日本財団 図書館


■和氣政広 三洋電機株式会社技術開発本部総合技術企画部技術渉外グループ担当課長
 三洋電機は、「人と地球が大好きです」をコーポレートスローガンに、1950年に設立された会社です。従業員は単独で1万8,000人程度、売上は連結で年間2兆円余りといったところです。
 三洋電機に対し、冷蔵庫や洗濯機を作っている会社だというイメージをお持ちの方が多いと思いますが、売上構成比を見るとそれら家電製品の占める割合は全体の13%程度しかありません。
 一方、液晶プロジェクターやデジタルカメラ、またあまり知られていないと思いますが、特に二次電池(携帯電話、パソコン、シェーバー等の中に入っている充電できる電池)において、三洋電機は大きなシェアを持っています。
 化石燃料を大量に消費することで、二酸化炭素や硫化物が大気に放出され、酸性雨を降らせる他、地球の温暖化を引き起こしています。こういった社会的な問題に技術で答えるべく三洋電機も環境関連の商品を開発しています。
 その中には、省エネ・高効率の排熱駆動をする空調機器や、最近車で大変話題を集めており、2005年位には市場に投入される家庭用燃料電池、冷媒として長年使われてきたフロンガスの代りにCO2を用いたシステム、水処理の技術を応用した洗剤ゼロコースつきの洗濯機などがあります。
 
太陽電池
 私は入社以来、2002年9月末まで太陽電池の開発に係る研究をしておりました。
 太陽電池とは半導体でできています。
 金属は光(可視光)を当てると大体反射します。金属は光が中に入っていかないものなのです。
 一方、絶縁体とは、ゴムやプラスティックのように電気を通さないもので、これらの他に食塩の結晶も絶縁体です。
 理科の授業で食塩の結晶をつくった経験があればご存知のように、食塩の種(たね)結晶を食塩水の中に入れるとどんどん大きく立方体に成長するのですが、混じり気がなければ全く透明になります。つまり、食塩の結晶のような絶縁体は、光が中に留まらず通り抜けてしまうのです。
 半導体はその真ん中ですので、物質中に光がしみ込んでいくわけです。そうすると、内部の電子が光のエネルギーを得るので、半導体の中に不純物が入れるなどの工夫をすると電気を取り出すことができる。
 つまり太陽電池とは、太陽の熱でお湯を沸かすのではなく、光が当たれば自然と電気がしみ出してくるという発電原理を持ったものなのです。
 日本では経済産業省の補助金等で、住宅の屋根に太陽電池をつける制度は既にあります。さらに、電気のないところに電気を供給するというもうひとつの役割があるということで、日本からセネガル共和国にODA資金が出て、同国における太陽光発電の応用システムを三洋電機が受注し、私が現地に6回ほど技術指導に赴き完成させました。
 また、2002年の4月、全長315メートル、大体東京タワーを横に寝かせたぐらいのサイズの“ソーラーアーク”という太陽光発電の施設をつくりました。
 これは岐阜県の工場に設置しており、世界最大規模の太陽光発電のモニュメントです。下にはソーラーラボという見学施設があり、太陽光発電の仕組み等を楽しく学ぶことができます。
 
環境・エネルギー問題にチャレンジする
 研究者、あるいは技術者という立場から言うと、私たちの使命は技術や商品を通して社会に深くかかわっている。
 例えば、環境やエネルギーという問題に対してどのように挑戦して解決していくのか。そこには社会と私どもとの接点があるので積極的にかかわっていくことが重要だと思います。
 ビジネスという視点からですと、例えば太陽電池がここに1枚あっても殆どの方は使えない。どう使うのか、だれに売るのか、町の電機店で売るのか、量販店で売るのか、あるいはそれらとは違うルートで売るのか、商品としてどう成熟させていくのかといったビジネスモデルに関しては、大企業の一員であろうと1人1人が起業的発想を常に求められているのです。
 
