3 推葉村の特産品開発の課題と方向性
(1)特産品開発の問題点
ア 人
(1)労働力人口の減少
過疎化・高齢化により、生産年齢人口、労働力人口が減少しており、地域産品の担い手である人及び人が受け継いできた伝統・技術が喪失しつつある。
(2)高齢化・後継者不足による生産活力の低下
生産の主要な担い手が、60代の高年齢者であり、また、農林業に代表されるように後継者不足が深刻化している。このため、新たな生産活動(農業面における新たな作物の導入、生産体制に対する設備投資、新しい理念等の確立等)への取組が希薄化しており、今後も生産活力が低下していくことが懸念される。
(3)産業間で中核的担い手の年齢層がアンバランス化
生産者の中核は、農林業では高年齢者が担っているのに対して、サービス業、公務では30〜50代が担っている。近年の情報化(IT等)、国際化(農産物等)が進む社会経済環境の中で、本村の主力である、農林業では、中核的担い手が高年齢者に偏重しているため、十分な対応ができない現状にある。
イ モノ(資源)
(1)歴史・文化資源の訴求力の低下
本村の歴史・文化資源のうち、「平家伝説」(鶴富姫、那須大八郎)、「ひえつき節」、「柳田國男」などは、これまで全国的に知名度が高く、本村のモノづくりのコンセプト・名称となり、本村の地域産品の販売の牽引力の一つとなってきた。高年齢者を中心にこれらの歴史・文化資源の周知度は依然として高く、現在もこうした商品づくりが行われているが、10〜30代といった若い世代に対する周知度は極めて低くなってきており、今後、商品の訴求力(買ってみたい、食べてみたい、身につけてみたい等)が低下することが考えられる。
図表6−38 椎葉村の知名度
資料: |
(株)リクルート「九州中央山地懸賞付アンケート調査結果報告書」(平成13年) |
(2)自然系資源の潜在化
本村の自然環境の豊かさを象徴する森、水源、大気(マイナスイオン)のイメージや自然系産物(林産物、水産物等)が、商品づくりに活かされず、潜在化している。
(3)伝統技術・芸能資源の未利用、未活用
伝統技術・技法は、長い歴史・時間の試練に耐えて確立されたものであり、その利活用はモノづくりの成熟度を高め、質の高い商品を提供することが可能になる。また、伝統芸能は、そこで使用される有形無形の関係物(舞踏、歌謡、装身具、食料等)が、日本的なモノ、地域的なモノの要素を兼ね備えたものが多く、その利活用が地域のイメージや伝統を伝える商品づくりに寄与する。本村では、全国的にみて優れた伝統技術・技法である焼畑農法や狩猟文化、伝統芸能である神楽など、豊富な伝統技術・芸能を保有している。しかし、これらを利活用した商品づくりが低調で、未利用・未活用のものも少なくない。
ウ 生産体制
(1)生産基盤が脆弱
農業・林業については、中山間地であり、また、過疎化・高齢化のため1戸当たりの耕地面積が狭小で、従事者数も少ない。また、農家の多くが自給的農家となっており、農業を主業・専業とする戸数は少ない。加工食品の担い手である加工グループも1団体当たりのメンバー数は10名以内の小単位な団体が多く、メンバーの高齢化、固定化も進んでいる。
(2)生産を支える企画・営業・販売体制の不備
個々の生産者、生産基盤が小単位であるため、消費者ニーズ、市場ニーズに対応した商品の企画・開発に係る人材、予算面に大きな制約を抱えている。また、優れた商品を生産した場合でも、人材、予算の制約に加え、本村の立地環境などから、営業・販売面において、十分な活動を行うことが困難になっている。
(3)IT等の情報化対応が不十分
立地など、本村の条件不利的な要素を解消するために、インターネット、携帯電話などのITを活用した商品PR(ホームページ、電子メール等)、販売(ネット販売、通信販売等)などは大きな効果をもたらすことが期待されるが、現状では、一部の生産者を除き、ほとんどの生産者が十分な情報化対策をとっていない。
(4)戦略的視点、体制の不備
本村の特産品づくり、地域産品づくりに対して、現在は、個々の生産者が個別にニーズなどを把握し、商品を開発・生産・販売している。このため、特産品、地域産品をまちづくり、観光振興などにどのように位置づけ、活用していくのかといった戦略的視点にたった体制づくりが十分に行われていない。
エ 特産品・地域産品
(1)ブランド特産品、宮崎県−特産品が不在
本村の特産品としては、乾椎茸、スギ・ヒノキなどの林産物、子牛などの畜産品などがあるが、現状では、全国レベルでみたトップブランド商品、県内のいわゆるナンバー1商品といったものがなく、関東、関西、福岡といった大都市、大消費地において十分な競争力をもった商品が不在となっている。
(2)消費者ニーズ、市場ニーズからの乖離
商品づくりの発想が、「売れるものを創る」ことよりも、「創れるもの売る」ことが優先されてきており、商品の品質をはじめ、デザイン、価格、分量などが消費者、市場から受け入れらない商品が少なくない。また、乾椎茸などの主力の特産品についても、「A is good. So buy it.」(良いものだから、買え)的な発想で販売されており、商品の情報化、付加価値化が乏しい。このため、現状では消費者ニーズ、市場ニーズから乖離し、競争力がいま一つの商品が多く、「価格が安くても売れない」、「良品でも売れない」といった問題がある。
(3)非食品系の特産品、地域産品の少なさ
本村の地域産品は、ほとんどが食品系で占められており、非食品の比重は低い。また、非食品の多くが、土産物品や記念品的なもので占められ、実用品などは少ない。
(2)地域振興における特産品開発の課題と方向性
ア 椎葉の生産性に応じた高品質性、希少性の追求へ
本村では、労働力人口の不足、生産基盤の限界など、大量生産・大量販売型のモノづくりが困難な生産環境にある。
本物志向、こだわり性といった、消費者・市場ニーズから、高品質な商品、希少性のある商品への期待や需要が高くなってきている。
徹底した商品の情報化により、商品の安全性、付加価値性を高めるとともに、商品を通じた地域や生産者のイメージ性を高めることが求められている。
本村の生産性の制約を利点としてとらえ、モノづくりに高品質性、希少性、情報性、イメージ性を追及していく。
図表6−38 生産性に応じたモノづくりへの移行
イ 新たな椎葉ブランド・イメージの確立へ
ひえつき節、平家伝説、柳田國男、吉川英治といったこれまでの本村の特産品づくりを支えたブランド・イメージが、21世紀になって衰退し、特産品づくりへの貢献度が低下している。
特産品づくりを通じた、椎葉ブランド・イメージの再構築を図り、人々の意識・記憶の中に、新しい椎葉ブランド・イメージを認識させる必要がある。
図表6−40 新たな椎葉ブランドイメージの再構築
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ウ 分散から集約へ
過疎化・高齢化が進む本村で、地場資源の枯渇化(担い手の枯渇、農林業等の創造基盤の枯渇)が進行している。
限られた地場資源(人、モノ、体制等)から特産品づくりを果たすため、村内に分散している活力を集約して効果的・効率的な特産品づくりを志向し、地場資源の枯渇化や活力低下を阻止することが必要となっている。
図表6−41 分散から集約の考え方
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