(5)課題別の政策過程
以下では、問1で各々の地方自治体が重要であると挙げた領域の政策が、どのような過程を経てゆくのかを分析する。対象となる政策領域は、先に挙げた15の課題となっている。これらの課題に対して第1位から第3位までのいずれかの順位で重要であると回答した地方自治体をプールし、これを分析の対象とすることによって、課題ごとの政策過程の特性を探り、その類型化を図っている。
具体的には、課題を発見する際の主要な情報源は何であったのか、さらに、どのような調整コストがかかったのか、また、具体的にどのような対応策を講じたのか、さらには、その過程における問題点と結果の評価といった点をアンケート調査をもとに分析する。
(1)情報源
問2においては、どのような情報源から当該の政策課題を認識するようになったかをたずねている。具体的には、(1)担当部局の職員、(2)財政部局の職員、(3)企画担当部局の職員、(4)住民の要望、(5)地元財界人の要請、(6)議員の要請、(7)新聞、雑誌などの報道、(8)首長の指示、(9)都道府県からの指示、(10)自治省からの指示、(11)その他国の機関からの指示、の11の選択肢の中から1つを選択し、回答してもらった。
この情報源については、二つの軸に沿って区分することが可能である。第一の軸は、その情報源が行政組織内部に位置する主体によるものであるのか、それとも組織の外部に位置する主体によるものであるのかを区分する軸である。第二の軸は、この主体が行政の側に位置するのか、それとも議員などの政治の側に位置するのかという点を区分するものである。
この二つの軸を組み合わせた場合、政策課題を認識する契機となった情報源について4つの類型を提示することが可能である。
第一は、組織内部の行政主体であり、(1)担当部局、(2)財政部局、(3)企画部局が、これに当たる。
第二は、組織内部の政治的な主体であり、(8)首長がこれに当たる。
第三は、組織の外に位置する行政主体であり、(9)都道府県、(10)自治省、(11)中央省庁の関係機関がこの類型に位置する。
第四は、組織外部の政治的な主体であり、(4)住民、(5)地元財界、(6)地元選出の議員、(7)新聞雑誌がここに位置する。
問1で分析した地方自治体における主要な課題としてあげた15の政策領域のうち、その情報源として最も挙げられることの多かったものを中心に判断して、4つの情報源の類型に位置づけることができる。この政策課題ごとの情報源は、 図表2−2−17に示されるとおりである。
図2−2−17においては、政策領域をその行政一政治に関する軸と、内部−外部に関する軸によって2次元に配置したものを示している。
分権、福祉、広域行政は、外部の行政主体によって提示された政策課題であると認識されている。これに対して、行政改革、財政改革などは、内部の行政主体が主要な課題認識の情報源として位置づけられている。
他方、交通、教育、環境等は、外部的な情報源であるが、政治的主体による提示が増大している。これに対して、過疎対策、景気雇用、情報といった産業に関わる政策領域については、政治的な主体による提示が多いが、地域内部の主体によることが示されている。
これより、財政や行政改革など組織改革に関わる課題については、行政主体を情報源として認識されることが多いことがわかる。逆に、土木や農林水産業など事業を多く含む政策領域においては、その課題を認識する際の情報源としては、政治的な主体に発するものが多いことが、見て取ることができる。
(2)対応策の作成方法
問3は、課題に対応するための案の策定方法について質問している。課題に対してどのような対応をしたのか、(1)過去の対応策の修正、(2)他団体と同様の対応、(3)独自の対応策、(4)都道府県及び国の助言、(5)シンクタンク等の利用、(6)状況を見守る、の6つの対応の在り方から1つを選択し、回答してもらっている。
この対応策の作成に関しても、2つの軸によって各課題を位置づけることが可能である。第一の軸は、課題に対する対応策が、組織内部で作成されたのか、それとも外部主体によっているのかに関するものである。ここでは(1)過去の修正、(2)類似団体の模倣、(3)独自の対応の3つの選択肢に回答した割合をもちいて、内部度に関する位置づけをしている。
第二の軸は、対応の独自性に関わるものである。すなわち、新規に対応を見出そうとしているのか、それとも既存の対応案を加工して対応を図るのかという点である。個々では、(3)独自の対応と(5)シンクタンクなどの利用の2つの選択肢を選んだ割合を用いて、独自度に関する位置づけを行っている。この2つの軸に沿って、15の政策課題を位置づけた図が、 図表2−2−18である。
まず第一に、都市計画や防災といった計画の策定を必要とする政策領域においては、外部の主体を利用しつつ、独自の対応を図ろうとする傾向が強い。
これに対して、分権、福祉、広域行政という領域においては、対応策の作成において、都道府県や国の関係機関などの外部的な主体による助言を受け入れ、また、その独自性も必ずしも高いものとは感じられてはいない。
これに対して、行政改革や情報政策、教育、また、過疎対策や景気雇用といった地域産業に関わる政策領域においては、必ずしも独自の対応が中心的となっているわけではないが、自治体内部においてその対応策が作成されるという傾向が、 図に示されている。
(3)合意調達コスト
問4では、対応策を決定する際に、最も苦労した点はどのようなことであるかを尋ねている。具体的には、合意を調達する際の調整において、どこがネックとなったのかを(1)担当部局内、(2)総務・財政部局、(3)議会、(4)関係住民、(5)関係市町村、(6)国、都道府県、(7)首長、(8)職員組合を対象として、この中の1つを選択し、回答することを求めている。
この合意調達のコストに関しても問2の分析と同様に、2つの軸の上に位置づけることが可能である。
第一は、調整の障害となった地点が、組織内部に位置するのかそれとも外部に位置するのかに関する軸である。ここでは、(1)担当部局内の調整、(2)総務・財政部局との調整、(7)首長との調整の3つの選択肢のいずれかを選んだ割合によってこれを捉えている。
第二は、調整の障害となった地点が、行政主体であるのか、それとも政治的な主体であるのかに関する軸である。(1)担当部局、(2)総務・財政部局、(5)関係市町村、(6)国、都道府県、の3つの選択肢のいずれかを選んだ割合によって、各課題を位置づけている。この内部度と行政度の2つの軸によって各課題を位置づけた図が、 図表2−2−19である。
第一に、分権、財政、行政改革といった課題については、調整における主要な障害は、内部の行政主体となっている。これらの障害を取り除くことが、この改革に関わる争点の主要な調整コストを形成している。
第二に、この対極に、都市計画、農林水産業、環境、交通政策が位置している。これらの政策においては、外部の政治主体との間の調整が主要な障害点を構成している。
第三に、福祉、医療政策、教育といった社会保障関係の課題、及び景気雇用、過疎対策などの産業政策に関しては、この2つの課題群の中間に位置している。
(4)対応手段
認識された政策課題に対してどのような手段を用いて対応を図っているのかを問5では尋ねている。ここでは、(1)制度改正、(2)予算措置、(3)組織変更、(4)人事配置、(5)従来通り、の5つの手段に関して、それぞれ、この手段を選択したか、否かを複数選択可能な形で、回答してもらっている。( 図表2−2−20)
第一に、分権、情報政策、行政改革といった課題については、制度改正によって対応する割合が高い。
これに対して、第二に、過疎対策や景気・雇用対策、さらに農林水産業といった経済産業政策については、予算措置もしくは、従来通りの対応がなされており、制度的な革新は進んではいない。
第三に、福祉政策や保健医療といった社会保障政策については、組織変更や人事配置の変更によって対応されており、人的なリソースの組み替えが主要な手段として用いられていることが見て取れる。
(5)事後的な評価
問6では、重要と認識された政策課題に対して対応策を実施した後、どのような評価を下しているかを「完全に意図したとおりの成果が上がっている」から「意図したとおりの成果が全く上がっていない」までの4点評価で尋ねている。
第一に、防災や福祉、保健医療といった課題については、比較的意図したとおりの結果がでているという自己評価をしている。
これに対して、第二に、過疎対策や景気・雇用政策及び農林水産業といった地域経済の活性化に関わる政策課題については、逆に、十分な成果を得ていないという評価をしている自治体が多い。地方自治体が、経済政策の主体としては十分に機能していないという役割の限界を示しているともいえよう。
第三に、財政、行政改革、といった課題の事後評価については、この中間的な位置を占めている。
(6)実施上の問題点
問7では、対応策の実施に際して、主としてどのような問題があったかを尋ねている。ここでは、(1)適正な制度・法令が整備されていない、(2)十分な財源が確保されていない、(3)適切な組織体制が整備されていない、(4)適切な人材を得ることができない、(5)時間的な制約、(6)関係者の協力が得られない、の6つの問題点の中から、該当するものを複数選択可能な形で、回答してもらった。( 図表2−2−22)
第一に、過疎対策、景気・雇用対策、及び農林水産業といった地域経済の活性化に関する課題については、財源不足と組織体制の不備が主要な問題点としてあげられている。
これに対して、第二に、福祉や、保健医療といった社会保障に関わる課題については、むしろ時間的な制約が主要な問題点としてあげられている。
第三に、都市計画や交通といった計画に関わる課題は、関係者の協力が十分に得られていないことが主要な問題点としてあげられる傾向がある。
(7)地方自治体における政策過程の類型
以上、15の政策課題に対して、各々その情報源、対応策の作成、合意調達のコスト、対応手段の内容、事後的な評価、対応における問題点について見てきた。この分析から地方自治体の政策過程に関して4つの類型を提示することが可能である。
第1の類型は、分権、情報、広域行政といった課題から構成される類型であり、国や都道府県などの上部機関から対応を迫られることによって、政策過程が動き出すものである。この類型に属する課題に関しては、制度的な改正を通じて対応が行われる。また、事後的な評価は一般に高い。問題としては、主として時間的な制約が挙げられている。
第2の類型は、財政や行政改革といった改革を主要な課題とするものであり、この類型においては、内部的な情報源からその課題の認識が始まる。また、その対応策については、予算措置や組織改編などを主として行われるが、内部部局との調整過程が主要な障害点となっている。この類型に属する課題の対応については、必ずしも高い自己評価を与えているわけではない。
第3は、過疎対策や景気・雇用、さらには農林水産業といった地域経済の活性化を主とした目的とする政策課題が属する類型である。これらの課題は、首長が主として課題設定を行い、行政が動き出す。また、対応策も独自策を打ち出すべく、行政内部においていくつかの案の作成が試みられるというものである。しかしながら、事後的な評価は低く、財源不足などによって十分な対応ができていないと感じられている政策課題群でもある。
第4は、都市計画、交通、防災などの計画策定を中心とした政策課題が位置する類
型である。これは、主として組織の外に属する政治的な主体が情報源となっている。また、住民や関係団体などの合意調達コストの高さが、主要な障害となっている。広い、ネットワーク形成を必要とする政策群である。しかしながら、調整不足などが行政側の対応における問題として指摘されることが多いが、一般には、その対応に対する自己評価は高い。
以上の4つの類型は、下の表に集約される。
図表2−2−23自治体の政策過程の類型
|
1 |
2 |
3 |
4 |
政策課題 |
分権、情報 福祉、広域 保健医療 教育 |
財政 行革 |
過疎、景気 農水 |
都市計画 交通、防災 環境 |
フィルター |
組織要因 |
資源要因 |
政治要因 社会要因 |
資源要因 社会要因 |
情報源 |
外部行政型 |
内部行政型 |
内部政治型 |
外部政治型 |
案の作成 |
外部模倣型 |
内部模倣型 |
内部独自型 |
外部独自型 |
合意調達 コスト |
行政中心型 |
内部部局型 |
内部政治型 |
外部政治型 |
対応策 |
制度改正 |
予算・組織 |
予算・人事 |
予算・組織 |
事後評価 |
高 |
低 |
低 |
高 |
問題点 |
時間的制約 |
財源・組織 |
財源 |
調整 |
|
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