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3 椎葉村における観光の課題と方向性
(1)椎葉村の観光・交流の問題点
ア 地域資源の現状と問題点
 本村の観光に資する地域資源や、既存の観光施設の活用について問題点を整理する。
 
(ア)地域資源の発掘と活用
(1)既存観光地の椎葉のイメージ「秘境」とのギャップ
 本村に対して「秘境」というイメージを持って来村する人が多いようだが、来村者へのアンケートなどによると、実際「秘境」と感じる人はあまりいないようである。それは、村の代表的な観光資源が集まる上椎葉地区が、役場や商店街のある村の中心地であることによるものと思われる。しかし、村内には、通常の観光客が訪れないような、山中の集落や原生林地帯など、「秘境」といえるような地区があるものと思われる。
 
山の中の集落と散策路
 
(2)点在する魅力資源が地域のインパクトになっていない
 鹿野遊地区の十根川、大久保集落一帯には、重伝建の集落、神社、天然記念物のスギやヒノキなど多くの観光資源が点在している。さらに、そばなどの食事ができ、そば打ち体験もできる観光施設(大神館)も整備されている。このように、インパクトのある資源が集積しているにも関わらず、訪れる人は上椎葉地区に比べてかなり少ない。個々の資源が地域一体ではつながっておらず、魅力的な地区としてのイメージづくりや外部へのアピールが不足していることによるものといえる。
 
大久保集落の風景
十根川神社
 
(3)自然資源は豊富だが、どうふれあえばよいかわからない
 本村は九州中央山地の奥深くに位置し、3つの河川の源流であることからもわかるように、都市部では決してみることのできないような自然に覆われている。個別にみても、天然記念物の巨木、渓谷、原生林など本村ならではの自然も豊富である。しかし、キャンプ場や釣りなどを除けば、自然に対する知識や遊び方が伝わっていないので、本村の自然が都市住民をひきつけるまでには至っていない。
 
大河内付近の渓谷
 
(4)季節・時間・天候等の状況により変貌する自然の風景など、住民だけが知っている隠れた魅力があるのではないか
 村内は起伏に富んだ地形のため、人々が生活する場も、標高が高いところ、低いところ、日の当たるところ、影になるところなど、条件の異なる場所が多くある。また、季節による自然の移ろいや、時間帯や天候による自然のみえ方の違いなどもあるに違いない。そして、これらは毎日そこで生活する住民が最も良く知っている光景であり、それぞれにお気に入りのシーンがあるものと思われる。このような自然の光景は、都市住民を感動させるものなので、地域の魅力資源として住民が発信していく必要があるのではないか。
 
日向椎葉湖の夕日
 
(5)柳田國男も研究した、焼畑や狩猟を中心とした山村の生活文化が現在でも多く残っている
 本村は山村の民族文化の宝庫といわれ、かつて柳田國男の研究対象となった。現在でも焼畑・狩猟文化が多く継承されており、民俗学の専門家からも注目されている。一般の観光客は、民俗芸能博物館で様子をうかがいしることができるが、本物の村民の生活を体験できるような試みはあまり実施されていない。このような山村の生活文化体験では、都市の日常とはまったく違ったおもしろい体験ができると同時に、環境との共生の仕方を体感することができる。
 
(イ)観光施設の活用
(1)大神館は十根川集落一帯の観光拠点となりうる施設である
 大神館では、そばを中心とした食事ができる他、そば打ちや木工などの体験ができる施設が完備されている。しかし、利用者の伸び悩み、スタッフの人手不足などの問題を抱えている。体験内容に特徴を持たせていくと同時に、施設へ誘導するための工夫、サインの設置場所の工夫、自らの情報発信の強化などを図ることで、この地域の観光・交流の拠点として機能する潜在性をもっているものと思われる。
 
木工芸体験施設
大神館:道路から認識しにくい
 
(2)平家本陣は椎葉観光の拠点としての機能が不十分である
 平家本陣は、食事処、土産物店として利用され、椎葉観光の拠点として位置づけられているが、食事内容や、スタッフの対応不足など、本村の良さを来村者が体感できるような仕掛けにはなっていない。トンネルの開通により当施設へのアクセスはさらに向上することもあり、来村者への情報提供の拡充も含め、椎葉観光を凝縮させたような施設として機能を充実させていく必要がある。
 
平家本陣外観







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