***
 
猪尾 ここで共通して示されていることは、バランス感覚というものが、社会変革のツールとしてのビジネスに求められているということだと思います。
 しかし、実際自分のビジネスとして考えてみると、どのようにしてバランス感覚を取りながらやっていけるのかが大きな悩みである。
 そこで、実際バランスを保ちながら社会変革のツールとしてのビジネスに携わっている方々から、経営の手法や個人の思い何でも良いので何かアドバイスをいただければと思います。
 
蟹瀬 私がいつも思うことは、組織の一番上に立つものがどのぐらいの夢を持っているかということが、下の人を動かす力になっていくということです。
 大げさに言うと、同じ時代に生きて同じ時間をシェアし、同じ空気を吸っている存在の理由は何なのかということを根本的に人は探しているとすれば、何か小さいことでも自分が役に立つことがあれば根本的にエネルギーになる。
 そういう気持ちをトップがいかに持ち続けるかというのが、企業を大きくブランド化していくことにつながっていくと考えています。
 社会変革をするときに、儲けることが先決だとよく言われますが、儲けようと思ってビジネスをやっても社員はついてこないことがある。彼らにとって、稼げばこれだけ払ってあげられるというのは、決して働こうという意志にはつながらないと実践していてよくわかります。
 むしろ、私たちがたくさん儲けた分で学校や病院が建つ事に感動する姿、あるいはそれを目指して頑張ろうと募金を集めたりする姿を見て、人間はそういう部分がモチベーションになるのだと感じます。
 それこそが生きていることの共感性になるということを考えると、やはり最初に夢を語れるかですね。私の夢として最初に言ったことは、ボディショップの商品がミッキーマウスのように全世界に入っていくということ。
 ミッキーマウスはどうしてそういう力があるかというと、人々を幸せにするからです。私たちのブランドが人々の幸せのひとつになる。全世界に入っていくと市場が広がり、その分収穫があるのでまたコミュニティに貢献していける。
 ということで、私は途方もなくいつまでも子供のように夢を追っかけているトップが企業を大きくしていく、あるいは人々の思いをひとつにしていくと考えています。
 実際に何百人、何千人という人々を動かすとき、「1円儲けてください」と言うより、「1円募ってください」と言うほうが効果的であるということを実感すると、起業するにあたって最初にありきは、その人がその人の力で何ができるかということを知らせてあげる、気づかせてあげるということではないかと思います。
 
ワーリン この地球は大きな危機に直面をしています。多くの方が今、地球温暖化やオゾンの問題について話す一方、聞く側の多くはあまりにも大き過ぎて対処不可能な問題であると感じる。
 しかしこの言葉を思い出してください。「長い旅は第一歩から始まる」。毎日の生活で小さなことから始めるという意味ですが、例えば、日本では1日約5,000万本の割りばしが使い捨てられています。
 それは、木の伐採、漂白剤等の化学品の使用、パッケージに使う紙の精製といったことが毎日多量に行われているということです。
 アメリカでは一人のドライバーです。皆自分の車で動いていますので、小さなところから始めるとしたら、自分の家族の行動は変えられないとしても、自分自身の行動は変えられるものだと思っています。
 私にとっては“バランス”という言葉が一番適切だと思っています。きちんとした形でビジネスを運営していきたいし、勿論シェアホルダーや従業員にとってもリターンが多ければ多いほど良い。
 それと同時に、地球、環境、人類に対しての責任も持つ。時々、原料の面や製造工程の面で、利益について長期的な判断を出していくとき、そのコンセプトがあまりマッチしない場合もある。
 中小企業でも世界中にも知られているような大企業でも、正しい決断を出していくことが大変重要になっていきます。
 そしてまた、日々の業務の中で、自分のアクションと世界の健全性のバランスを取っていく。しかも一個人としてそのような姿勢をとっていくことこそが、この長い旅の第一歩だと私は考えております。
 
