「I. 市民生活の適応力向上」
地域の市民各層の多様な生涯学習意欲や学習課題に適確に応える資源と内容の提供は、シニア層や障害者、女性などのノーマライゼーションやエンパワーメント、社会参加・貢献意欲などの観点から、学習意欲が高まってきている中で求められている生涯学習資源の提供である。ボランティアとしての研鑚や、より高度なボランティアの知識や技術を得たいという意欲を持つ市民層に応えられる学習機会提供の必要性も高まっている。
また、シニア層を中心に「道具的な手段としての」学習・教育資源ではなく、「楽しみとしての・教養」を習得したいという意欲・ニーズも、今後の高齢化の進展の中で欠くことができない要素である。また、高校生の学習意欲に対応する大学などの協力や連携も今後ますます重要になってくるだろう。
市民の国際化への適応、迎え入れる文化の醸成に関しては、2章でも触れたが、現在、日立市に隣接する東海村に「大強度陽子加速器計画」が構想されており、日立市圏域にも国際的な研究者及びその家族などの訪問や滞在が増加してくると考えられる。この動きがもたらす地域経済効果や社会基盤整備の新規需要、子弟教育を含めた各種教育文化・生活利便機能の需要が見込まれるものであり、市民生活の国際化に対応した個々の市民サイドのホスピタリティの向上育成といったことも、生涯学習活動の新たな対応すべき課題となってきている。
「II. 新規事業の起業力向上」
多様な雇用機会、新企業創出のための起業化支援、新規技術開発の支援人材、ノウハウの提供、蓄積については、従来からの企業や事業者の経営力向上や新規事業や製品開発、市場開拓の課題に対する専門的な支援がある。特に工業セクターでは、従来から茨城大学工学部における資源との連携・協働が行われ実績を積み重ねてきたが、新規創業のベンチャービジネスの創業支援を含め、いっそう活発な取組が期待されている。
また、最近の市民生活向上、地域活性化の戦略的手法として着目されてきているのは、市民自らの起業化と継続的事業展開による地域活性化課題の解消である。これには市民NPOやワーカーズコレクティヴなども含めて一般に「コミュニティビジネス」と総称され、今まさに横浜や福岡、その他各地の生活経済担当部局やまちづくり担当部局などで試行され始めた枠組みである。
今後、各地の市民によるまちづくり、地域福祉基盤の向上には欠くことができない、学生、障害者、シニア層、女性をはじめとする人材の社会参加機会や「仕事」を創出するという視点が重要である。このような市民が主体となった事業の担い手となるために必要な経営や事業化のノウハウ習得を養成支援する仕組みづくりは、今後の都市づくりの重点施策の一つとなってこよう。
「III. 職業キャリア適応力向上」
特に勤労者の職業関連に関わる学習資源と内容のニーズは、3つに大別できる。第一のニーズは、労働市場における競争力を高め通用性を向上させるための職業能力の向上に関するものである。第二のニーズは、企業や就労環境変化に伴って業務の遂行上不断に習得が必要な実務知識やノウハウに関するものである。第三は、企業などにおける業務再構築や新規事業展開などに伴う転職や転業にも柔軟に対応できる職業能力や資格、ノウハウの獲得に関するものである。厳しい経済情勢に置かれている現代の地域社会にあって、まさに緊急で重要な対応課題となっている。
「IV. 学生の人材力向上」
大学における学生教育の一環として増加している、「地域での実務体験参加の機会の提供」には2種類ある。その第一は、ここ10年急速に普及してきた「学生のインターンシップ制」の大学の取組に対する地域サイドの協力である。
この制度は大学からみると、学生の実社会の就業経験という教育の一環であるが、同時に新規学生確保の有力な仕組みでもあり、地域にとっては、地元の大学などの輩出する人材育成への参加貢献、人材発掘の契機ともなりうる。広汎な地域の企業・団体の意識喚起や啓発が求められている。
第二は、保健・福祉・医療をはじめとする、特定の専門・技能分野の専門的人材の養成輩出機関である大学に焦点をあてた場合、専門家人材としての育成に現場・フィールドでの実習は不可欠となっている。一方、地域からみるとその受入れと育成への協力は、ひいては地域における専門家人材の受入れという効果となって還元されるものであるが、実習成果の評価、その他、受入れ体制などの面では課題があることも事実である。
「V. 地域保健福祉活動の立上げ・参加力向上」
地域の保健福祉活動、福祉のまちづくり活動などへのボランティアの担い手・人材の参加や輩出は、2000年前後に実施された全国あげての社会福祉基礎構造改革で要請された「地域福祉活動の推進、地域福祉文化づくり」から導き出される課題である。
特に、きめ細かな小地域ごとの防犯を含めた「安全安心の住民同士の相互支援体制づくり」には、児童、シニア世代、事業者、行政など横断的でパートナーシップに基づく協力と連携が求められている。この推進のためには、従来の行政スタッフだけへの依存ではなく、市民各層のボランティア参加による、地域の福祉や活性化といった課題への取組の支援や助長がぜひとも必要である。
このテーマ分野のそれぞれについて、さらに(2)以降で具体的に検討してみる。事業や取組は、下記の図表5-2のとおり、(1)大学などが地域に資源を提供(人からみると「参加」)して実施するもの、(2)地域の組織や団体・グループが大学などに保有資源を提供(同「参加」)して実施するものがある。事例分析からも明らかなとおり、実際の取組においては、地域と大学など双方が資源を出し合ったり、一方からの資源の提供を促したり助長するために、もう一方側が、参加しやすい環境・舞台づくりを行うなどの経過をたどることが多い。
図表5−2 地域と大学の連携・協働の取組のメニューの方向性(俯瞰図)
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