圧力(給気、潤滑油、冷却水、クラッチ作動油・潤滑油、燃料油など)を計測し、2・23表に示すような運転成績表に記入して、陸上公試・海上公試時のデータと比較分析し、問題の有無を把握しておくことが重要である。往々にして、これを省略したために、後々、トラブルの原因になることがあるので注意すること。
 また、以上述べてきた整備・修理前の調査、検査結果を整備前の記録としてまとめておくことが大切である。
(3)検査の有無
 まず、検査対象船舶であるかどうかを確認する。検査対象船舶の整備の場合には、定期検査か、中間検査か、または通常の定期点検(一年点検、出漁前の点検など)であるのか、明確にしておくことが大切である。また故障修理の場合でも、その内容(クランク軸、連接棒、過給機など機関の主要部の変更)によっては、臨時検査の対象となるので注意すること。
 
2・1表 整備・修理工事手順
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