第3回 「社会へ向かうビジネスの挑戦」
日時: |
2002年12月3日 午後6時半〜午後7時半 |
会場: |
日本財団ビル2階・大会議室 |
講師: |
蟹瀬令子 |
株式会社イオンフォレスト代表取締役社長 |
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ビル・ワーリン |
パタゴニア日本支社ゼネラルマネージャー |
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(通訳:田村紀子 パタゴニア日本支社) |
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和氣政広 |
三洋電機株式会社技術開発本部総合技術企画部 |
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技術渉外グループ担当課長 |
司会: |
猪尾愛隆 |
株式会社博報堂 |
総括: |
町田洋次 |
社団法人ソフト化経済センター理事長代行 |
猪尾 今回は、ビジネスを社会に向けて頑張られている方々をお招きし、社会問題の解決のツールとしてのビジネスの事業内容、及び、そのときのそれぞれの個人としての想いをお話いただこうと思っています。
■蟹瀬令子 株式会社イオンフォレスト代表取締役社長
イオンフォレストはイオングループの一企業で、「ザ・ボディショップ」という英国の化粧品専門店を日本で展開しています。
ザ・ボディショップは基本的にビジネスと社会変革を企業活動の両輪にしておりますので、どちらが欠けてもいけない。このデフレ下にあって、ビジネスを先行させると、社会変革のための活動というのは大体手薄になってくるのですが、私たちは、逆に、ビジネスを活気づけさせるために、社会変革活動を積極的に取り組んでいます。
1995年に発足した「ザ・ボディショップニッポン基金」という、ステイクホルダーのチャリティーと会社からの拠出金を基に、積極的にNGO、NPO活動をしている方々をサポートするプログラムの贈呈式が本日行われました。
今回、6つの団体に助成金を、5つの団体にメークアップ商品の寄贈を行いました。たとえば、ユニークフェースといって病気や事故などにより顔に疾患や外傷がある方々で活動をなさっているNPO団体や、チャイルドラインという子どもの悩みを聞いてあげるホットラインを運営するNPO団体に助成金を差し上げています。
ザ・ボディショップの成り立ち
1976年、アニータ・ロディックという1人のイギリス人の主婦が、英国のブライトンという南方の町で第1号店をオープンさせました。
彼女は、化粧品の価格の中にコマーシャル代やボトルデザイン代が入り、高額になるのはおかしいという思いで自分の会社をつくりました。
自然の原料をベースにしたスキンケア商品、世界の人々のスキンケアの知恵を活かした商品を出していこうと、例えばガーナの女性がスキンケアに使っているシアバターから、ボディバターという使いやすい商品に変えて世界中に出すというのが基本的な考え方です。
このシアバターは、ガーナにおいてお祖母さんからお母さんへと代々受け継がれたスキンケア材なので、すでに肌に良いと実証済みであるため、動物実験は要りません。
ボディショップは、現在世界50カ国、約2,000店舗、日本国内は104店舗で展開しています。以下のミッション・ステーツメントが企業活動のベースになっています。
ザ・ボディショップの存在理由は、社会と環境の変革を追求し、事業を行うこと。
創意工夫して、ザ・ボディショップのステイクホルダー(関係者)である人々の経済的なニーズと人間としてのニーズのバランスを保つ。
生態学的にいって持続可能なビジネスを果敢に行うこと。将来の世代のニーズを損なうことなく、現在の人々のニーズに対応する。思いやり、誠実、公正、敬意を大切にして行動綱領を定め、ザ・ボディショップが取引している地域、国際社会などには意義ある貢献をします。
情熱を持って環境、人権、公民権の保護を謳い、化粧品・トイレタリー業界における動物実験に反対するキャンペーンを行います。
たゆまず原則と実践のギャップを埋めながら熱意を持って、思いやりを持って毎日生活します。
5つのバリューズ
商品開発、お店のスタッフ、本部で働く人、ステイクホルダーの方々、すべてがこの5つのバリューズを基本にして行動をします。
(1)化粧品の動物実験反対する。
(2)コミュニティトレード−公正な取引により地域社会を支える。
(3)セルフエスティーム−ありのままの自分を大切にする。
(4)ひとりひとりの人権を尊重する。
(5)私たちをとりまく環境を守る。
具体的には、化粧品の動物実験反対キャンペーンとして店頭で署名活動を行ったこともありますが、実際この運動によって既にイギリスなどのEU諸国では化粧品の動物実験が禁止されています。日本ではまだ法律化されておりませんが。
