日本財団 図書館


***
 
町田 カレッジの生徒は、中小企業の経営者のようですが、何才ぐらいですか。
 
片岡 平均年齢45才プラスマイナス20才です。
 
町田 ミッションと言ったときに怒っていなくなるという人がいるという話ですが、これはミッションを考える力がないのですか。
 
片岡 いや、そうじゃなくて、今までのパラダイムの中では、ミッションなんて言っていたら仕事になりません。どうやって金を稼ぐか、大体みんな企業にいた人はそうですから、ミッションというのがあったら自分の中で自己矛盾が起きてしまうのではないですか。嫌なのでしょう。やっぱり今まで40年間の人生からのパラダイムシフトに抵抗しているのではないですか。
 
町田 片岡さんは過去にもう関心がないとおっしゃっていましたが、少し過去に戻って恐縮ですが、8つの事業が今ありますね。よく聞かれる質問は、それはNPOですか、株式会社ですか、どのような形態ですかということです。
 要するに非営利活動をどういう形態でやったらいいかというようなことを悩んでいる人が結構いるのです。8つはみんな会社ですか。
 
片岡 会社が多いと思いますけれども、組織形態を覚えていないぐらいに何でもいいと思います。自分がやっていることが何なのかという、自分の軸が明確であるなら、組織形態はあまり関係ない。
 ただ、外から見られたときにNPOだという看板のほうが誤解がないだろうということだったらNPOにしたらいいですけど。私はNPO株式会社と呼んでいるのですが。会社が多いですけど、やってることはNPOです。ほかの組織形態もあったかもしれません。
 
町田 さっき、地域経営をやらなくちゃいけない、それはお互いに持っているものを出し合って、持ち寄り社会をつくるのだというお話をされていました。昔、片岡さんはタイに行って、同じようなことをタイで学んだと言っておられましたよね。実はアジアの国々にはこういうのが結構あるのだろうと思うのです。今の地域経営、持ち寄り社会というのはそれと同じコンセプトですか。
 
片岡 コミュニティづくりですね。コミュニティづくりのみんなの具体的な行動がステイクホールド、それぞれ地域の中で持ち寄ってさまざまなものをつくっていきましょうと。私が今つくっているチャレンジ若者ファンドですとか、女性のファンドですとか、これから浜松で今度つくるのは「やらまいかファンド」ですとか、さまざまなファンドをこれから地域でつくっていきます。
 こういうようなものをみんながお金も出してやっていく、そんなような社会というのがステークホルダーソサイエティで、それの経営手法がステークホルダーズコーポレーションという経営手法ということです。
 タイで私が行き倒れみたいになったときに面倒を見てくれた人のコミュニティ意識みたいなものが、銀行をやめた後の私の活動の原点なのですが、そこから多少先進国的にしているのかなと思います。
 
町田 そこは片岡さんの中で15年ぐらい同じなのですね。その持ち寄り社会に出会って、これを自分の仕事にしようと昔思って、これからやろうとしておられるのも。
 これは東京など、なかなか考えづらいのですけれども、日本の地方にはまだ結構あるように思うのです。山口でやっておられてどんな感じですか。
 
片岡 私は東京生まれ、東京育ちで、この東京のえも言われぬ、サリンはまかれ、高速道路はひびが入り、いつ飛行機が落ちるかわからないというリスク社会の楽しさみたいなものは決して嫌いではないのですけれども、東京に戻ってくることが本当に少なくなりました。東京に長くいたくないのです。
 今、山の上の一軒家に住んでいまして、書斎から海が見えて、空が青いところにいまして、自分の家1軒しかないところに上がっていきますと、イノシシの親子と会ってあいさつしたりしています。
 年をとったのかもしれないですけれども、そういう生活をしていると、コミュニティ意識の前にまず自然というのがとってもいいです。自然とのコミュニティそれが一つです。
 それから二つ目には、地域にはコミュニティがあるといいますけど、田舎ぐらい閉鎖的でセコイところはない。もう大変です。だけど、みんな知っているものですからホームレスになりにくいのです。
 だから、おしゃれな便利な田舎というのをつくったらいいなと思います。そのためにはモビリティを高めて、人を入れかえていかないとだめでしょうね。
 コミュニティ意識はあるかもしれませんが、田舎に住むのは本当に大変です。便利な田舎でのライフスタイルを自分で作り上げています。
 
町田 田舎は割と上意下達の組織も色々と残っているでしょう。何とか協会とか何とか協議会とか何とか組合とか。そんなことありませんか。トップのほうはお年寄りがいてどうしようもないと。
 
片岡 だから、僕なんかは正直ですから、全部思ったとおり言いますと、「あんたの腹が読めない」と言うのです。「これが腹です」って。「あんたの腹は本当に深い」とか言われて、全然深くないのですけど、そういうような感じです。ですから、あれじゃあやっぱり若者はなかなかいつかないで出ていってしまいます。正直に言うと「腹が読めない」と言われてしまうのですからね。
 
町田 さっき、第二県庁、第二市役所をつくるとおっしゃいましたね。第二県庁、第二市役所の具体的イメージというのはどういうものですか。
 
片岡 社会問題を解決してほしいという人が来るのではなくて、社会の問題を解決するのだという人が集まるところです。そういう人がいない地域はもうだめです。地域間競争で沈む。
 