和氣 バランスという点に関し、3点コメントをしたいと思います。
 1点目は価値の共有ということ。
 先ほど蟹瀬さんから商品のパッケージがシンクのゴミ袋に使えるというお話がありましたが、それによって高くなるという事実もうかがいました。
研究者は何で研究するのかというと結局、“おもしろいから”やるわけです。しかしその成果を社会に広めようとすれば、社会と個人との価値の共有が必要になってきます。
 逆に、パッケージが環境に配慮しているために10円高くなってもいいというお客様がいること、言葉をかえればマーケットと価値を共有しているということが大切です。
 私たちは常に時代の一歩先をねらっているのですが、実を言うと、一歩先に行ってしまったら誰もわかりません。
 技術が新しくなくては話にならないのですが、バランス感覚ということに関して言えば、半歩とか、4分の1歩先程度でないと、社会なりマーケットなりとの価値の共有が出来なくなってしまいます。
 2点目は、1点目の価値の共有という話と全く逆になりますが、多様な価値観を知ることを常に心がけること。
 今回はセネガルの話をさせていただきましたが、私はサウジアラビアでも仕事をしたことがありまして、一言で言うととても大変でした。
 例えば、彼らは木曜と金曜が休みで、太陰暦を使い、西暦を使いません。考えてみると、太陽暦でなければならないのか、あるいは西暦が絶対的な座標軸なのかというと、実は全く相対的なのです。
 そうは言うものの、価値観を共有するため彼らとスケジュールをディスカッションするときは必ず、「太陽暦で議論する」と最初に宣言しなければなりませんでした。
ただ、私は今でも太陰暦を否定してはいません。そういった価値観の多様性を学ぶ姿勢を常に持つ必要があると思うからです。
 3点目は、大企業の社員である以前に、個として自立していなければならないということ。
 例えばサウジアラビアやセネガルとか、そういう私どものブランチのないところで仕事をしようと思ったら、三洋電機という後ろ盾はありませんし、私は技術のことしかわかりませんと言っても仕事は進まないわけで、まず自分の付加価値を高める、個として自立するということが大変重要だと思います。
 ところで、猪尾さんのご質問には組織と個人とが何か相剋する、相反するという前提があったと思うのですが、ボディショップやパタゴニアの理念などをお聞きするとそれがあまり感じられない。
 それは、組織において現場側とマネジメント側の距離が常に狭く、すぐに意見が上に行き、またデシジョンが下におりるという構造がある、私の言葉で言えば上と下また横同士の価値が共有されていると見受けられるからでしょうか。
 そういう仕組みが前提にあって初めて仕事はうまくいくのであって、それが日本の現状とかけ離れているのであれば、そこに問題があるのではないかと感じます。
 
***
 
[質問] ライフサイクルの分析は非常に重要な役割を果たしてくると思いますが、パタゴニアでは、原料とか製造工程とか表面的なものは勿論、私たちが使って捨てるというより本質的な部分まで分析していらっしゃるとお見受けしました。具体的にはどのような方法を取っていらっしゃるのでしょうか。
 
ワーリン ライフサイクル分析によって、実はすべてのことがつながっています。不必要なものは全部取り外してベストなものをつくっていくということを第一に考えていますので、お客様からのフィードバックを元にデザインのプロセスに入ります。
 例えばジャケットの場合、スノーボード用、アイスクライミング用とそれぞれのスポーツによってどれだけのパフォーマンスを満たさなければならないかといったテクニカルな面での必要条件があります。
 どちらかというとカジュアルウエアとして知られるスポーツウエアにおいても、実際に着心地がいいか、通気性はどうかといったことを考慮しています。
 そのようにエンドユース、最終的にどのような形でお客様が使われるのかという発想から、その実現のために使われるベストな素材は何かと考えます。
 そういう経緯で“コットン”という原料を見るようになり、「コットンとは何なのか」という追求が始まりました。その結果、地球上で最も悪い影響を与えているのがコットンだということがわかったのです。
 世界中で使われている農薬の25%がコットンのために使われていて、尚且つ単なる農薬ではなく、かなりの劇薬だといったことがわかった。
 強力な農薬により周りの草木にも生態系にも影響を与えていることを知り、我々の答えとし「オーガニックコットンしかない」ということになったのです。
 ただ単に良い製品、正しい製品をつくるのではなく、原料がどのような形で我々の地球に影響を与えているのかということを考えています。コットン栽培業者にも、生産過程において地球に与えるインパクトという面も考慮してもらいます。
 また、工場、製造会社でもきちんとした形でビジネスを運営しているかどうかチェックします。それは環境の面だけではなく、社会的な面そして労働条件においてもきちんと仕事をしているのかもリビューさせていただきます。
 ライフサイクル分析では、このように細かく隅々まで我々のほうで見ております。
 
[質問] 企業で環境に対する技術開発を行う際、一番問題なのは採算性の問題ですが、三洋電機では環境技術開発に対しての採算性について、どのような指針を持っているのでしょうか。
 
和氣 環境ビジネスでは、早い話、儲けることは大変難しい。例えば太陽電池にしても燃料電池にしてもできたのは随分昔の話ですが、なかなか市場に出ていかなかったという経緯があります。
 例えば、「CO2の排出はまずい」といった全体的な合意があった上で、それに対して余分なコストを私たち全員が払う覚悟がなければなかなか普及は進まない。
 もちろん、私たちの側も責任はあり、いかに安く簡単につくるのかということは常に考えなければなりません。
 その努力を常に行う一方、国の施策の中で取り上げてもらうことは大変重要だと思います。例えば太陽光発電は公的な補助が日本だけでなくアメリカやドイツにおいても出ています。
良い技術はできたが、それがなかなか社会に広まっていかない場合には、補助金やODAの後押しのもと、まず少し世に出す。そのときはかなり補助率が高いが、以降普及率が高まっていくと工場を増設し、大量生産に導いてコストダウンを図る。
 そうすると市場が大きくなってさらに大量生産が進んでコストが下がり、補助率は下げても値段は変わらないといった、ポジティブフィードバックがかかるような全体的なスキームを考えなければならない。
 ただ、繰り返しになりますが、環境保全に対してコストがかかることに関して社会全体の合意を得る努力も必要で、技術だけあってもなかなか難しいのです。
 
***
 
■総括:町田洋次 社団法人ソフト化経済センター理事長代行
 この2年間、日本の企業では不祥事が続いており、目を覆うような状態ですが、それがよい方向に向かって欲しいと願い、「企業が社会に挑戦する」というテーマにしました。
 お話を聞いていて、決して眉毛をつり上げて肩に力を入れて挑戦するという感じは全くなく、とても自然にやっていらっしゃる。日本の企業もこういう境地でやっていくことを願っております。
 これまで、大企業に勤める人にずいぶん社会起業家の話をしてきました。そうすると、たいがい「私、やめて社会起業家になります」と仰います。そうではなく、私の意図は、社内改革をやってもらいたいということなのです。
 リストラは、電動鉛筆削り器で鉛筆を削りっぱなしにさせているようなもので、これだけではやがて企業はなくなってしまう。
 そうではなく、これからの成長分野は社会起業家が挑戦するような分野ばっかりなので、社会起業家的な精神で、新事業開発をやって欲しいと思っているのです。
 それには社内で社会起業家を育成するか、たくさん日本に誕生している社会起業家と一緒になってやっていく。日本経済は、数年の間にはきっと反転するでしょう。
 ですから、企業の中にいても「おれは社会起業家だ」と自負して行動を起こしてください。今は変なことを言っていると言われるでしょうが、1、2年経つと尊敬されるようになりますから、その少しのリスクを取ってもらいたいと思います。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION