<調査分析編>
第1章 住民及び市町村をめぐる今日的動向及び特性
−住民意識・生活をめぐって−
(1)住民の価値観・意識・行動及び地域社会の変化
日々の生活や身近な地域づくりにおいて、“物、量”の豊かさ“効率の良さ”などよりも“潤い”、“生きがい”、“美しさ”や“文化性”などに重きを置く考え方が、近年、多くの住民に定着しつつあります。また、住民の価値観や意識の多様化の進行は、集落など地域社会での生活や共同活動などを大きく変えてきております。
少子高齢化や若者の流出、職業の多様化などとあいまって、旧来からの伝統的・一枚岩的地域社会観が影を潜め、地域社会の求心力の低下が顕著になってきています。自らの生活の場である日常近隣地域において、様々な住民が協働して、地域のあるべき姿を描いたり、ソフト・ハードの共同活動に積極的に参加する風土が徐々に形骸化しております。
(2)“協働”志向の高まり
その促進の主要因が人口密集地域、過疎・高齢化地域など地域事情による差異があるものの、上述のような地域社会における住民相互の連携・協力などの形骸化が、高度経済成長期以降全国的に顕著になってきたことが地域社会をめぐる一つの特徴といえるでしょう。しかしながら、そうした潮流を致し方がないとしてただ傍観しているのでなく、地域・地区の明日のために何かしようという動きが各地で現れてきていることに留意する必要があります。形骸化の進行に立ち向かう活発な事例を多々見受けるようになってきたこと、このことが、身近な地域社会を語るうえでのいま一つの特徴といえます。
すなわち、地域社会の将来像や住民相互の連携・協力の仕組みなどの新たな構築の必要性が、各地で高まっています。こうした状況変化は、さらに、地域社会での住民活動の展開にも変化をもたらし、区・自治会、老人クラブなど一定の地域を基盤とした地縁・年齢集団による活動のみでなく、参加者の範囲や目的などが地域・地区に必ずしも限定されない様々な住民団体活動を盛んにしてきております。
そして、そうした各種の住民団体相互が、また、住民団体と市町村とが、連携・協力して、地域・地区の問題や課題に取り組んでいる事例が増えつつあります。このような協働による取組の増加傾向は、いずれ、住民自治の充実による地方分権の強化につながるものと期待できます。
そして、地域づくり・まちづくりでのそうした協働が各地で定着しつつあることを背景に、市町村行政担当者は、調整・コーディネイトの能力向上、リーダーシップの充実、情報検索・収集分析・提供などの能力向上等々を、今以上に求められることになります。
(3)自然との共生及び環境重視志向の高まり
地域の風景や生活の場を構成する一要素である山、河川、森林など、また、それらに生息する様々な動植物や天然資源など、自然環境や自然資源の再生・保全への関心が高まりをみせており、また、各地で取組が実践されております。すなわち、日々の生活の舞台である地域社会で“自然と共生”した生活をいかに築いていくか、このことに関し具体案が必要であるとする認識が深まりつつあります。
自然との共生は、居住環境・生活環境と自然との調和を図りつつ地域づくり・まちづくりに取り組むことです。また、同時に、資源循環型・省資源型社会の構築への取組ともいえます。“清潔さ”、“美しさ”、“快適さ”、“便利さ”、などを総合的に充足した生活環境を形成していくためには、自然や景観などと調和した施設整備や土地利用、環境美化、資源の再利用などへの対応の強化が、行政のみならず住民にも求められております。土地利用での用途地域指定がなされていない地域においては、規制と適切な誘導が大きな課題となっています。また、原色の看板など景観阻害要因を未然に除去するための取組にも、さらに力を入れる必要が生じております。
公立小中学校の週休二日制スタートの影響もあって、自然に恵まれた地域を訪れ、野外活動や学習などをする機会や場が増えつつあります。山麓や山間にある地域、海辺の地域などに位置する高齢・過疎化地域にとって、そうした自然学習・生活体験の場の整備は、たんに外部からの入り込み客の増加にとどまらないで、地域間交流による賑わいの創造や様々な領域での地域活性化にも寄与している事例が少なくありません。そうした地域においては、一度訪れた人が二度三度と繰り返し訪ねてきて、やがて第二のふるさとのような愛着をいだきたくなるような交流の仕掛けづくりが大切といえましょう。
(4)健康・福祉の風土づくり及び安全性志向の高まり
無農薬や有機栽培野菜の需要の高まりや体力づくりのための公私のスポーツ教室などへの参加者が増えつつあることなどにみられるように、今日、健康の維持・増進への個々人の関心が高まっています。生涯にわたる健康づくり推進にあたっては、住民個々人の自覚と実践がそもそも前提となりますが、少子高齢化の進行などを背景とし、医療・保健・福祉の連携強化への取組その他、行政の取組課題や担うべき役割は今後ともますます大きくなると思われます。
子育て支援、バリアフリーの(障壁のない)まちづくり、低所得者支援、障害者や高齢者の自立及び社会参加支援、要介護高齢者支援、様々な差別問題への対応その他、すべての住民の生活の充実すなわち福祉の充実をめぐっても、今日なお課題が山積してます。少子高齢化の進行、地域経済の低迷、地域社会の変容、道路や公共的建築物の整備状況などの実情を踏まえつつ、ともに支え合い助け合う福祉の風土づくりに、住民と行政とがよりいっそう連携・協力して取り組むことを求められております。
生命、財産の安全、このことが生活の大前提であることはいうまでもありません。したがって、市町村は、今後とも引き続き、防災、防犯、交通安全について、住民の理解・関心の拡充を図っていくとともに、関係機関・団体との連携・協力のさらなる充実に取り組む必要があります。
(5)賑わいと活力創出への模索
二次産業をはじめとする産業の空洞化、農林業その他一次産業の低迷など、全国的に、各地の経済情勢は厳しいままにあり、新たな展望を切り開くことが容易でないまま推移せざるをえない状況におかれております。こうした状況が、とくに、山間や離島などの小規模町村において、働く場の減少に伴う若者流出などによる人口減少・過疎化に拍車をかけています。このことが、近隣住民相互の交流の機会を減少させ、先に(2)で述べた意味での地域社会の形骸化や停滞を今日まで促進してきました。
また、大規模小売店の進出や消費行動の変化などにより、旧来からの商店街を構成する個店の多くが、後継者難、営業意欲の低下、経営危機などの状況にあります。このため、たんに購買目的のみでなく、人々の出会い・交流の場・まちの“へそ”としての機能も担っていた商店街の機能は、地方小規模町村では消滅しつつあるといっても過言でないでしょう。
地域経済活動の低迷や深刻化は全地球的な経済の動きや規制緩和の流れを背景としているため、個々の市町村独自さらには都道府県独自での有効な対応策の確立は期待しがたいと思われます。とはいいつつも、仕事の機会や場が少なくなることは地域の将来にますます暗い影を投げかけることになり、また、まちのへそがなくなることは住民生活に様々な問題を生みだす可能性が大きいのも事実です。
今日、地域社会を基盤とし、住民が生産、流通、販売などを担い、地域の実情や生活実態を踏まえた小規模な事業(このことは、一般に、コミュニティビジネスと呼ばれております)の展開が各地で模索され、実践されてきております。すなわち、高齢化(介護・家事援助・移送・配食など)、少子化(子育て・家事援助など)、自然及び人文資源(特産品の加工販売・観光・交流・農業支援など)その他、自らの地域の実情をにらみつつ、事業参加者の意欲や希望を勘案しながら、事業展開がなされています。さらに、高齢化の進行とともに、高齢者の社会参加・生きがい対策としての事業展開事例も増えつつあります。
購買のみでなく余暇娯楽・交流などの機能を担ってきた商店街の再生・賑わいの復活については、本来、小売り・飲食業などの個店の経営改善がまず第一歩となります。衰退しつつある小規模商店街では、とかく、事業者としての自覚や主体性を棚上げにしたまま、行政頼み一辺倒の無責任な姿勢に陥ったままの事例をしばしば見受けます。だが、先に述べたような状況からして、事業者の努力のみでは限界があると思われます。したがって、かつてのようにまちのへそ・まちの顔として再生を果たすためには、購買以外の目的で様々な人々がそこを訪れる機能(例えば生涯学習やスポーツ・レクリエーションなどの機能)を商店街に併置する取組が有効でありましょう。そして、さらにより可能性があると思われるいま一つの取組方向は、既存の商店街から離れて立地し賑わっている大規模小売店などの周辺での新たな“へそ”ゾーンの形成です。すなわち、今日の消費者ニ一ズや消費行動を考慮すると、一定のゾーンに小売業などの集積を進め、ワンストップ型に近い形態を目指すほうが、住民の利便の向上やまちの賑わいを取り戻すうえで、実現可能性が高いのではないでしょうか。
|