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(6)生活交通の確保への取組の増加
 規制緩和の一環として、昨年、公共交通の需給規制が撤廃され、公共交通としての路線バスについても、新たな進出や撤退が自由になりました。この結果、各地で、既存の路線の廃止や短縮などが相次ぐ事態がうまれています。自家用車の普及率が高まっているといえども、一家に何台もあるというわけではないのですから、バス路線がなくなることにより、まず、日中を地域で過ごすことが多い高齢者や幼い子どもを持つ母親などの生活に大きな影響を及ぼしつつあります。また、高齢化や過疎が顕著でかつ集落が広範な地域に分布しているところでは、集落の存亡にも関わりかねない深刻な問題になってきています。
 そうした事態に対応すべく、高齢者その他歩行に不自由な人々の利用や環境に配慮した車体を用いて、直営あるいは委託により、バス運行に取り組んでいる市町村が増えております。しかしながら、住民の生活行動やニ一ズの的確な把握・分析をもとに、生活交通対策に取り組まざるをえない地域がさらに増えることが見込まれます。
 そして、同時に、鉄道の駅舎、バスの停留所、街路などのバリアフリーの推進、夜道の暗さ対策(街灯の設置促進)などにも、今後さらに取り組む必要があります。
 
(7)情報化社会への対応充実の高まり
 今日のIT(情報通信技術)のめまぐるしい発達、とくにインターネットとマルチメディア(文字・動画・静止画・音などの複数のモードがデジタル技術により一つのメディアに融合されること)の進展・普及は、企業活動のみでなく、住民や行政にとっても、大きな影響を与えつつありますし、新たな変革の促進要因となっております。
 市町村でのITの活用は、個々の住民、地域社会、企業などによる取組と連動して検討、実施されてこそ、そして、同時に、行政サービスの対象であるそれらの日々の営みや活動に敏感に対応できる仕組みづくりに力を入れることが大切です。市町村の都合やニーズのみに基づく一方的な整備・活用では、効果に限界があります。
 ここで以下に、今日の情報化社会状況をいかに捉えるべきか、そしてそのことが地方自治そのものや市町村経営変革への可能性をどの程度秘めているか、変革のヒントとしていかなることを示唆しつつあるか、これらを考えてみることにします。
 情報化社会をいかなる状況として理解すべきかを考える際のポイントは、ITの発達がもたらしている利便性・効率性・省力といった面にのみ目を奪われてはならない点にあります。例えていうなら、駕籠(かご)、人力車、馬車、タクシー・バスといった乗り物の発達(蒸気機関車から新幹線も同様)について、高速化や便利さの向上といった交通手段の発達面からのみでなく、そのことが社会をどのように変えてきたか、社会の変化をどのように促進してきたかという視点を併せ持つべきであるということです。すなわち、ITを効率化や省力化のツール(道具)としてのみ捉えるのでなく、それが公共や民間(個々の住民も含まれる)の活動や仕事の仕方そのものを変えつつあることに注目しなければなりません。市町村についても、事務・事業展開や政策・施策形成のための新たな仕組みの構築が、ITの整備・活用の焦点となりつつあります。すなわち、市町村の役割・機能のあり方が変容する(変容しつつある)ところに、まず、情報化社会状況の特徴があることを確認すべきでしょう。
 また、情報化社会の進展は、住民の価値観や意識・行動を大きく変えるきっかけになると思われますし、“公共の概念”そのものを変化させていくことにも繋がると思われます。郵便事業の民営化論議のように、従来は行政が担うことに何の疑問も持たれなかったことについて、民営化への模索がなされつつある今日の状況は、行政のあり方や守備範囲についての見直し気運のあらわれといえます。やがては、地方自治の基本的なあり方そのものの観点から、行政とは何か、公共とは何かについて、問い直し、考えを再構築する必要性がさらに高まることでしょう。
(8)人材育成・確保の活発化
 少子高齢化、情報化、国際化の進展などのもと社会経済環境がめまぐるしく変化している今日、人材の育成・確保の優劣が将来の地域間格差に確実に直結するという認識が各地で定着しております。すなわち、内外の人材の育成・確保及びその利・活用の仕組み・体制が、地域の将来を左右することになるといってもさしつかえないでしょう。
 少子化による子どもの人数の減少は、子ども同士の交流機会の減少をもたらし、すこやかでたくましい成長を図るうえで、様々な影響を投げかけております。また、核家族化の進行は、子育て家庭からの様々な期待や要望を市町村に持ち込んでおります。このような状況において、家庭、地域社会、学校それぞれの場で、地域の明日を担う子どもやその家庭への対応をいかに図るかが大きな課題となっています。そして、同時に、主体性や自己責任に溢れた自律的住民がまずあってからの公的サービスであることからして、子育て中や子育て予備軍世代に対する啓発活動の充実が不可欠であるという認識も広まりつつあります。
 また、余暇時間の増加や再教育・研修機会への要望の高まり、元気な高齢者人口の増加などは、趣味・娯楽、技術・語学、歴史・文化、ボランティア活動、スポーツ・レクリエーション活動など多岐にわたり、学習・体験さらには交流のための機会や場の提供・確保を、様々な世代が市町村に期待、要望するようになってきております。今日各地で、地域づくりは人づくりからという認識のもと、教室・講座の開催、情報提供や指導・相談活動、拠点となる施設整備などの取組がなされております。しかしながら、現状では、住民のそうした旺盛な学習・活動意欲が、地域づくり・まちづくり活動の起爆剤となるまでに至っていない事例が多いことは否めません。このことは、住民・住民団体との協働による地域形成を推進していくうえでの今日的課題となっているといえます。
 さらに、人材の育成・確保に関しては、先に述べた情報化社会との関連で、次のことに留意すべきです。すなわち、パソコンなどの情報機器に通じているとともに情報化社会全般を広く理解し応用・工夫できる人材の育成・確保への取組が市町村にとって大きな課題である点です。このことをなおざりにしたままでいると、機器やそのネットワークの整備のみで終わり、収集・加工・発信・活用する情報の中身にうといままに、また、政策・施策形成能力が貧しいままに推移してしまうでしょう。情報化への取組の気運、人材の育成・確保、基盤整備などについての力の注ぎ方の差が、行政サービスの質・量のみならず、住民との協働による地域づくりの成果についても、地域間格差を広げていくことになるでしょう。
 
