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2 医療制度改革について
 以上のとおり、老人医療費を中心に医療費は増加し続ける一方、経済の低迷により、保険料(税)の伸び悩みが続き、各医療保険はいずれも大幅な赤字を抱えるに至っている。このような状況の下、21世紀の本格的な少子高齢社会においても、国民が安心して医療サービスを受けることができるようにするためには、医療保険制度全般にわたる抜本的な改革を実現することが急務となっている。
 このような状況を背景に、各方面で活発な議論がされ、平成13(2001)年11月29日に政府・与党社会保障改革協議会において「医療制度改革大綱」が決定され、ほぼこの結論に沿って平成14年度の予算編成が行われるとともに、154回通常国会において関連法案が提出され、可決成立したところである。その主な内容は以下の通り。
 医療保険制度全体の給付の見直しとして、給付率を7割に統一する等の給付率の一元化(老人医療の対象者9割、70歳〜74歳の者8割、3歳未満の乳幼児8割)、高額医療費の見直しとして自己負担減度額の引き上げ、低所得高齢者に対する負担軽減措置の拡充、その他、政府管掌健康保険の保険料率の引き上げ等が実施される。
 
 老人医療の対象年齢の70歳以上から75歳以上への段階的な引き上げ(5年間)、老人医療費拠出金の公費負担の割合の3割から5割への段階的な引き上げ(5年間)が平成14(2002)年10月より実施されている。
 
 老人医療費自体のマクロ的抑制の観点から、「老人医療費の伸びを適正化するための指針」を厚生労働大臣が定め、当該指針に即した都道府県及び市町村の取組に対する助言や援助に努める。
 
(参考)平成13(2001)年11月の大綱では採用されなかった「老人医療費・伸び率管理制度」案の概要は次の通り。
(1)老人医療費の伸び率の目標値の設定
 毎年度の老人医療費の総額の伸び率について、高齢者数の伸び率に一人当たりGDPの伸び率を乗ずることにより、目標値を設定。
(2)目標値を踏まえた診療報酬の合理化、保健事業の推進等による医療の効率化等の推進
(3)目標を超過した場合の措置
 超過相当分を基礎として算定した調整率を次次年度の診療報酬支払額に乗ずる。
 
(1)国保広域化等支援基金の創設
 一部事務組合等を活用した広域化や市町村合併の際に、保険料(税)格差の平準化のための間、保険料(税)収入不足を基金から無利子で国保保険者へ貸し付けることにより、保険財政の円滑な広域化を支援する。基金の造成のために平成14年度から3年間で300億円を国が2分の1、都道府県が2分の1を負担することとしている。
 
(2)高額医療費共同事業の拡充・法制度化
 平成15年度から平成17年度までの暫定措置として、交付基準額の80万円以上から70万円以上への引き上げ、国及び都道府県の定率負担を法律に明記する(国1/2、都道府県1/4、市町村国保1/4)。
 
(3)老人保健拠出金の算定方法の見直し
 調整対象となる老人加入率の上限(30%)を撤廃する。また、退職者に係る老人医療費拠出金については、これまで2分の1が国費負担及び国保の一般被保険者の保険料(税)により賄われていたが、全額退職者医療制度において負担する。
 
(4)保険者支援制度の創設
 平成15年度から平成17年度までの暫定措置として、市町村国保の財政基盤を強化するため、現在の保険基盤安定制度を拡充し、低所得者を多く抱える保険者を財政的に支援する制度を創設する。
・これらの制度改正の効果として、厚生労働省は、平成19年度の医療費で見た場合、現行制度のまま推移した場合と比べて7,000億円の縮減と試算している。ただし、医療費管理制度の見送り等により、地方負担は反対に増大するものと見込まれる。しかし、そもそも同じパイ(医療費総額)を国保、組合健保、政管健保のどこが負担するか、では抜本的な解決はしない。
・公費と保険料、自己負担額の負担割合の見直しは重要な論点である。(後述)







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