コミュニティトレードは、社会的、経済的に恵まれないコミュニティを公正な取引によってサポートするという発想です。
発展途上国のコミュニティでは、商社などがとにかく安く原料を買いたたくことが多いですが、ザ・ボディショップは直接取引を行い、正当な対価を払います。
彼らが1ポンドでいいと言っても2ポンド出すこともあります。1ポンドは原料費として、あと1ポンドで学校や病院を作ったり、女性たちに仕事の機会を与えるといったことのためのファンドにしてもらいます。
つまり“フェアにトレード”していくことを掲げています。その結果、色々なところで潰れる寸前だった農村や農業組合が生き返り、そこで取れた原料がイギリスに輸出され商品化されて全世界へ配られているのです。
コミュニティトレードにより色々な国から原料、例えば、アフリカのナミビアから保湿力の高いマルーラナッツオイルや、インドからはむくんだ足を癒すフットローラーなどが届いています。
セルフエスティームは、自分らしい生き方をしましょうという提案です。ヨーロッパでもアメリカでも日本でも、化粧品会社が提供する一定の美しさに合わせるために、人々はダイエットしたりメークアップを変えたりしますが、そうではなく一人一人の個性を認め、自分をもっと好きになりましょうという観点を持っています。
一人一人の人権を大切にする運動として“人権賞”を2年に1回出しています。2年前は子どもの人権に対して活動しているNPOに賞を差し上げました。
社会変革をしているという誇りが生まれ、売上が向上する
日本のボディショップの働きかけを受け、イオン1%クラブが、一昨年、カンボジアの子どもたちに、屋根のある学校を10校プレゼントしました。その後、1%クラブで新しいプロジェクトが立ち上がり、今年度は57校を設立する予定です。
また、エイズの啓発キャンペーンに取り組んでおります。現在、世界中に4,000万人いるといわれているHIV感染者の中で900万人が発症していると言われておりますが、若いときからきちんとした教育が必要であるということでこの活動にかなり力を入れており、今年で6年目になります。
12月1日がちょうど「世界エイズ・デー」だったのですが、缶のコンドームケースを3カ月ごとに缶のデザインを変えて販売しています。自分の身は自分で守るためにコンドームを安全に持ってくださいという私たちからのメッセージとして“カンドーム”と名づけています。
コンドーム・メーカーからは、非常に廉価で一番新しい商品をご協力いただいており、売上の一部や募金はエイズ関連の市民団体に寄附しています。
こういう活動によってスタッフにも社会変革をしているという誇りが生まれ、売上向上につながります。不思議なことに104店舗の内、募金や署名が一番多く集まったところが売上もナンバーワンです。これがザ・ボディショップの一番の特徴です。
また、地球温暖化を防いでいきましょうというメッセンジャーとして、ハート型の地球を抱いたシロクマの“ハートン君”をキャラクター化しました。
この名前は、一般の方から募集し、この子が中心になってお店で署名を貰います。このぬいぐるみをギフトと一緒に売っていきます。
スタッフも地球環境に寄与しているという自信を持って売ります。非常に過激な成り立ちで始まったザ・ボディショップですが、今は当たり前のこととして活動しています。
レジでは必ずお客さまに、袋はご入用かどうか聞きます。どうしても要りますと言われる場合はギフトの場合なので、使用後にシンクのゴミ袋になるギフト袋を開発しました。
ごみとなる包装材を減らすには、もう1回利用できるものを開発しようということで、シンクのゴミ袋をつくっている会社に相談して、特別に作ってもらったものです。
これに「このリユースバッグにもう一度仕事をさせてください。シンクの水切りとしてご利用いただけます」というメッセージがついています。
実はこの袋を使うと10円程度高くなります。しかし、このメッセージが社会変革のPR活動の一環と捉え、バジェッドは社会貢献のほうでカバーをしていきます。
■ビル・ワァーリン パタゴニア日本支社長
パタゴニアの本社はカリフォルニア州にあり、アウトドアビジネスの本拠地になっています。
パタゴニアのミッションステートメントは、「ビジネスを手段として、環境危機の警鐘を鳴らし、解決に向けて貢献するために存在する」というものです。
1973年に立ち上げ、今では1,000人以上の従業員が働いています。ワールドワイドの売上が約2億2,500万ドル、1ドル125円換算で約280億円の売上になります。
アメリカ、ヨーロッパ、日本での直営店は約33店舗になり、eビジネス、通信販売(メールオーダー)、アウトドア専門のホールセール(卸しのアカウント)といった仕事もしている他、グローバルな基盤を持つ製造も行っています。
4つのコアバリュー
パタゴニア日本支社では、約160人のスタッフが働いています。ホールセールのディーラーは約200件、直営店の数は9店舗、またウェブのビジネス、通信販売(メールオーダー)のビジネスも営んでいます。
本社が鎌倉にある主な理由は、海が近くにあり、波が良いからです。
社会に貢献をしていこうという姿勢を持っているボディショップやパタゴニアのような会社はコアバリューにすごく力を入れています。
ただ単に損益を気にするのではなく、それ以上のものを社会に訴えていくため、また何か決断をする時は、必ずこの4つのコアバリューに立ち戻ります。
(1)クオリティ(質)
製品面でのクオリティのみならず、我々のスタッフ、そしてまたカスタマーの皆様に対するサービスの質も含まれています。
(2)インテグリティ(誠実さ)
どのような形でビジネスを運営していくのか、マネージしていくのか、それに対して誠実さを持つ、という考えです。
これはサプライヤー、従業員、競合他社に対してさえも誠実さを持って接していきたい、という意味も含まれています。
(3)ノット・バウンド・バイ・コンベンション(既成概念にとらわれない)
より良い方法を探求することに確信を持っているのは、日々、世界や市場が変わっているからです。その変化と共に動かなければ置いていかれてしまう、と我々が考えるからです。
勿論パタゴニアの保持するバリューは変わりませんが、私たちは日々変わっていかなければいけないのです。
(4)エンバイロンメンタリズム(環境主義)
今我々が住むこの世界は、環境危機に直面しています。そこで、社内での環境活動は、主に3つのことにフォーカスしています。
第1に、どのように会社を回しているのかという社内面のオペレーション。
第2に、製品の製造全過程を分析するライフサイクル分析。原料、製造工程、最終的にでき上がった製品、実際にお客様の購入後製品がどうなっていくのか、すべての行程を見て分析します。
ただ単に自然保護団体に寄附するのでは足りない、環境に対する負荷を最小限に抑えていかなければいけないと考えています。
第3に、環境活動として、純売上の1%をローカルで活動している環境団体に毎年寄附しています。
昨年度、パタゴニア日本支社では約13の環境団体に資金の寄付をしました。今年12月末までに別途約8団体に寄附していく方向で今進んでいます。
また、カタログを通じてパタゴニアが持つ環境への姿勢を訴えています。
広告等を作成するクリエイティブという部署がありますが、そこで働いている人の時間を使って、例えば環境団体のブローシャーやフライヤーをつくるお手伝いをする活動を行っています。
また、インターンシップ・プログラムをスタッフのために用意しています。これはパタゴニアのスタッフが希望する環境団体で、4週間まで仕事をすることができ、その間パタゴニアが、そのスタッフのサラリーを払いつづけるといったシステムです。
また、リーブ・ワーク・フォー・グッドというキャンペーンとして、お客様にも同じことを行っていく予定であり、この場合、期間が2週間になります。
『フォーチュン』で上位企業にランキングされる
『フォーチュンマガジン』誌で、働きやすい環境を持っているトップ100の企業の中にパタゴニアが選ばれました。
今年は第41位にランキングされたと思いますが、パタゴニアよりもさらに40社がよりすばらしいと言われてしまうのは、社内の人間としては多少驚いてしまいます。
また同様に、『ワーキングマザー』という雑誌でも働きやすい環境を持っている会社としてランクづけされたことを非常に誇りに思います。
従業員への精神的な報酬
最初からきちんと作り上げられた社会的なアジェンダを持ってビジネスが生まれることは、非常に稀なことです。
通常ビジネスは「利益を上げていかなければならない」といった課題があります。一方、社会的・環境的な貢献をしていきたいという気持ちがあったとしても、ビジネスを運営し、必要条件をクリアしなければ、良い形で貢献をすることはできないので、まずはビジネスを正しく運営することが先決なのです。
ただ単にビジネスの損得だけにフォーカスしていくのではなく、それ以外に自分たちの中で何かアジェンダを持っていることが、ビジネスを具体化していく中での強みになっていく、と確信を持って言えます。
その例として、私は次のようなことに気を配っています。
従業員に対し、ただ単に「お疲れさま」と声をかけるのではなく、彼らが何かに関与し、貢献しているという自負を持って、非常に気持ち良く働いてもらえるよう、精神的・感情的な面でも訴えていくことを行っております。
例えば、大自然に流れる川を保護することに自分も貢献できたのだ、と感じることを“精神的な報酬”と呼んでいます。
私は、約30年以上アウトドア業界で働き、環境保護活動に参加してきました。金銭的な面では自分なりに満足しておりますが、それと同時に精神的な面での満足度を考えますと、私の心は非常に裕福だとはっきり言えます。
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