町田 片岡さんは、昔からもうけは後からついてくると言っていますが、これについて少しお話ししていただけますか。
 
片岡 働いている人のつぶしがきかない3業種があります。銀行、教員、行政ですが、その中にいましたので、自分が事業経営に向いているかというのは全く自信がなかったしわからなかったです。
 もうけることに関心もあまりなかったので、市民運動が食えるようにならなきゃいかんということで始めたのですけれども、やっぱり金もうけについての関心が薄いのでしょう。
 ですから、金もうけへの関心がなくてお金って回るのかなというのが、自分にずっとある疑問というか、問いでした。
 だけど、新しいことしかやらないと何がいいかというと、競争相手がいないのです。1回、途中でこれはうまくいかないなと思って振り向いてみると、まだその分野にだれも走っていないのです。
 2回目ぐらいで、少し色々と失敗しちゃったなと思って振り向くと、やっと後ろにちょっとだけいる。
 3回目ぐらいにやっと振り向こうとすると、隣でぜいぜい一緒に走っているというぐらいの感じだったので、常に先端的な事業、人がやっていることはやらないというところをやってきたことが、多分、結果としてそんなに努力しなくても競争相手がいなくて利益はあり、そこで共感し、色々な支援者に支えられて続いてきたのかなと思います。
 ですから、これからの経営ノウハウというのはそういうことで、ノルマを課すとか効率化するとか、そういうことじゃなくて、地域を丸ごと切り取って、それが事業になっていくような、そんな組織イメージの会社というのが私のイメージしている会社です。
 男、女、若い人、高齢者、障害のある人、さまざまな人たちが一緒に働けるような、それでなおかつとんとんで成り立つ。そんなふうにやっていると、おまえらのやっている事業は地域が必要とするからとか、あるいはおもしろいからというのもあるのかもしれませんが、ともかく応援するよと言ってくれる人たちがいる。
 最初は全然だめです。当然ですが、始めたばかりのときは全然評価もされませんし、お金も回らないのですが、気がついてみたらお金が回っていたというのが実感です。
 大体、市民バンクと提携している銀行の連中が、私のところのバランスシートを見て、「すごい効率がいい経営ですね。こんな融資先ありませんよ」と最近言われました。
 それも別に目指しているわけではないです。むだはしない。人件費を高くして従業員を雇うというのではないですから、やりたいことをやれて、そこで自分を磨けるのですから、それも給料だと思えば、半分でもいいはずだと本気で思っています。
 そうすると結果的に効率経営になっちゃうのかもしれません。21世紀デフレ経済に向いた経営を結果的にやったのかもしれないです。
 ということで、日本経済新聞が「もうけは後からついてくる」というネーミングを、私がしゃべったのを書いてくれたのですけれども、僕はそんなに象徴的な言葉として考えたわけではないのです。
 そうではなく、結果的にそういうふうな自分で経営したことをたまたましゃべったら、それがそういうふうに書かれたということで、そんなに大項目として出てくるような言葉としてしゃべった言葉ではないのです。僕の中では小項目です。
 要素としては、実験性があること、それへの共感があること、それが上手に受け入れられる仕組みがあること、そして時々話題になりながら、みんなが働いてみて楽しいところ。
 そういうようなところを演出して実際に経営していけば、かなり必要なものは集まり経営的には成り立ちます。
 「こんな時代に甘いことを言っていたら事業は成り立たないですよね」とよく言われますが、金儲けを優先する一般企業は成り立たないですが、ミッションで集まるNPOは成り立たないということはないと思うのです。そんなような経験から言った言葉です。
 
町田 1年ぐらい前に、私のところにイギリスの社会起業家数人が来ることになりました。中にイギリスではカリスマ的な有名人がいました。
 もったいないというので、日本のNPOの経営者、名前を挙げると皆さんご存じの人ですが、七、八人お招きをしまして、こっち側に日本の代表、反対側にイギリスのソーシャル・アントレプレナーで話し合いをやったのです。
 日本の経営者が手を挙げてこういう質問をしました。「日本のNPOは金がありません。私の仕事の第一はお金をどこから持ってくるかということです。イギリスの皆様、お金はどうしていますか」と質問したのです。
 イギリスのカリスマの答えは、「アイデア、アイデア、アイデア」と3回言って終わってしまい、全然会話にならない。私はそれを聞いて、「ああ、片岡さんだな」と思ったのです。
 本当に先端的なアイデアというのは事業計画にならない。銀行が事業計画書を出せと言ったって、できない。文字にできないわけですから。そんなことを片岡さんはずっと考えてこられて、そのままやってこられたわけです。計画書のないまま、がーっとやられてきたのではないですか。
 
片岡 情報用語で言えばヒューリスティックアプローチというのでしょうね。アイデアをだして、どこからそれが出てくるのかというと、すべて捨てることから始まっている。
 さまざまな既成概念から自分を引き離すことじゃないでしょうか。それで素直に、今こうなるだろうなと。
 例えば、ここ東京に住んでいる人はみんな勇気がある人だな、何で勇気あるところにいる人がもっと途上国に行かないのかな、同じぐらい危険なところにいるのにとか感じることかな。右脳で感じることじゃないですか。要するに左脳で考えないことです。
 私、今年1年ぐらいで6冊本を出しているんですが、これを書いて、参考文献というのを一つも書かなかったのです。引用しないのです。本をあいつは読んでいないのではないかと言われるかもしれません。読んでいるのですけど、引用したかしないか忘れるぐらい、自分の言葉になってしまっているのです。書くときは多少左脳ですが、考えるときはほとんど右脳です。
 だから、僕が大学で教えるときも、あまり左脳を使うような勉強を教えません。地域に、フィールドに行ったら何か感じるだろうとか、そういうような教育です。
 それが多分、これから大事な教育だろうと思います。そういう意味で言うと、アジアのフィールドに出て役に立つような人を育てる「知恵と勇気の右脳フィールド教育」が日本では、今、大事だと思います。
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION