(2)ドイツの場合
(1)介護保障は介護保険制度
ドイツは1995(平成7)年4月から介護保険制度を開始した。まずは給付を在宅サービスのみに限定してスタートさせ、1996(平成8)年1月より施設サービスヘの給付も開始した。
介護保険制度の導入前には、施設入所者の生活保護受給率は8割を超えていたが、導入後は約3割に減少した。連邦社会保険法に在宅福祉の充実が明記され、導入当初は施設が空く状態もみられた。またドイツの介護保険制度には、介護手当という現金給付があり、制度開始当初は現金給付を選ぶ利用者が多かったが、近年では現金給付とサービス給付を組み合わせたコンビネーション型を選択する利用者が増えている。
(2)介護保険制度と事業者の多元化
ドイツでは従来から、6つの伝統的な福祉団体が介護サービスの供給を担ってきた。これらの団体は、キリスト教系の団体であるカリタスとディアコニーや赤十字などである。ドイツの介護保険制度もサービス事業者の多元化を想定しており、制度導入後は営利法人なども介護サービス市場に参入できるようになった。介護サービス事業者は介護保険金庫との契約が必要とされている。介護保険制度導入直後には、特に在宅サービス事業者に営利法人数の増加がみられたが、近年では特別な動きはみられない。事業者数が減少しているのは、大規模事業者による寡占化が起きているということである。また介護サービス市場における伝統的な福祉6団体の根強さも指摘されている。
(3)サービスの質の管理は保険者の責任
介護報酬が適切に使われているか、サービスの質が維持されているかを監視するのは保険者の責任という考え方が徹底している点が、ドイツモデルの特徴といえる。介護サービスの質の管理について、行政の役割を議論するアメリカやスウェーデンと異なる点である。
介護サービスの質の管理について、ドイツでみられる行政の取り組みは非常に限られている。施設の定期監査は州政府の仕事であり、年に最低1回は実施されている。
注目されるのは、近年に開始した「相談事業」である。この相談事業は、厳密にいえば、介護保険金庫が保険者機能として実施している。介護保険金庫が州政府に委託する方法で、相談事業を実施している。介護保険制度利用者は、給付される介護手当の中から一定の費用を支払って、相談事業を受けなければならない。つまりお金の流れから見れば、介護保険財源の中でサービスの質の管理を行っているということができる。
相談事業には、介護手当(現金給付)の給付を受けている人に対して、在宅で適切な介護が行われているかをチェックする目的がある。基本的には年に1回実施され、もし在宅で適切な介護が行われていない場合は、介護手当は強制的にサービス給付に切りかえられることもある。
さらにドイツにおいて、介護サービスの質の管理における介護保険金庫の取組をみると、行政以上に介護保険金庫の権限と機能が強いことがわかる。また介護保険制度を導入した当初より、この機能は強化されている。近年では、介護保険金庫と利用者間で、要介護認定を行う第三者機関であるMDKが、介護保険対象施設に対し抜き打ち査察を行うことが可能になった。適切な介護サービスが提供されていないと判断された施設には、MDKが保険者である介護保険金庫に報告する。その結果、介護保険金庫が問題施設に対して、介護報酬の払い戻しを請求することもある。
介護サービスの質の管理についてのルールを、アメリカやスウェーデンのように法律で決めるのではなく、介護保険金庫連合会による取り決めとして実施している点がドイツモデルの決定的な特徴である。ドイツでは介護サービスの質の管理について、政府の役割より、保険者の役割が非常に強い形になっている。
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