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4 椎葉村における特産品を活用した地域振興の基本方針
(1)特産品を活用した活性化の目的
 特産品づくりは、地域経済の活性化をはじめ、地域のPR、イメージアップ、地域住民のやる気や生きがいの創出、地域文化の発展など、さまざまな目的で実施されており、成功している地域では、特産品づくりが、地域の基幹産業として機能し、地域経済の大きな牽引力となっている場合もある。
 しかし、本村の場合は、生産・販売面の制約条件が多いため(労働力の量・質の限界、生産体制の脆弱性、立地条件の制約があり、大量生産・販売型のものづくりが困難など)、特産品づくりが、直接的に地域経済への大きな活力や成果をもたらすことは実現性が乏しい。
 また、都市部や若い世代を中心に、本村の地域イメージが停滞(椎葉村を知らない、関心がないなど)しており、現在の地域産品づくりへの村民の取組が、市場、消費者の評価に必ずしも結びついておらず、生産活動を行うことが、反対に村民の自信喪失ややる気の停滞などをもたらしている。
 このため、特産品づくりの目的としては、地域経済への直接的な波及効果を重視するよりも、地場資源を最大限に活用した特産品づくりを通じて、本村のPR、イメージアップを図ること、生産環境に応じた高品質なモノづくりを徹底し、市場・消費者の一定の評価を獲得し、村民のやる気・自信を創出(または回復)することが重要である。
 
特産品を活用した地域活性化の目的
村外的視点
地場資源を活用した特産品づくりを通じ、新たな椎葉らしさ(イメージ)を村外に輸出する
村内的視点
市場に評価される高品質な特産品づくりを通じ、村民のやる気・自信を創出する
 
(2)特産品づくりにおける地場資源活用の手法と考え方
ア 活用手法
 地場資源を活用した地域産品づくり、特産品づくりを進めるための手法としては、地域のどのような資源をとりあげ、商品づくりの核(core)として商品コンセプトに反映させるか重要となってくる。地場資源を商品づくりのコンセプトに活用することにより、基幹(trunk)となる特産品、主力産品を開発し、さらに、基幹商品の知名度、販売力を挺子に、枝葉(branch)となる土産物品などの関連商品の開発を進めることが可能になる。
 
図表6−42 地場資源活用の考え方
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 地場資源を活用したコンセプト化には、全国の地域産品開発事例をみると、大きくは(1)地域イメージ活用型、(2)主力産品活用型、(3)伝統技術・芸能活用型、(4)歴史・伝説・民話活用型、(5)出身者・偉人・縁人活用型の5つがみられる。
 (1)地域イメージ活用型は地域が育んできたイメージ(大自然、城下町、温泉等)から、地域産品・特産品のコンセプトを確立し、商品を開発・販売する手法である。商品とともに地域イメージが発信されるため、地域のPR、イメージアップに貢献し、観光振興など地域経済への波及効果が大きい。事例としては、北海道の自然・大地をテーマにした季節野菜販売、沖縄の長寿・南国をテーマにした健康食品販売などの例がある。
 (2)主力産品活用型は、地域で生産している主力産品を活用し、主力産品自体の特産品化や、主力産品を核とした新たな地域産品・特産品を開発・販売する手法である。主力産品が一定の市場性(認知度、シェア、品質、販売網)を確保している場合は、特産品化、ブランド化が容易であり、また、食品系の特産品の場合は、多様な枝葉商品の開発も比較的容易に行える。代表的なものとして、北海道夕張のメロンと関連商品(加工品、菓子等)、千葉県富浦町の房州枇杷と関連商品(化粧品、菓子)などがある。
 (3)伝統技術・芸能活用型は、地域に伝わる技術・芸能を活用して地域産品・特産品を開発・販売する手法である。消費者に対しては、伝統技術・技法によって製造された高質・成熟度の高い商品性を訴求でき、高質・高級な商品づくりが可能である。代表的なものとしては、京都の漬物(千枚漬)、佐賀の陶磁器などがある。
 (4)歴史・伝説・民話活用型は、地域産品・特産品づくりの最も定番的な手法の一つであり、地域に伝わる歴史・伝説・民話などのストーリーをテーマに地域産品・特産品を開発・販売する手法である。ストーリーの知名度・周知度が高い場合は、親しみやすさや懐かしさが確保され、好感度の高い商品づくりが可能になるが、地元の特産品や伝統技術などとの複合化が容易でない場合は、土産物品(菓子等)、記念品(人形、装飾品等)といった低廉、低品質の商品に限定される。岡山県桃太郎をテーマにしたキビ団子及び関連商品などが代表的である。
 (5)出身者・偉人・縁人活用型は、地域の出身の有名人(文化人、スポーツ選手等)、偉人(学者、政治家、宗教家等)や地域との係わりの深い人物(作家)を核として地域産品、特産品を開発・販売する手法である。取り上げた人物が果たした社会的貢献(活動・業績、作品)やイメージから、特色のある商品性、好感度の高い商品性を訴求できる。物故者でない場合は、活用が困難(本人・家族の承諾、今後の名声維持の不透明性)な場合が少なくない。
 
