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(3)組織構造
 各地方自治体の一般的な行政運営に関して、3つの問いを問うている。
 第一は、政策サイクルを構成する(1)課題の発見、(2)対応策の立案、(3)関係者との調整、(4)執行、(5)評価の5つの過程に関して、その対応をたずねたものである。各自治体におけるこれらの5つの過程の行政上の対応について、十分から不十分までの5段階での評価を問うている。
 政策サイクルを構成するこれらの5つの過程のうち、調整に関する過程が最も十分な対応が行われていると評価されている。これに続いて、対応策の執行、課題の発見が並ぶ。これに対して、対応策の立案に関しては他の過程と比較して、十分な対応が行われていると回答する比率は減少する。最も不十分と考えられているのは、対応後の評価という過程である。
 第二に、組織の決定における各アクターの意思決定における関与のレベルについて問うている。ここでは、首長、議会、担当部局、財政部局、企画部局、職員組合の6つのアクターを取り上げ、このアクターの自治体の意思決定における一般的な関与の度合いについて、「ない」というものから「かなりある」の5段階の評価で尋ねている。
 その結果、最も関与のレベルの高いアクターは首長となっており、これに担当部局、財政部局が続く。さらに、議会、企画部局と続き、最も関与のレベルの低いと評価されているのが、職員組合である。
第三に組織内部の各アクターの対応力について、問うている。
 その結果、最も対応力が高いと考えられているのが首長であり、これに議会、財政部局、担当部局、企画部局という順番で評価されている。
 以下では、政策サイクルを構成する過程に対する評価、組織活動に関与するアクターの関与の度合い、及び組織アクターの対応力に影響する要因を抽出することを試みる。各自治体のこれらの項目に対する反応を従属変数として、各自治体の政治、経済、社会、及び組織に関わる一連の変数を独立変数として、その説明力を分析し検証する。
 
(1)政策サイクルの各段階とその対応力
 第一に、政策サイクルを構成する課題設定、対応策の立案、調整、執行、評価の5つの過程ごとの5点評価を従属変数として、各々順序付きプロビット分析を行った。ただし、これらの5つの順序つきプロビット分析を個別に行うのではなく、各々の過程の5点評価を分ける分割点は全て共通する同一の値と前提して、分析を行っている。これは、調査票の構成から、この5つの過程ごとの評価が共通のスケールの中で行われていると仮定することがより自然であると考えられるからである。(分析結果は、本章文末の図表2−2−10を参照。以下同様)
 
 第一に、首長と議会の関係が政治的に同一の方向であり、自治体を取り巻く政治環境が安定的である場合には、対応策の執行や評価といった政策サイクルの後方の過程に対する取り組みが良好と評価される傾向がある。
 第二に、自治体の置かれた人口増減率や生産労働人口率などの社会経済的な要因や、団体特性などは、これらの過程に対する取り組みの違いには、あまり影響をしない。すなわち、自治体が直面するニーズによってこれらの政策サイクルごとの対応が変化するわけではない。
 第三に、自治体組織の規模が、政策サイクルの各過程についての評価に影響していることが分かる。すなわち、組織の規模が拡大するにつれて、課題設定や対応策の策定といった前段階の過程に対する対応力が増大すると考えられている。
 組織規模の拡大は、社会経済的な課題を適切に把握する認識能力を拡大するとともに、これに対する解決案を作成する問題解決能力を向上させるのである。
 
(2)自治体の各アクターと政策決定への関与
 次に、自治体の政策決定に関わるアクターの関与水準について、同様の順序つきプロビット分析を行った。自治体における各アクターの決定への関与は、あるアクターの関与が増大すると他のアクターの関与が減少するというようなゼロサムの関係ではない。この場合も、各アクター毎に分割点が異なるのではなく、共通しているものと仮定して分析を行っている。(図表2−2−11
 
 第一の結果として、地方自治体の組織の規模が拡大するほど、より多くのアクターが決定に関与してくるという点を指摘することができる。
 組織規模の拡大は、組織内部の政策過程の多元化を促す。より多くのアクターが、一つの政策決定に関与し、その潜在的な多様性が増大するのである。
 第二に、財政力指数が高まり、地方自治体の資源的状況が向上すると、財政部局および企画部局といった組織の調整を担当する部局の関与は減少する。
逆に、資源的な制約が厳しい場合ほど、これらの調整部局の決定への関与は強まる。
 第三に、議会と首長の政治イデオロギーが同一であったり、また、首長の任期が長いといった政治的な変数の変化は、首長の関与を増大させる方向へと作用する。
他方で、他のアクターについては、このような政治的な要因の変化は大きな影響を及ぼすものではない。
 
(3)各アクターの対応能力
 さらに、各アクターの能力に関する分析へ移る。ここでも同様に、分割点を共有する形での順序付きのプロビット分析を行っている。(図表2−2−12
 
 第一に、議会と首長の政治イデオロギーが同一であり、また、首長の任期が長いという政治的な安定性が確保されている自治体においては、全体としてどのアクターも十分な活動を行っているという評価を得る傾向が強い。
 第二に、組織の規模が拡大するほど、より活動に対する評価が高い。この規模の規定力が決定的である。
 組織規模の拡大は、アクターが多元化するだけではなく、個々のアクターの活動能力も拡大する。より高い活動力を持ったより多くのアクターが、政策過程へと関与する。
 以上、自治体組織における政策サイクル、アクターの関与のレベル、能力などについては、一般的にいって、社会経済からの直接的な影響力を抽出することはできない。権力構造や能力といった、このような組織内部のインフォーマルな組成については、社会の側からのニーズによって左右されるものではなく、組織の規模や財政状況といった資源によって影響を受けている。
 
(4)自治体内部における影響力の分布構造
 自治体組織における影響力分布の構造は、問9で用いたアクターごとの関与に関する変数の分散をとることによって表現することができる。この分散が大きいほど、特定のアクターに影響力が集中しているということになる。逆に、分散が小さい場合には、組織内部における影響力は広く均等に分有されているということを示している。このようにして構成した変数を従属変数として回帰分析を行うことにより、この組織内部における影響力の分布を左右する要因を探る。
 問10で用いたアクターの能力に関する変数も、アクター間の分散をとることによって、組織内部における能力の分布を表現することが可能である。すなわち、この分散が大きい場合には、地方自治体に関与するアクター間の能力の差にひらきがあると認識されているのに対して、この分散が小さな場合には、その格差が小さいと認識されていることを示す。
この分散を従属変数として、先と同様に回帰分析を行った。(図表2−2−13図表2−2−14
 
 第一に、組織の規模が拡大すると、特定のアクターに影響力が集中し、不均等な分布になる傾向があるのに対して、能力に関しては逆に均一化するという傾向が見られる。
 第二に、財政力指数が高くなると、組織内部における影響力構造は不均一な方向へと作用する。組織内部における資源的なスラックスの増大は、この増大分に対して全てのアクターが平等にその分けあうのではなく、特定のアクターがこれを利用するという形で、影響力が不均一になるのである。
 第三に、首長の任期が長く、議会とその政治的な方向性が同一であり組織の政治的な安定性が高い場合には、その能力が首長に集中し、組織全体としては不均一な配分となる。
 第四に、人口増加率が高く、都市化が進行している自治体においては、組織の能力が均一化するという傾向が見られる。
 以上をまとめると、組織の規模が大きく、財政力が高く、政治的な安定性が高い組織においては、リーダーシップ型の決定構造が現れる傾向がある。これに対して、人口が急速に増加し、都市化が進展する自治体においては、決定は分有化される。
 
(5)分権改革に対する期待
 問11では、分権改革に地方自治体が何を期待しているのかをたずねている。並べられた選択肢の中では、圧倒的に税源の移譲を期待する自治体が多い。これに人材の育成、国の側の規制緩和、最後に、権限の移譲と続く。
 このような自治体の地方分権改革に対する期待の差が、どのような要因によって規定されているのかを見るため、多項ロジット分析を行った。税源の移譲という項目をニュウメラルとして、他の項目を選択する確率がどのように変化するのか、その変化に影響する要因を探ったものである。(図表2−2−15
 
 第一に、首長の任期が長く、議会との間の関係が良好である場合には、税源の移譲に比較して、権限の移譲を選択する確率が低下する。
 第二に、人口の増加率が高く、都市化が進展している自治体においては、税源の移譲よりもむしろ権限の移譲や国の側の規制緩和を選択する傾向が高まる。
 第三に、自治体の規模が大きくなるにつれて、他の項目に比較して税源の移譲を期待するという傾向が高まる。
 第四に、財政力が高い自治体ほど、さらに税源の移譲を地方分権改革に期待する傾向が高まる。逆に、現在、自主財源を持たない自治体は、税源の移譲よりも現在の地方財政調整システムに依拠するという傾向があるということを示している。







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