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(4)政策課題のフィルター
 自治体における政策課題の設定に関する研究は、決して多くはない。自治体における政策形成といった過程と比較すると、この領域にスポットライトが当たることは少なかった。しかしながら、自治体の対応すべき課題として認識され、組織の経路にこれがのることによって、初めて、具体的な対応策の検討が行われ、政策の形成が行われる。その意味では、どのような解決策を地方自治体が選択するのかということよりも、何が対応を必要としている課題であり、何が対応を先延ばしにしてよいと判断するのかという点を分ける課題設定の機能の方が、社会経済に対してより広範な影響を与えうる。組織において顕在化と潜在化との間を仕切る過程が、ここで分析の対象としている課題設定という過程である。
 また、政策の執行といった画一的な対応が迫られる過程と異なり、何が各組織にとって重要な課題として認識されるのかは、組織ごとにより大きな差異を生じさせていると考えられる。その点で、この課題設定という過程は、組織内部のインフォーマルな構造によって規定される部分が大きいのではないかと考えられる。
 以下では、地方自治体において何が重要な課題として認識されているのか、また、この認識の違いがどのような特性によって規定されているのかの分析を試みる。具体的には、各自治体に対して、現在重要と考えている政策領域をたずね、その反応を分析の対象としている。
 各自治体の企画担当部局が重要と考えている課題を質問したところ、第一には、福祉が挙げられた。これに、財政、行政改革、環境という順番で続く。福祉という課題は、介護保険が導入されたこともあり、高齢者対策が大きな課題として共有されていたことから理解しうる。他に重要視された課題の多くは、行政内部の管理に関わる事項が多く、政治的要素を多大に含む個別の領域は、あまり、課題として認識されていない傾向がある。
 次に、これらの重要だと認識されている課題の選択に、どのような要因が影響しているのかの分析を試みる。質問において重要と思われる政策領域を第1位から第3位まで順位付けてたずねている。ここでは、選択肢が1つずつ抜けるかたちで多項ロジットに前提される選択過程が3回繰り返されていると仮定することができる。この統計モデルを推定した結果が、図表2−2−16である。
 
 第一に、政治的な要因に関しては、首長の任期が長い自治体ほど、分権改革や教育を対応すべき課題としてあげる傾向が強まる。また、首長の支持母体が自民党であり、保守的な傾向が強い場合には、過疎問題を重要な政策課題として取り上げる傾向が強まる。しかしながら、全体として見た場合、政治的な要因は、自治体組織の政策課題の選択を強く規定するものではない。
 第二に、人口の増加率が高い自治体においては、福祉、環境、交通、都市、教育といった政策領域を重要と認識する傾向が強まる。他方で、過疎という課題に対しては選択する傾向が弱まる。
 第三に、自治体組織の資源に関する変数も影響している。組織の規模が拡大する場合には、行政改革、都市問題、景気対策、といった課題を重視するのに対して、過疎問題を選択する傾向は弱まる。また、自治体の財政力が高くなり、財政的なスラックスが生じる場合、環境、交通問題、都市問題といった政策課題を対応が必要な課題として認識する傾向が強まるのに対して、過疎、保健、農林水産業に対してはその傾向が弱まる。社会経済的なニーズは、自治体組織における政策課題の選択に影響を及ぼしていることが理解される。
 第四に、自治体組織のインフォーマルな構造が、政策課題のフィルターとして機能していることが示されている。まず、組織内部における影響力が不均一に分布している組織においては、行政改革、環境、都市問題といった課題は、選択されない傾向にある。他方、その能力の分布が不均一である場合には、福祉や教育といった課題は重視される傾向があるのに対して、地方分権といった課題はあまり重視されなくなる。
 ここに示されるように、行政改革や地方分権といった課題は、リーダーシップ型の組織構造を持つ組織よりも、むしろ均一な構造を持った組織においてより重要と認識されている。
 また、その全体としての水準については、能力が高いと評価している組織においては、福祉、保健、情報といった政策領域を重視する傾向があるのに対して、教育については逆の反応が見られる。
ヒューマン・サービスに関する専門職という点では、同様の性質を持つ福祉、保健、教育という政策に対しても、その認識は同一のものではない。
 以上の分析を集約すると、第一に、各政策課題毎に規定する要因はかなりの違いを見せている。また、第二に、政治的な要因については、決して規定力が高いとはいえない。第三に、政策課題の認識については、社会経済的なニーズと行政資源の持つ役割が大きい。
 第四に、インフォーマルな組織構造も政策課題の認識を大きく規定している。この構造がフィルターとして作用していることがわかる。







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