日本財団 図書館


第4回 「儲けはあとからついて来る」
日時: 2002年12月10日 午後6時半〜午後7時半
会場: 日本財団ビル1階・ロビー
講師: 片岡 勝 市民バンク代表
司会: 町田洋次 社団法人ソフト化経済センター理事長代行
 
町田 片岡さんは、社会起業家の元祖的存在です。大変有名な方ですから、略歴の紹介を省きますが、私の印象を一つだけ申し上げますと、片岡さんのやることは10年〜15年ぐらい早いのです。
 今では女性の起業家は当たり前ですが、片岡さんはこれを10年以上も前に始められました。それから、途上国から色々なものを輸入して売るというのがはやっており、フェアトレードと行っていますが、片岡さんのところではこれも随分前に始めています。
 片岡さんは非営利活動の事業化もずっと前から始めていますが、これも今では当たり前の考えになっています。
 あるいは、片岡さんは大学に教えに行って、社会性のある企業を興すことを教えていましたが、最近、東京の大学生で、もう授業はおもしろくない、そこでNPOをつくって、大学生ながら社会的な色彩の強い事業に挑戦しているという姿を見ます。これも片岡さんが5、6年前からやっていたことです。
 このように片岡さんというのは、不思議なことに、やっていることがことごとく将来大きくなるのです。そのことについて、私は大変感心し、過去こういうことをやってきました、これからこのようなことをやりますというお話をお聞かせいただきたく、今日お招きしたわけです。それでは、よろしくお願いいたします。
 
■片岡勝 市民バンク代表
 今、ご説明していただき、「ああ、そういえばそんなことをやってきたな」と思いましたが、実は、もうあまりそこには関心がなく、次にどういうことをやろうかということにしか興味がありませんが、まず今までの事業の話しから始めましょう。
 
これまでやってきた事業−社会的な変革を促す
 私の事業は全部社会的な変革を促す、そういうことを事業にする、それだけが目的の小さな8つの会社グループです。全国11ヶ所の事務所で150人が働いています。
 ご紹介があったように、この10年間で「女性のためのビジネススクール」を全国でやって、5,000人の人が卒業して、1,000人の女性起業家が誕生しました。
 大学は3つ教えてきて、法政大学、山口大学、福岡大学ですが、大体3年で辞めることにしております。吉田松陰がやった松下村塾というのは2年8カ月なのだそうです。3年で次の人たちが育っていく、再生産する育成システムができないところは捨てるしかない。
 そんなわけで、法政大を辞め、次の山口大学は今年いっぱいで辞める。後は学生が次を育てて欲しいと思っています。
 福岡大学というのは非常にチャレンジナブルでして、ベンチャー論だけで卒業できる学科を目指すというので、これは気に入り、今後もやります。
 来年から島根大学と産業能率大学というところで、非常に自由度が高い形でどうぞということなので、教えさせていただくということになっております。
 今までに大体1,000人超に教えましたが、私の全国11カ所の事務所に来るのが100人。その中で起業するのが大体10人、1%です。
 学生起業家が10人社長になっており、何人かは大学をやめてしまいました。また大学生が七つのNPOの理事長をやっており、これもすぐ10ぐらいになるでしょう。
 大学生の事業は、お蔭様でみんな収支とんとんの黒字です。これからはそんなに儲けなくていいのです。とんとんで増えて、楽しくて、社会からも少し褒めてもらって、それで新しい人たちが参加していく。これで十分だ。それ以上ガツガツしないということでやっていく、これが社会起業家の一つのスタイルだと思います。
 事業の成功に比べ、人材育成というのは10倍大変です。金もうけぐらい簡単なことはない。人材育成は本当に手間がかかって大変です。
 しかしもうそこしかない。私にとっての育成とは、一人一人の志のある人たちが自分の地域で自分たちの後進たちを育てていく人材育成です。その再生産の仕組みというのを地域にどうつくるかということではないかと思っております。
 
