5)ハンシンDX型可変ピッチプロペラ
阪神内燃機工業株式会社
1. 可変ピッチプロペラ
1.ハンシンDX形可変ピッチプロペラ
1991年にDX78N45形の初号機を開発し、その後現在までにDX形全シリーズで約120台を出荷し、高性能・高効率の省エネ・省力機器として高い評価を得ているハンシンDX形可変ピッチプロペラ(CPP)の特長を紹介します。
1)プロペラボス
・前身のCX形から翼根部形状・構造をコンパクト、シンプルにして剛性を上げながら、整備を容易するための改善を取り入れています。
・プロペラボス比を小さくして、CPPでは不可避的なプロペラ効率の低下を最小限に抑えています。
・翼根シールは異物の噛み込みに対して信頼性の高いOリング式とし、海水侵入を確実に防止しています。
2)変節装置
・変節油圧を上昇させてピストン直径を小さくし、よりコンパクトな寸法にしています。
・油圧ピストンのシールリングはOリングとバックアップリングを併用し、高い信頼性を確保しています。
・変節棒と油圧ピストンが容易に接続できる構造で、変節装置や追従装置をすべて組み立て調整したうえで納入するので、艤装工数が少なく、組み付け時のゴミの混入の防止と保守・整備の負担が軽減されます。
・給油箱が中間軸受けを兼ねており、据付時の芯出し作業が容易で、航走中の軸系の横振動を防止するメリットがあります。また、給油箱を油溜まり形状としているので、船体側にドレンタンクや汲み上げポンプの設置が不要です。給油箱に溜まった油は自動的にタンクユニットヘ汲み上げられます。
2. 可変ピッチプロペラの利点
1. 船尾・プロペラの仕様の種別
船尾・プロペラの仕様は、船舶の用途によって非常に重要な項目です。従って操船性の問題や、メンテナンスの問題などを充分検討の上、決定する必要があります。その種類と特長を下表に挙げています。
種類 |
概要 |
特長 |
自己逆転式 |
主機関が直接逆転する方式で、前進用カムと後進用カムを装備してカム軸を切り換えることにより逆転させる。 |
構造がシンプルである。逆転に切り換えるためには機関の停止を待つために、船体停止、後進までに一定の時間が必要である。 |
逆転機付 |
主機関は一定方向回転で、歯車を介してプロペラを逆転させる方式である。 |
歯車式逆転装置を装備し、機関の定格回転速度の1/2で逆転への切り換えが出来る。自己逆転式よりは短時間で逆転が可能である。 |
CPP付 |
主機関は一定方向回転で、プロペラの角度を変節させて、後進させる。 |
プロペラ翼の変節機構が必要である。定格回転での後進が可能であり、操船が早い。 |
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概要は上表の通りですが、以下に一般的なCPPの利点を中心に説明します。
2. 可変ピッチプロペラの特徴
可変ピッチプロペラ(CPP)には、次のような特徴があります。
固定ピッチプロペラ(FPP)と比較しながら説明します。
1)運航時の経済性が良い。・・・燃料の節約
2)運航の安全性が良い。・・・微速航海が容易
3)主機の維持費が少なくなる。・・・一定の回転速度で使用できるのでトラブルが減少し、メンテナンス費用の削減に貢献します。
1)燃料消費量が減少できます。
スケジュール運航において船速を保持する場合、載荷状態および気象・海象条件に見合った最適ピッチを使用できます。特に低負荷、減速運転時においても燃費の良い舶用負荷曲線上の馬力、回転速度を使用できることは燃料費の節約になります。
主機の出力と回転速度の関係は、載荷状態(船体抵抗の大小)によってCPPは実線、FPPは点線のように変化します。
主機関の効率は舶用負荷線上で使用するのが一番良くCPPは空船、満船いずれの状態でも舶用負荷ライン上を使用することができ、FPPに比べて同一出力で回転速度を小さく出来る分だけプロペラ効率が良くなり、結果として、燃料費の節約につながります。(約1%)
また、CPPの翼角制御に自動負荷制御装置(ALC)を採用すれば、自動的に主機関の負荷を舶用負荷線上に保つことができます。
CPP付の船はFPP付の船と比較して、空船で7%、満船で3%、平均で5%の省エネ効果があると言われてきましたが、実船の調査では1時間当たり燃料消費量で6〜8%、1マイル航走燃料消費量で5〜6%省エネ効果があったことを実船で確認しています。
2)主機能力を最大限発揮できます。
