2 日本にみられる介護サービス供給の多元化
介護サービス事業者の多元化は、介護保険制度の目指すところでもあり、介護保険法にも明記されている。それでは現在、日本ではどの程度の事業者の多元化が進んでいるのだろうか。
図表1-2-1 |
介護保険指定居宅事業者の指定状況と供給のシェア |
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社福法人 |
社協 |
医療法人 |
NPO法人 |
農協 |
生協 |
民法法人 |
県 |
市町村 |
広域連合 |
営利法人 |
その他 |
合計 |
居宅介護支援 |
55 |
46 |
40 |
6 |
7 |
1 |
10 |
1 |
42 |
3 |
71 |
2 |
284 |
居宅サービス |
126 |
107 |
62 |
25 |
9 |
2 |
9 |
2 |
15 |
3 |
190 |
1 |
551 |
合計 |
181 |
153 |
102 |
31 |
16 |
3 |
19 |
3 |
57 |
6 |
261 |
3 |
835 |
比率 |
21.7 |
18.3 |
12.2 |
3.7 |
1.9 |
0.4 |
2.3 |
1.9 |
6.8 |
0.7 |
31.2 |
1.9 |
100.0 |
供給(%) |
34.1 |
16.3 |
14.6 |
2.6 |
0.7 |
11.4 |
20.4 |
- |
100.0 |
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(注) |
1.事業者指定状況は2002年10月1日現在の数字。 |
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2.「供給」の数字は、事業者が受けた介護報酬を経営形態別に合算したもので、2002年8月分の数字。 |
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社福法人 |
社協 |
医療法人 |
NPO法人 |
農協 |
生協 |
民法法人 |
県 |
市町村 |
広域連合 |
営利法人 |
その他 |
合計 |
居宅介護支援 |
48 |
40 |
34 |
2 |
5 |
1 |
7 |
1 |
44 |
3 |
53 |
2 |
240 |
居宅サービス |
106 |
104 |
38 |
8 |
9 |
2 |
6 |
2 |
13 |
3 |
135 |
12 |
438 |
合計 |
154 |
144 |
72 |
10 |
14 |
3 |
13 |
3 |
57 |
6 |
188 |
14 |
678 |
比率 |
22.7 |
21.2 |
10.6 |
1.5 |
2.0 |
0.4 |
1.9 |
4.4 |
8.4 |
0.9 |
27.7 |
2.0 |
100.0 |
供給(%) |
34.7 |
21.8 |
14.2 |
1.0 |
0.5 |
16.9 |
10.9 |
- |
100.0 |
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(注) |
1.事業者指定状況は2000年12月1日現在の数字。 |
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2.「供給」の数字は、事業者が受けた介護報酬を経営形態別に合算したもので、2000年8月分の数字。 |
図表1-2-1は滋賀県の担当者からの数字を元に、作成したものである。上の表が2002(平成14)年で、下が2000(平成13)年である。社会福祉法人、社会福祉協議会、医療法人、NPO法人、農協、生協、市町村直営、営利法人というように、介護保険制度以降、事業者の多元化は進んでいる。
この2年間の変化では、営利法人のシェアが増えていることが指摘できる。事業者数では、営利法人の割合は2000年では全事業者のうちの27.7%、2002年現在では31.2%であり、事業者数で伸びはさほどではない。しかしサービス供給量のシェアをみると、2000年で10.9%だったのが、2002年で20.4%というように約2倍の伸びを示している。
また供給量の規模は小さいものの、NPO法人によるサービスも、2000年で1.0%だったのが、2002年で3.7%に増加している。
一方、供給のシェアが減少しているのは、自治体直営と社会福祉協議会によるサービスである。ただし、これは両事業者のサービス供給量が減っているわけではなく、他の事業者の供給が増加しているために相対的なシェアが小さくなっているということである。
事業者の構成比率は地域や市町村によって異なる。大都市部では営利法人の供給シェアの相当の伸びが推測される。
介護サービス供給が多元化する時代の自治体の役割は何であろうか。つまり、介護保険制度のもとでの、保険者の役割は何であろうか。最近取り上げられている諸課題を中心に整理する。
第一に、介護報酬の不正請求の問題がある。介護保険の実質的な会計事務を行っている国保連合会の仕事だという指摘も聞く。いずれにしても、保険者である市町村は、市民が払った保険料が適正に使われることに責任を持たなくてはなるまい。
第二に、質の悪いサービスを提供する事業者の取り締まりである。介護保険指定事業者の監査や指導、指定の取消権は都道府県の責任となっている。また苦情申し立てについても、都道府県が国保連合会に業務を委託している。従って、介護保険施設内部からの告発があっても、保険者の市町村はなかなか調査に動けない。ある事例では、特養の職員からの入居者虐待に関する内部告発に対して、都道府県が調査に動き出すまでに約半年の時間がかかった。市議会議員が市議会で取り上げ、市役所の介護保険担当部局が都道府県に申し出て、ようやく都道府県の担当部局が動き出すという、非常に官僚的なしくみで迅速性に欠ける。
さらに日本では、問題を起こした施設の事業者指定を取り消すことは非常に難しい。例えば日本の特養は、公費補助が入っている施設の持ち主が事業者であることが多く、事業者だけを取りかえるということができない。スウェーデンの場合は、建物は市営で、施設運営だけを民間事業者に委託するという「公設民営」の形態をとっているため、事業者に不祥事や不正行為、契約違反があれば、市は問題の事業者への委託を打ち切り、他事業者に運営主体を交替させることができる。
第三に、介護サービスの質をどう管理するかである。第三者評価事業や介護相談員事業などで、介護サービスの質を評価したり、高齢者の声なき声を集め、サービスを向上させようとする試みはすでに始まっている。しかし、これらの事業は市民ボランテイアに委ねられた部分が多く、大規模事業者の介護サービスの質を監視する働きは求められない。
第四に、「選択の自由」が介護保険制度の長所といわれてきたが、実際に利用者はサービスを選べているのだろうか。判断能力が低下した痴ほう性高齢者の自己決定を支えるサービスとして、地域権利擁護制度も始まったが、利用の伸びは今ひとつである。また先にも述べてきたように、特に介護保険施設は待機者が増える一方で、施設の選択は不可能である。在宅サービスの中でも、サービス量が最も不足しているのは痴ほう性高齢者向けグループホームであるが、サービス量が十分でなければサービス選択の自由は確保されない。そのため、競争によって悪いサービスが淘汰されるというメカニズムは働いていない。
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