もう一つの役場を地域につくる
 今の日本の沈み方と変革のスピード、果たしてどちらが勝つことができるかというのが最近の関心でありまして、みんな変革よりも沈むスピードのほうが速いということで、悲観的な顔をしている人が多いわけですけれども、必ずしもそうじゃないかもしれない。
 福沢諭吉が言ったことですけれども、一人一人が本当に自分の足で立てば、そのとき国家が、アジアが独立するのだということが、今ぐらい求められているときはないのではないだろうか。
 ですから、私は、狭義の政治には興味がありません。行政についても今までの行政機構にはもう期待はしておりません。今の関心は、もう一つの機構=役場をどうやってつくっていくか、既存の行政機構に競争相手をどうつくるかというようなことが今の関心領域の一つです。
 実はもう一つの役場を地域につくろうということを仕掛けておりまして、これの担い手は若者だけではなく、中小企業の経営者や女性起業家たちということで、新しい担い手づくりということを山口でいくつかやっています。
 
社会起業家が目指す三つの分野−再生ビジネス
 これから社会起業家が目指す分野は3つあると思っています。
 一つ目が再生ビジネス。
 箱もので要らなくなったもの、行政が金をかけては維持できなくなっているもの、こういうものを次々再生活用していこうということで、実際にはそごうの跡地、ダイエーの跡地、500平米、1,000平米の再生に取り組んでいます。
 こういうところは大学の若者がやってきたのですが、それに加えまして、最近は自治体がつくったペンションの経営を始めました。これが実におもしろくて、今までは補助金をもらって三セク的な人がやっていたのですけれども、町長から頼まれて、もう補助金は要らないという条件でやり始めました。
 今年上智大を卒業した若者が田舎のほうに行きまして始めましたところ、7月が3倍、8月が7倍、9月が4倍、10月が3倍、11月が6倍という売上です。30%とか60%アップじゃないのです。何倍ということです。
 もちろん、そのかわりペンションですから部屋数が少ない。いっぱいになってしまうと自分は食堂にいすを並べて寝る。当然のことながら、1日15時間は働く。こういう働き方で次々と事業を成功させていく。
 こういう再生ビジネス、これはこれからものすごくたくさん生まれてくると思います。自治体からどうやって、あるいは行政からどうやって経営をリプレイスするか。
 ご存知のようにサッチャー元首相は、3分の2のスタッフの首を切ったわけですけれども、これはどういうことかというと、3分の2の行政サービスをNPOといってもいいですし、ソーシャル・アントレプレナーといってもいいですし、地域ビジネスといってもいいのですが、税金で運営しない、利潤動機で運営しないところにリプレイスした。税金セクターに残ったのは3分の1だった。
 早くこれを日本はやらなきゃいけません。半分ぐらいにするなんていうスピードでは沈むスピードに浮かぶスピードが追いつかない。その認識、危機感がこれから社会起業家を動機づけするのだと思うのです。それが再生ビジネスの分野です。
 
提携ビジネス
 二つ目が提携ビジネスです。
 ここのところの大きなテーマがFTAです。アジアがこれからフリートレードになっていく。中国はいつでもどんどん入ってきてくださいと言いますが、日本はなかなか言えない。
 そういう中でこの分野でもイニシアチブはもう既に中国に移っているわけですけれども、このアジアからの開放への要求、これは早速出てくるぞと思ったら、先週、フィリピンの大統領が介護要員を日本に大いに開放してくださいと言った。
 アメリカなんかみんなそうです。フィリピンの人が病院なんかではたくさん働いている。小柄で、カソリックで、英語を話して、きびきびと働く。こういう人たちを入れなきゃ日本はだめでしょうと言われたとき、何とも言えない日本政府。こういう時、本当に日本には政府がなければいいと思うのですが。
 先月、タイに行ってまいりました。毎月、ずっとアジアに行き続けようと決めて、行き続けております。
 タイの若者にこう言われました。「『おしん』が、日本のあこがれを象徴するものだった。しかし、油まみれになって『おしん』をやって、今の日本の姿を見て馬鹿馬鹿しくなった。私はそれよりカンツォーネを歌い、おいしいものを食べながら、それでも経済が破綻しないイタリア経済のほうがタイに向いていると思う」。
 もう日本神話は方々で崩れています。
 その前の前の月に韓国へ行きました。韓国のミョンドンという一番にぎやかなところに、ホンモノストアというのとミラージュというデパートがあります。
 ホンモノストアというのは日本の商品を売っている。ソニーですとか、そういうものを売って、日本イコール本物。これがブランドだったわけですが、ここはほとんど閑古鳥。
 それに対してミラージュは一坪ショップで深夜1時ぐらいまで営業している。ここで私はかばんを買ったのですが、彼らのセールストークが「完璧なにせものです」と言って売っていました。「自分で判断してください。ルイ・ヴィトンと書いてあるからじゃないんです。良い品物だったら買ってください」という意味です。
 日本のブランドが崩れ、そして自己責任で自分の目で見て買いなさいよという彼らの言葉に対して、なるほど、日本はそういう面でも挑戦され始めたのです。
 神話が崩れていったとき、あらゆるものの価値が、値段が落ちていく。日本人の人間の価値についても、昔はソニーやトヨタがつくっている、勤勉で技能もあり優秀な人たちという誤解を抱かせることができたのですが、最近は何をやってもばれてしまう。
 これからは日本政府とか日本全体としてじゃなくて、個々人としてクリエイティブで冒険ができて、知恵と勇気を持った若者たちがこれからアジアに出ていく。そうして尊敬されていくしかない。
 
上海交通大学との提携
 実は先々月、中国の上海に行ったとき、上海交通大学というところに行きました。江沢民さんが卒業されたということで、大変元気のいい、大学改革はここから始まると言われている大学です。
 ここで副学長にお会いしました。それがTLO、技術交流のセンターの社長でいらっしゃいまして、みんな40才代。大変若い。話をしていく中で、オープンリソースの精神で一緒にアジアに共通の資本を形成していこう、コモンハウスを一緒に中国と日本でつくっていきましょうということで共感いたしました。
 技術交流、若者を中心としたTLOをやっていこうということで合意いたしまして、3人の若者を日本へ招待しますということを言いましたら、何日で決めてきたと思いますか。3日間です。
 日本の大学だったら、多分、教授会を通して何だかんだ言っているうちに、3カ月、3年ぐらいたっているのではないかと思いますが、3日で決めてきました。
 そのときに向こうの副学長に「大学の先生たちは色々な失敗をし過ぎている。失敗し過ぎている先生たちはチャレンジできなくなる。若者は失敗を恐れないから、ことによると大きな実験をするかもしれません。そういうようなことで、先生、歴史に残るアイデアかもしれませんよ」と言われました。そうやって褒められるとすぐ図に乗るほうですので、「よし、やりましょう」ということで結構力を入れています。
 これは何のためにやるかといいますと、中国だけではありません。その前の前の前の月には東ティモールの大学に行ってまいりましたが、今の暴動が予想されるものがありました。
 せっかく独立を果たしたのに、残念ながら経済はUNが撤退し、これからまた来年に向けて撤退が進む中で、経済は疲弊していく。豊かな未来はなかったじゃないかということで暴動が起きかねないと思っていましたところ、やはり起きました。
 インペリアルホテルに私は泊まったんですけど、18ドル。6時からは停電、トイレは共通、シャワーは自分でくんで流す。トイレももちろん自分で流す。
 そういうようなところで、日本の大学の先生をコーディネートいたしまして、大学でレクチャーをしてまいりました。
 アジアのスピードと熱に早く日本をさらしていく。これがFTAのこれからの課題です。日本を早く政府という障壁から離して、個々人をさらさなければいけない。そういうふうに思います。
 
