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広い領域管理が今後の課題
 
 アゴース インドネシアの人口は約2億人。面積は経済専管水域を含めると780万平方キロメートルあります。島の数は17,508。インド洋、太平洋の二つの大海に面しています。
 国境について、インドネシアの近隣諸国にはマレーシア、インド、タイ、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、パプアニューギニア、フィリピンなどがあります。国境は国家の主権を守るものであり、その意味で近隣諸国と国境や経済専管水域などに関する協定を結ぶなど話し合いをしています。例えば、オーストラリアとはクリスマス島をオーストラリアに渡し、その周辺を経済専管水域にするということで合意しました。
 資源の利用に関しては、密漁などの不法な活動の可能性はありますが、きちんとした国際法があり、それにのっとって行っています。
 いくつかの問題もあります。ベトナムとの国境問題で、大陸棚の問題があり、これまで26回の会議を行いましたが、まだ合意に至っていません。また、これも大陸棚に関するものですが、マレーシアとシンガポールとの二国と結んだ協定に統一性がないといった問題、かつてインドネシアの一部だった東チモールとの領海でもその線をどこにするかといったものもあります。
 広い領域を管理していく上で、自分たちの国と接する国・地域との間にどう国境を引き、協定を結んでいくかが、インドネシアにとっての大きな課題であり、今後も取り組んでいかなければなりません。
 竹田 インドネシアは本当に大きな国だし、国境問題に関しても近隣諸国との調整が必要なんですね。さて、川崎さんに九州と海、アジアとの関係についてお願いします。
 
 
 
海峡という視点から交流を
 
 川崎 私なりに考えた海や国、島について話したいと思います。
 新聞に、継体天皇陵とされている大阪府高槻市の今城塚古墳(6世紀前半)で、国内最大の埴輪(はにわ)祭祀(さいし)スペースが見つかったという記事が大きく載っていました。継体天皇は、九州の豪族・磐井氏と戦ったという史実が日本書記に記されています。大和朝廷の始祖ともいわれ、国家の基礎を作りました。約1500年前の人ですが、何か近しい感じを受けました。
 当時の大和朝廷は百済と親しかった。一方、磐井氏は新羅と協力。その結び付きを経ながら、日本という国ができていきました。対馬海峡を超えて、物が入ってきただけでなく、その結び付きでいろいろな文化的交流が生まれ、国ができた。それをつないだのが海だったんだな、と感じました。
 今、福岡からは高速船を使えば、約3時間で釜山に着きます。飛行機も飛んでいるんですが、これが海でつながることで、韓国と福岡の関係がより密接になっていると思います。
 九州の昨年の貿易額(門司税関調べ)をみると、約6兆円。輸出・輸入ともほぼ半分がアジア。輸出額の順位は韓国、中国、台湾、インドネシアと続きます。輸入では中国、台湾、インドネシアの順です。アジアとの結び付きの強さを表しています。
 九州が今後、海を活用してアジア、そして世界とつながっていくには、博多港などの主要港湾の機能を強化していく必要があります。24時間運用のハブ港も必要でしょう。その点でみれば、福岡市が今、建設中の人工島にも役割があると思います。
 一昨年、西日本新聞の正月号で「九州人とは何だろう」という特集を組みました。九州には南から来た人、中国大陸から来た人、もともと日本にいる人などさまざまなルーツを持つ人間がいます。民族のきっかけを作ってくれたのが海です。いろんな多様性も海がもたらしてくれました。
 私たちは、これからも多様性ある文化の交流を海を通じてしていくこと。それが魅力ある九州を作っていくのだと思います。
 
ディスカッション
 竹田 国境問題や紛争を解決するにはどうしたらいいでしょうか。
 アゴース 先日、ジャカルタで科学者が集まって会議がありました。どの科学者も共同研究に積極的で、魚類などの研究を通して国境問題など紛争を解決するきっかけになるのでは、と感じました。
 竹田 大学生は海について、どう受け止めているでしょうか。
 アゴース インドネシアの学生は海に対する意識があまり高くありませんね。私の大学では、意識を高めるために、海の勉強を必須科目にしています。
 最近、インドネシア政府は海洋資源、例えばエネルギーなどの点から「海は収入の源」と考えるようになり、その意識もだんだんと変わってきています。
  私の大学では、海や海岸に関するものを研究するプログラムがあります。学生に海に対する環境の認識を高めてもらうといった狙いがあります。自分たちの環境をもっと守っていくために、中学生や高校生への働きかけも必要ですね。
 川崎 私たちの時代は「海は汚染されたもの」という認識でしたが、科学技術の進歩で海はきれいになり、それによって学生が海洋工学など海に関する学問に興味を示すなど、意識は変わっています。
 荒井 日本人は昔、海を見て生活し、国際感覚が自然に身に付いていました。今は陸を向いて海に背を向けるなど、その意識が薄れているようです。海から陸を見るという意識も生活の視点を変え、国際性を養う上でも大切なことだと感じます。
 竹田 海を通じての連携についてご意見を伺います。
 アゴース 国々の間の協力は大切です。先日、クアラルンプールでUNDP(国連開発計画)が、東アジアの海洋管理に関するパートナーシップについてのプログラムを発表しました。東アジアの国々が協力して沿岸・海洋地域を管理していこうというものです。このような施策を進めていくことが大事です。
  2004年にインドネシアで第二次APEC(アジア太平洋経済協力会議)の閣僚会議を開きます。私も関与していますが、そこで、海洋保全に関する会議を予定しています。地域間の連携を図る上でもこういった会議などを行っていくべきです。
 川崎 私は海峡に注目したい。海峡を隔てた二国間で交流を深めていくことで、全体の連携へとつながっていくと思います。
 荒井 島国根性には排他的な面がありますが、半面、多様で独自な文化を築いてきました。
 多様な文化を持つ国・地域が連携していくには、国境問題だけでなく遊びも含め、いろんな課題に協力しながらチャレンジしていくことが、連携に結び付くと思います。
 







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