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3)実践漁船での信頼性確認
(1)実験船:実践漁船の概要
*船主船名:鳥取県境港市、牧野 良氏所属、第18漁栄丸、底引き漁船
*船体の大きさと船質:4.99トン型、FRP船
*船体の名称:ヤンマー船、BC−50F型
*主機関名:ヤンマーディーゼル(株)製、4HC30型、法30PS/2100rpm
*計画船速;11Knot/2100rpm
*実験日:平成13年8月2日
*実験場所:境港市中野港
(2)実践漁船での信頼性確認実験結果表
 
回数 計測距離m
発信機〜受信機
計測時の発信機の
状態と操作方法
船舶の状態
エンジン rpm
船舶停止
距離 m
エンジン停止
秒/操作総合結果
1 10 前向き、緊急ボタン 係船、アイドル 0.5/OK
2 100 前向き、緊急ボタン 走行中、600 約15 0.5/OK
3 100 前向き、緊急ボタン 走行中、1500 約40 0.5/OK
4 100 背向き、緊急ボタン 走行中、2300 約70 0.5/OK
5 20 乗組員が海中転落エンジン自動停止発信 実践走行中1500 約50順風 0.5/OK
 
(3)信頼性確認結果(評価)
*実験要領に基づいてエンジン停止実験と船体停止実験を実施した結果全ての実験でエンジンは停止した。
*エンジンは停止信号受信後確実に停止、船体もエンジン停止と共に船速が落ち後に停止した。
*特にこの実践実験においてはライフジャケットを着用した「仮想」乗組員が発信機を首に吊るし誤って艫から海中へ転落することの実演を取り入れたより実状に近く、また装置の基本動作、信頼性確認するための重要な実験を関係者の協力の下に実施する事が出来た。
*転落者は転落後1.5秒程度で頭から浮き上がり発信機アンテナが海面上に出てからエンジン停止信号発信、エンジン停止、船体も速度を落とし後停止した様(追風で移動)であった。
(4)実験状況のPHOTO
 
実践漁船実験船 準備中
 
実験に向かう
 
パトライト装備
 
乗組転落前、後
 
船体停止、自力帰船中
 
*実験の結果装置類の操作は、発信機の取り扱い方と表示の確認のしかたについて試作品では「馴れ不足と、表示ランプの鮮明度」から取り扱い上の不安もあったが量産品の実験から解消でき不安はなくなった。
*実験時に船体への追風も有りその勢いで船体はなかなか止まらなかった。
そんな中で船体は走行中とは逆方向を向いた(転落者の方向)状態になり船体もエンジンによる推進力がなければ、真直ぐ進まない事も知見した。
*転落した「仮想」乗組員はライフジャケットを着用して自力で泳ぎ自船に「かえろう」とするが泳ぎは難そうであり、船体が追風を受けて前進する傾向にあったため約10分程度の泳ぎではあったが自船になかなか泳ぎ着く事は出来なかった。
*緊急時には衣類を脱ぎ全力で泳がなければならない場合があることも考えられる。
*自力で自船への到着後、疲れた状態でも乗船出来る環境、例えば、舷側に足掛けも出来る縄梯子の常時装備は欠かせない。
*今回の信頼性の確認実践実験で誤作動もなく完全に基本的動作を満足した。
*普及時には利用者に充分な取扱い方法など習熟して頂くことが大切である。
*特に港内、峡水路、船舶の混み合った場所での取り扱いなど注意し装置装着による事故防止、予防も欠かせない。
*総合的に判断した結果、人命救助支援装置、エンジン非常停止装置「かえる」を完成品として取り扱い、多くの利用者に普及して頂き当該事故の予防支援に是非役立ててほしいと考える。
 
おわりに
 「かえる」は当該事故予防を支援出来る装置である。したがって、多くの漁業者に安心して操業をしていただき、多くのプレジャーボート利用者に安心してボーディングしていただくための機能を有しているのではないかと期待している。
 よりよい価格で、簡単に船体に設置出来る構造と、簡単に操作ができる装置であると判断する。さらに前述した様に信頼性確認実験結果において、かなり高い信頼であることが実証出来たと考える。しかし、信頼性の確認実験は何度やろうとも安易に信頼性ができたとは言えるものではない。
 したがって、この装置で人命が100%救えると安易に言えるものではない。なぜならば当該事故である乗船者が誤って転落した時の海況、転落状態、乗組員の体力と体調と助かろうとする気力、船体の装備品例えば、足を掛ける事の出来る縄ばしごを船体の舷側に常時垂らしておくなど当該事故予防には大切なことでありこれらが満足した時に人命を救える可能性は大きくなる。
 この様な状況及び装置であるが、万一に備え操業中、ボーディング時等には作業性のよい「救命胴衣の着用」により救助率は高くなる。その結果、最悪の事故は防止できることも大いに考えられる。
 又、想像するに自船走行中のスピードに、転落者がどれだけ早く泳いでも泳ぎ着くことは不可能であり、いずれ自船が見えなくなり意気消沈、気力も萎えることであろう。
 そこに何か浮く物、木片、浮環、救命胴衣などがあれば掴み乗る、又は着て浮く状態で救助を待ち帰船できる可能性はある。
 近くに自船があり乗れる事が出来るならそれが整備と機能を維持した「かえる」の基本動作であり自船を当該事故当事者のより近くでエンジンを止め、自船を停船させる事が期待できる装置でもある。
 近い将来より多くの利用者に普及されたなら、よりよい信頼性と利便性の高い装置の開発もできることの可能性もある。その時のステップにもしたいものである。
 開発後には人命救助の一役を、支援をと思う一心で苦節3年半を費やし漸くこの度開発完成させたベンチャー企業(株)ビッグ・エッグ社の企業独自のマーケティング、幅広い情報の収集、情報の交換など、その努力は大変だったと思う。
 好くぞ開発していただいた敬意を表し感謝したい。
 利用者に巾広く普及される事を願って開発企業へは普及促進が安易に出来る様な活動をする事をお願いし依頼した。
 普及には利用者が簡単に操作出来る様十分な取り扱い方法の習熟をしていただく事は欠かせない。普及には実験に携わった弊社舶用販売部門が推進する。
 特に事故時の当事者は気持ちが動転し且つ、疲れていると思う、この時の取り扱いだから、尚繰り返し繰り返しの訓練で事故時の対応が出来るまで徹底する必要がある。
 おわりに、装置の開発と商品化にあたり助言、情報の提供、資料の提供などに携わることが出来た者にとって完成された装置の実験立ち会いより基本的動作を満足したことと、多くの利用者へ普及され事故の当事者及び家族の方々と周囲の人を不幸にさせる様な事故がなくなることが出来るならばを念じてこの書の終わりにしたい。
 当該事故を発生させないことが最高に好いことであり記するまでもない。
 最後になるが、情報収集に開発に実験に多くの方たちに大変お世話になりました。この書をもって深く感謝致します。







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