ソリューションビジネス
 三つ目が解決ビジネスになります。ソリューションビジネス。
 人間がつくった問題で解決できない問題はない。今、地域では本当にさまざまな問題が生まれている。格差の時代が始まって、中産階級90%の時代が終わると同時に、正社員の時代が終わり、フリーターの時代が始まる。
 正社員といってもエプソンのように入社早々から1年契約、これが常識になる。今まで定年までいられたという行政、銀行、学校の先生、この人たちで変革する社会から不要となった人は多分、このフリーターにもなれない。
 どういうことかといいますと、マクドナルドでおじさんが立っても売れない。そうすると、フリーターの下の階層を形成する。ですから、この人たちはアメリカにおける11%から15%のプアホワイトと同じ生活になると思います。そういう意味で大変な格差の時代へ入っていく。
 1996年、ご存じのように日本経済は3%GNPが伸びたわけですけれども、その中で零細中小、大企業を含めまして売上、利益が伸びたのは52%。48%は売上が落ちている。
 日本経済全体が景気よくなれば、全体に潤いがあるというのは今までの経済でして、これからの経済はもう既に勝ち組、負け組が明確になっている。
 日本経済が豊かになればということで、政府が税金を投入すれば投入するほど、それは一部の人たちにどんどん流れていって、一部のもうかるところにだけ行く。儲からないところには行かない。これが企業だけではなくて、地域においても起こっています。
 この東京というところ、確かに久しぶりに戻ってくると末期資本主義の断末魔の感じがありますが、やっぱりすごい。空き部屋がどんどん増えると言いながら、どんどん開発されていく。
 地方から見ていると、もうやけになっているとしか思えないのです。だけど、これが一つ渦をつくっていることはたしかです。
 東北、北海道のほうから来られている方には少し耳に痛いかもしれませんが、東北、北海道にはお金はほとんど流れていません。物々交換経済になりつつある印象があります。
 大阪圏、ここについて言えば、やはり震災と震災以後の借金返済ということでほとんど経済的に東京の次という印象はもうありません。
 ただ、大阪はかなり先端に行き始めていまして、私が泊まりました難波のホテル、ここに皆さん、ぜひ1回泊まられるといいです。
 夕方から深夜にかけまして、若い女性がトントンとノックするアジアのホテル並みになってきました。
 それから、夜11時ぐらいに一人で近辺を歩くことはほとんど難しくなってきた。大阪は治安が大変悪い。ひったくりとか殴ったりするのも、もう日常的に見かけるようになった。
 ナンバーワンになれば色々なことが可能になります。例えば、大阪府は今、観光誘致を目指しています。私のアドバイスは、アジアに行く前に大阪に2泊して、難波のホテルでその近辺を歩いてみよう。襲われないで2日間いられたらアジアに行こうと。
 何かその地域が全国に新しい特徴を持てば、必ずそれを使って、何か新しいソーシャルイノベーションの試みができるという事例でまじめに考えたのですけれども。例えば防犯なんかについてのさまざまな産業を興していくとか、そういうのも大阪にいいのではないかと、アドバイスをしているところです。
 広島は支店経済ですが、本店がなくなったので経済がなくなりつつあります。福岡はアジアに向けてやはり元気です。九州の一極集中。そういう意味で言うと、福岡と東京以外に元気な経済がなくなりつつある。
 実は私が2日間同じベッドに寝ることがここのところほとんどございません。4つの大学と11の事務所を転々としており、毎日のように移動しております。これで何がいいかといいますと、どんどん荷物を捨てるのです。書類なんかどんどん捨てるほかないわけです。
 これがこれから大事だと思うのです。ソリューションビジネスから少し雑談に入りましたけれども、日本はこれからどうやって今までの殻を捨てていけるか。そして今ある財を新しいことに活用できるかということにかかってくると思います。それをソリューションに再編する。それがソリューションビジネスです。
 
コミュニティビジネスカレッジを始める
 山口県では今年から県単独事業で、コミュニティビジネスカレッジで経営者を育てようということを始めました(議事録はhttp://www.socio.gr.jp/cbcに掲載中)。
 ここで私が「もう一つの役場を地域につくるのです」と言いましたところ、新聞にそれが出まして、多少物議をかもしました。県の予算を使っておいて、役場をつくるというのはどういうことだと。
 こういうふうに刺激的なことを少しずつ言いながら議論をする。最近、例えば私は人事院なんかでも講演させていただくようになったのですが、人事院の研修というのは終わった後でアンケート調査を行います。
 もう1回この人を呼ぶべきかという質問をすると、60人のうち45人ぐらいは絶対に呼ぶべきじゃないと答えます。私のことを「この人は行政に敵意を持っている」とか何とか言います。
 だけど、驚くことに15人ぐらいが、私を講師に呼ぶべきだと言うのです。15%いれば社会は変わります。いや、多過ぎるぐらいです。
 実を言うと、私のソーシャルイノベーションはまねられたときに成功します。まねられたことが次へ広がることだということでやってまいりました。
 私にとっての生きている意味はともかく新しいイノベーションを仕掛けていく。まねられたときにもう興味を失う。
 で、これから何をするかといえば、これからやろうということは、私にとっては全部「地域」ということがキーワード、「コミュニティ」ということがキーワードになります。コミュニティ意識をどうやって高めるか、チャレンジ風土をどうやってつくるか。これがこれからの地域設計のかぎになると思います。
 このコミュニティビジネスカレッジで育てたいのは地域経営者です。これがいないのです。企業経営者はいるのですが、企業経営者のレベルでは地域経営には全然通用しない。もちろん、市長や知事で経営している感じの人が見えてこない。タウンマネジャーが必要になります。
 