主機 より発電する場合(軸発時)、FPP付では最大の発電馬力分だけプロペラを軽く(小さく)してあります。そのため発電機使用馬力の小さい時や発電しない時は主機能力よりも、常に軽い力しか利用できないことになりますが、CPP付では軸発使用馬力以外の馬力は翼角を調整することにより、全てを推進力に使用できることから主機能力を最大限に発揮できることになり、船速面有利となります。
また、主機関を一定回転速度で翼角を制御して船速を調整できますので、発電機駆動装置にスリップ装置や定周波装置(周波数を一定に保つための装置)は不要になります。
3)微速運航が容易にできます。
CPP
CPPの場合
前進から後進まで連続してプロペラピッチが調整できるため、望み通りの超微速も可能です。
FPP
FPPの場合
主機の最低回転速度には限度があり、微速が必要な時は惰力を利用することになり、操船技術に頼ることになります。
最低回転速度は次のようになります。
4)微速運航時も軸発ができます。
主機関 側から動力を採取し発電(軸発)する場合、主機の使用できる最低回転速度はネジリ振動の影響からゴム継手を保護するため低回転域が常用禁止範囲となります。これは微速航行に必要な回転速度よりも高い回転速度(約0.45〜0.5N)になっています。
そのためFPPの船の場合は軸発をしながら出入港した時、スピードが早く微速航行出来ません。
尚、このケースでは出入港に軸発を使用しなくても主機関 側にゴム継手が装備されているためにねじり振動の条件は変わりませんので、低速回転域は使用できません。
CPPの場合には翼角を変えることで船速を自由に変化させることができるので、軸発を駆動しながらの微速航行ができるので、安全な出入港が可能です。
5)航海中の急停止性能が優れています。
CPPの場合、前進翼角最大から後進最大までの変節時間は約30秒であり、FPP船の後進操作に比較して非常に早い。従って、航海中の急淳止性能が優れていることになります。
例えば、同じ造船所で建造された699形タンカー船(LPP=72m、B=11.4m、D=5.3m、d=4,766m)で、主機1800PS×300rpmの場合(全速12.7kt)を比較します。
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CPP |
FPP |
後進発令から船体停止までに要した時間 |
3分9秒 |
3分34秒 |
後進発令から船体停止までの航走距離 |
474m |
733m |
このように船体停止距離が、CPP船はFPP船に対して、約65%となっています。
尚、最近の傾向として、船形改善によるスピードアップで、逆転機付FPPの場合、後進クラッチ嵌入時にエンストを起こす恐れがあるため、あまり急激な後進操作は難しい状況となっています。
6)主機関のトラブルを減らせます。
(1)主機関のトラブルは、回転速度の変動及び回転方向の切換に起因することが多いと言えます。つまり、主機関は充分に安全で、耐久性を考慮されていますが、発停の繰り返しや、クラッチ嵌入時に起こる急激な回転速度変化は部品の寿命に少なからぬ影響を与えます。
CPP付では、主機関の回転速度は一定にして、プロペラ翼角を変えることにより、船速の変更および前後進の切り換えを行うため問題はありませんが、FPP付機関のときは、船速の変更または前後進の切り換え時には、回転速度または回転方向の変更が必要なために、それだけ主機関には過酷な状況であると言えます。
(2)CPP付機関では、逆転時にクラッチ嵌脱が必要ないため回転速度の低下もなく、クラッチ嵌脱による過給機のサージングは発生はありません。
(3)CPP付機関では、プロペラピッチと回転速度を組合わせることによりレーシングによる負荷の急激な除去とトルクリッチの状態の運転を避けることができます。
(4)ドック前で船体の汚損が進むと船体抵抗の増加によりFPPでは主機に過負荷が掛かったり、過負荷を避けるために回転を下げた運転を余儀なくされることがありますが、CPPでは翼角調整で過負荷を回避できるので、主機関へ無理をかけることがありません。
(5)プロペラを損傷した場合、FPPでは完備品での交換となりますが、一翼だけの損傷の場合、CPPでは損傷したブレードだけの交換ができます。
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