図表6−43 タイプ別にみた地場資源活用の手法
核となる商品
コンセプトのタイプ
内容 事例 村の該当資源
地域イメージ活用型 ・大自然、温泉等の地域が育んできたイメージを核として地域産品・特産品を開発し、販売するタイプ 北海道
湯布院
山間地・森林
神話の村
水・源泉
・地域のPRに貢献するため、観光振興など地域経済への波及効果が大きい
・地域イメージが消費者と共有できる商品づくりが必要
主力産品活用型 ・地域の主力産品を活用し、主力産品自体の特産品化や、主力産品を核とした新たな地域産品・特産品を開発し、販売するタイプ 夕張メロン
甲府ブドウ
富浦のビワ
椎茸
トルコキキョウ
ホウレンソウ
・主力産品が一定の市場性(認知度、シェア、品質、販売網)を確保している場合は、特産品化が容易
・地域イメージとの一体化、市場性の確保等の条件を満たした主力産品でないと活用が困難
伝統技術・芸能活用型 ・地域に伝わる技術・芸能を核として地域産品を・特産品を開発し、販売するタイプ 有田焼
春慶塗
種子島の刃物
焼畑農法
神楽
山岳狩猟
・消費者に対して、伝統技術・芸能に支えられた質・成熟度の高い商品性を訴求でき、高質・高級な商品づくりが可能
・慨存の商品がある場合は、特産品化は容易
・既存の商品がない場合でも、伝統技術・芸能の価値が消費者に浸透していること、地元に正当な生産者を確保されていること、一定の市場性が確保されていること等の条件を満たしていれば、商品づくりが容易
・伝統技術・芸能の存在や価値が、消費者に認知されていない場合は、伝統技術自体のPRする必要がある
・伝統技術・芸能の正当な継承者、後継者がいない場合には、商品づくりが困難
歴史・伝説・民話活用型 ・地域に伝わる歴史・伝説・民話などのストーリーを核として地域産品・特産品を開発し、販売するタイプ 桃太郎
羽衣伝説
源義経
坂本竜馬
鶴富姫
那須大八郎
平家伝説
・親しみやすさや懐かしさがあるため、好感度の高い商品性を訴求できる
・歴史・伝説・民話のストーリーが消費者に浸透していることが必要
・高質・高級な商品づくりが困難で、土産物、記念品などの商品づくりに限定される
出身者・偉人・縁人活用型 ・出身者、偉人、縁人など、地域との係わりの深い人を核として地域産品、特産品を開発し、販売するタイプ 石原裕次郎
北原白秋
若山牧水
司馬遼太郎
柳田國男
吉川英治
・その人が果たした社会的貢献(活動・業績、作品)やイメージから、特色のある商品性、高感度の高い商品性を訴求できる
・一定の地位・名声等を確立した物故者でない場合は、活用が困難(本人の承諾、今後の名声の不透明性)
 
イ 椎葉村における地場資源活用の考え方
 地場資源活用の手法のうち、本村では、これまで「主力産品活用型」の取組(乾椎茸)、「歴史・伝説・民話活用型」の取組(平家伝説、鶴富姫、那須大八郎等)が行われてきた。
 しかし、本村の伝統的なブランド・イメージが衰退し、新たな椎葉ブランド・イメージの確立が求められている現在、これまでの椎茸、平家伝説にたよった地域産品、特産づくりでは、地域活性化に限界があると考えられる。このため、地域の資源を再点検・再評価し、その中から新たな本村の地域イメージ(椎葉らしさ)を抽出または創出し、それを商品づくりにおいて活用する「地域イメージ活用型」に転換することが必要である。「地域イメージ活用型」は、商品とともに本村の地域イメージを輸出することから、本村のPR効果が大きく、観光振興など他分野との連携・連動した取組により、一定の時間は要するものの、地域社会全体の活性化に寄与する。また、本村の地域イメージに合致した商品を産出することで、村民、生産者の商品に対する愛着、誇りの涵養、生産活動を通じた自信ややる気の創出に寄与することも期待できる。
 
図表6−44 地場資源の活用の考え方の転換
(拡大画面:81KB)
 
 「地域イメージ活用型」の導入による、地域社会全体の活性化のフローとしては、次頁図のとおりとなる。新たな地域イメージ(椎葉らしさ)を、商品(地域産品)とともに消費者に発信・提供し、商品が消費された後も地域イメージが消費者の意識・記憶に残り、それが新たな椎葉らしさの需要の喚起(椎葉への関心を涵養、観光需要の掘り起こし、他の地域産品購入等)させることに結びつける。
 
図表6−45 地域イメージの活用の考え方
(拡大画面:66KB)







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