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第5章 今後の取組のあり方
 全国の都市における地域と高等教育機関との連携・協働の取組事例などに関する今回の検討から改めて明らかになったことは、これからの時代に大学などの存立基盤を充実させていくためには、大学入学の適齢人口のみを入学対象や受入れ対象とした教育や専門研究を実施するだけでなく、大学などが立地している地域の市民や産業、行政の活動状況や課題状況に対する感度を高め、積極的にその解決に向けて地域と関わり、評価を受けていくことが社会的に要請されてきているということである。
 今回取り上げた取組の中にも、地域の諸課題に対して本来強みとする人材(教員や学生)や情報集積、施設などを動員して、原因の探求や解決の糸口を見い出すための研究企画を提示し、あるいは、地域の市民各層の生涯学習や健康づくり、地域活動などに対して施設や学習機会、人材育成機会を提供している事例があった。
 これらの事例では、大学などが地域の市民や事業者、団体、行政から、地域課題などに応えてくれる「ソリューション資源(課題の解決資源)」として信任を受け、頼られており、このような大学などにおいて、その組織、施設、人は、その地域の中に溶け込み、その都市の重要な機能の一部となっている。
 大学の地域におけるこのような取組は、ひいてはその大学のブランドとなり、また、大切な「地域資産」として価値が認知されることによって、学生や教員の教育研究活動の環境づくりに対しても、地域がいっそう力強いサポーターとなることが期待できる。また、大学などが、自らの資源を活用して地域と連携・協働のもと、市民が求める多様なニーズに応えられる参加・利用機会や場の創設、運営を行うことにより、大学の財政的な存立基盤の充実に対しても好循環が期待できるようになると考えられる。
 ただし、いうまでもないことではあるが、地域側はあくまでも大学の自治や自主性の尊重を第一義とすべきであり、一方、大学などは地域とのパートナーシップに基づく「大学経営」という視点をいっそう強く発揮できる体制づくりを進めることが重要である。
 
1. 連携・協働の基本的方向
 以上の検討結果を踏まえ、今後、日立市を中心とする地域が、地域に立地している大学などと連携・協働し、地域経済や市民生活をいっそう向上させる地域活性化に取組むため、どのような事業や取組の方向性が有望なのかを検討した。
 なお、本節で検討する内容は、本圏域の現状、地域活性化の主な課題状況を踏まえた上での検討を基本としており、その実現可能性が当面は低いと思われるものであっても、全国的な取組事例の動向や今後の中長期的な展望においては本地域でも新たな展開が可能になったり、外部環境の変化などにより対応が求められてくる可能性が高い連携・協働の取組については、できるだけ幅広く提起することに努めた。
 
(1)大筋の方向性
 第1章および2章では、日立市を中心とした周辺圏域の今後の地域活性化に向けた今後の場や機会づくり、ノウハウや人材づくりのテーマの方向性を整理した。
 
図表5−1 日立市における今後の人的資源の育成の方向性
方向性の柱 具休的例
I. 市民生活の適応力向上
 地域の市民各層の多様な生涯学習意欲や学習課題に適確に応える資源と内容の提供
○シニア層(ほぼ60歳以上の層)をはじめとする、楽しみ・教養としての学習意欲、杜会参加や杜会貢献意欲に応える学習機会の提供
○新たな国際環境や社会情勢変化に適確に主体的に対応していくための学習機会の提供、ホスピタリティ(迎え入れ)意識の醸成
○障害者や要介護層、女性などの自立やエンパワーメント権利擁護の向上のための学習機会への参加
II. 新規事業の起業力向上
 多様な雇用機会、新企業創出のための起業化支援、新規技術開発の支援人材、ノウハウの提供や蓄積
○企業の新規事業展開や新製品開発と市場化、経営の高度化、市場開拓など経営課題への助言・指導、ノウハウ供与、市場調査や開発などの共同実施
○成長事業分野の新規開拓のベンチャー精神を発揮した起業家の育成と成長の支援
○「市民起業による」多様で継続的なコミュニティビジネス(NP0を含め)の創出と成長の支援
III. 職業キャリア適応力向上
 特に勤労現役世代の職業関連に関わる学習資源と内容の提供
○継続的なリカレント教育機会の提供
○職業キャリアの再設計や転換に伴って必要となる学習機会の提供
IV. 学生の人材力向上
 学生教育の一環としての地域での実務体験参加の機会の提供
○高校生などの学習意欲の支援や進路指導の一環としての大学などの協力や参加(大学教員の出張講義、大学講義への聴講参加など)
○一般企業や団体、行政などでのインターンシップ
○各実務のフィールド現場における実習
○教育現場におけるアシスタント参加
V. 地域保健福祉活動の立上げ・参加力向上
 地域の保険福祉活動、まちづくりのボランティアの担い手・人材の参加や育成
○各地域活動現場などにおけるボランティア活動参加
○保健福祉に関する先進情報などの提供、相談やカウセリング活動
 
 これらのテーマの内容は突き詰めると「今後の日立市の市民生活の向上や地域活性化を図るには、どんな人づくりが求められているか。」というテーマに帰着する。この「人づくり」に焦点をあて、図表5−1の基本的な方向性を抽出した。以下順にみてみよう。







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