(9)住民対応変革の促進−情報公開−
 今日、事務・事業のみならず政策・施策形成のプロセスまで幅広く「住民に説明する責務」(説明責任)を有することに関しての認識が、多くの市町村で深まってきております。住民意識・ニーズの多様化・分散化などの進行が顕著な今日、説明責任は、いっそう重みを増していくと思われます。そして、情報公開制度は、説明責任をまっとうするために、重要かつ不可欠な役割を担っていると考えるべきです。
 総務省による調査結果をみると、平成14年(2002年)4月1日現在、都道府県・市区町村(3,288)のうち情報公開条例(要綱等も含む)が制定済みなのは2,669団体・制定率81.2%となっております(条例制定のみをみると、都道府県・特別区100%、市99.4%、町80.0%、村61.2%)。このように、多くの市町村が、住民参加の推進、政治・行政への理解や関心の拡充、ガラス張りの運営などを目指して、情報公開制度を設けています。制度設置のそうした目的からして、まさに地方自治の本旨にのっとった制度といえるでしょう。なお、住民の「知る権利」については、このことについて憲法上明文の規定がないこともあって、法的にも、学説的にも未確立の権利といわざるをえないので、そのことを明記している条例はまだまだ少数派にとどまっております。けれども、実際の運用で、制度の基底にある理念としてそれを位置づけ、尊重する流れが定着しつつあると思われます。
 しかし、制度運営の現実をみますと、建前と本音との落差が少なからず現れております。今日なお、秘密主義的体質から抜けきれないで、行政にとって都合の悪い情報は住民に隠したまま推移してしまうといった残念な事例を多々みうけます。今後は、文書情報や防災無線などを利用してのお知らせ的情報などの提供にとどまることなく、IT活用による様々なメディアを用いての情報提供の多様化及び拡充、住民との直接対話の機会の拡大などに取り組むことにより、説明責任を十分に果たせるように努める必要があると思われます。







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