タウンマネジャーの育成
 タウンマネジャーは何をするのか。地域の財を集めて、みんなが持ち寄って、そしてさまざまな問題解決をしていく。もう行政に一極集中で金を集めて、それを再分配してアウトソーシングして、問題解決して、社会サービスをする、それじゃコストパフォーマンスが悪すぎなのです。
 「地域にある財を持ち寄り、問題を解決する」、これはイギリスのブレア首相が言ったことです。
 財、リソースをどうやってうまく集めてやってくか。そこにはミッションが必要です。ミッションに共感し、それを引き出す魅力がある、やっている人たちがおもしろがる、こういう経営です。
 知事だとか市長が呼掛けても、そこにボランティアはなかなか行きません。企業は残念ながらボランティアをなかなか受け入れられない。ボランティアが来ないところはどちらもだめです。
 ボランティアというのは大変です。中で見たこと、あったことないこと、悪口、誤解も含めてどんどん言います。だけどそれに耐えるところしか生き残れないのです。
 組織を開示しようと思ったら、ボランティアを100名ぐらい入れてみたらいいのです。もうめちゃくちゃ言われます。コピーだって何だってしちゃいます。守秘義務なんてサインしたって、何だってやっちゃう。そういうような人までも入れられるかどうかというようなことがコミュニティにおける経営者には求められるわけです。
 そういう経営者育てというのを実はコミュニティビジネスカレッジでやっているのです。これがおもしろいのです。
 
コミュニティカレッジの経営ノウハウの一端
 どういう経営ノウハウかほんの一端だけ言いますと、カレッジの過程は3ステップぐらいあるのですけれども、最初の1段階目で私が言うのはミッションです。
 ミッションばかり何回も何回も講座で言うのです。そうすると、会社の常務ですとかの経験者、そういう人たちは怒って、3回目ぐらいから来なくなります。
 「おれにミッションばかりもう言うな。おれは経営者なんだ。ビジネスカレッジなんだから経営ノウハウを学びに来たし、おれだって教えられるんだ」と言って、3分の1ぐらい予定どおりいなくなる。
 第2ステップに入って、新しい経営ノウハウはジョブディスクリプション。仕事を書きとめ、評価をしていく。JDと呼んでいますが、そういうのをみんな書く。
 1週間に1回、自分は今週はこういうことをやります。課題は何々です。みんなに協力してほしいことはこういうことです。仕事のキャパシティはまだこのぐらいあります。80%だったら、もっとみんなを応援できますし、100%超えているのだったら応援してくれ、ということになります。
 こういうようにして自分をプランし、チームの中での情報共有と協力の輪をつくる。これをやり出すと、二十数人の受講生のおじさんたちが一生懸命これを書き出すのです。教えるのは学生です。山口大学の学生たちが「お父さん、違うわよ」という感じで教えているわけです。
 最初は許しがたい。娘か孫ぐらいの年の若者に教えられて許せないと思っているのが、だんだんこれはしようがないなと思い出す。そのうち便利だなと思い出す。花本組という建築会社の社長さんは会社にJDでの情報共有制度を導入しましたといって、社員にみんなジョブディスクリプションを書かせるようになります。「これいいですね。社員を管理しなくてよくなっちゃいました」と。
 そんなようなことをやって、最後の過程では自分の事業計画とそのホームページづくりで、事業の将来像を自分たちで明確に発信しながら、みんなに地域財オークション会議で呼掛けるのです。
 この間、山口でやったときには1,200万ぐらい集まりました。一番前に100万円出す人たちを配置いたしまして、その次ぐらいに出すのを後ろに置いておいて、100万円を最初にあげると、後ろの人が10万円あげる。その後ろも気まずくなって1万円あげるということで、1,200万集めたのですけれども、こういうふうにして地域の財─これはお金だけじゃなく、技術だとかアイデアだとか、そういうのも集める。
 地域にさまざまな新しい仕組みと、そして人材育成。これが日本が道州制にこれから入っていく中で、大事なのは地域の経営者が育っているということです。
 今回の変革は上からの変革ではなく、下からの変革がない限り歴史的に意味がないと思っており、社会起業家はそんなようなことをぜひ目指していただければということで終わりたいと思います。







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