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セッション1「民の海」
 
〈モデレーター〉
山田 吉彦氏(日本財団海洋船舶部国内事業課長)
〈パネリスト〉
シンプリシオ・アゴザールJr氏(フィリピン沿岸警備隊コマンダー)
赤嶺 淳氏(名古屋市立大学人文社会学部助教授)
ハズマン・ビン・フーセン氏(マレーシア政府半島海事局南部地域本部長)
石原 義剛氏(海の博物館館長)
 
海を介してきずな深まる
 
 山田 博多湾に、「鄭和(ていわ)」という名のクルーズ船があります。鄭和とは15世紀の中国、明朝の高官で、当時の永楽帝に派遣され、南京近くの港から北アフリカまで、約200隻の艦隊で南海大航海を行った人物です。当時、それだけの艦隊の力があれば、沿岸部の国々を征服することができましたが、鄭和は各地域の独立を支援する活動をしました。私は、鄭和は海の上をさまざまな民族が行き交い、ともに繁栄する社会を目指して航海を続けていたのではないかと思います。私たちも同じように、アジアの海に生きる国々が連携し、発展することを目指したいと考えています。このセッションで、今後のアジアの国・地域の共存共栄のあり方を見いだしていきたいと思います。
 まず、フィリピンの海洋汚染対策の専門家であるアゴザールさんにお話をうかがいます。
 
統一的な管理の枠組み必要
 
 アゴザール フィリピンの島の数は7,100を超え、漁獲高は世界12位。中でもマグロの漁獲高はASEAN(東南アジア諸国連合)第2位です。現在、フィリピンの沿岸部は、海洋汚染による生態系破壊などの危機にさらされています。国内交易の98%を海上輸送に依存しており、海洋汚染は深刻な問題です。
 青酸ソーダやダイナマイトを使った非合法で破壊的な漁法や乱獲、ごみや有害物質の投棄、無秩序な土地開発などによる汚染が拡散し、周辺国の海洋環境にも影響を与えています。そのため、ASEANやAPEC(アジア太平洋経済協力会議)などで、汚染防止のための広域的な協力協定が結ばれています。フィリピン国内でも、有害物質などによる汚染防止法を制定しています。
 海洋汚染問題の解決には、国民の環境に対する意識を高めると同時に、沿岸諸国やそれ以外の国々、NGOなどさまざまな人がかかわる形で統一的な管理の枠組みを作ることが必要です。
 山田 続いて赤嶺さんから、東南アジアの島嶼(しょ)国の人々の生活を紹介してもらいます。
 
独自性と共通性見直す時期
 
 赤嶺 フィリピンやインドネシア、マレーシアなどの島々から成るウォーラセア海域と呼ばれる地域の人々の暮らしについてお話しします。この地域は水深が深い多島海で、陸には熱帯雨林が広がっています。大きな特徴は「移動分散型社会」であることです。人口が少なく海産物と林産物が豊かだったため、歴史的に島から島への人々の移動が多い社会が形成されたのです。
 ウォーラセアを代表する自然環境の一つ、マングローブは、南洋備長炭として日本に炭が輸出されています。また、ここで養殖されるエビも日本へ輸出されています。
 ウォーラセアをはじめ東南アジア各地で行われている石干見(いしひみ)という仕掛け漁法は、日本でも沖縄や五島列島で見られます。このように、ウォーラセアと日本は多くのつながりや共通点を持っています。
 今、東南アジア各地域の独自性と日本との共有部分を冷静に見直す時期にあるのではないかと考えています。
 山田 次はマラッカ海峡の海上交通について、ハズマンさんからの報告です。
 
リアルタイムで情報提供へ
 
 フーセン マレーシア、インドネシア、シンガポールの3カ国に挟まれたマラッカ海峡は、1日300隻もの船が航行する、世界でも最も海上交通が激しい地域です。
 マレーシア政府は、航行標識委員会を設けてマラッカ海峡の航行安全支援に取り組んでいます。海峡のマレーシア側には123カ所の信号所と8カ所の灯台が点在し、航行する船を持続的にモニタリングして、衝突が起こらないよう、海峡ユーザーに助言サービスを提供しています。
 また、マレーシア、インドネシア、シンガポールの3カ国間には「テクニカルエキスパートグループ」という政府機関があり、緊密な関係を保ってマラッカ海峡の航行安全を図っています。さらに、2005年完成予定の「海上エレクトロニクスハイウェー」が供用開始されれば、海峡の情報をリアルタイムでユーザーに提供することができるようになるでしょう。
 山田 最後は石原さんから、日本人と海とのかかわりをお話しいただきます。
 
地域の伝統が変わり伝わる
 
 石原 舟競漕の祭りをテーマに考えてみます。日本の海の祭りは、航海の安全、大漁祈願に加え、病魔退散や魔よけの願いも込められています。日本では古来、海を神と考え、海の祭りは神に願いと感謝をささげるものだったのです。
 竜の飾りがついた舟で行う竜船競漕は、中国の揚子江流域から日本やアジア全土へ伝わっていったといわれます。日本では沖縄のハーリー、長崎のペーロンが有名です。この二つは進行方向を向いて櫂(かい)をこぎ、竜船競漕との類似性があります。それに対し、熊野速玉大社の御船(みふね)祭や厳島神社の管絃(かんげん)祭などには、進行方向に背を向けてこぐ櫂伝馬の舟が見られます。ほかに、櫨による日本列島独自の競漕も各地に残っています。
 舟競漕は、舟をこぐという同じ文化要素ですが、造船方法や漕法など、微妙に差があり、地域的な独自性を持っています。つまり、舟競漕の文化は単に模倣されるのではなく、各地域の伝統に影響されながら、形を変えて伝わっていったのです。
 
ディスカッション
 山田 石原さん、沿岸では塩づくりも盛んに行われていますね。
 石原 日本にも海水から塩を取る方法はバラエティー豊かです。昔、日本には藻塩という塩がありました。何らかの形で海藻のミネラルを取り込んだ塩なのですが、なかなか再現は難しいようですね。
 赤嶺 ウォーラセアにはニッパヤシというヤシがありますが、淡水と海水の間に生える植物で、葉を焼いて塩を取ることができます。もしかしたら、藻塩と何か関係があるかもしれません。
 山田 フィリピンやマレーシアでも舟競漕は行われていますか。
 フーセン マレーシアでも特に竜船競漕はポピュラーなスポーツです。毎年、世界中から参加者が集まる国際的なイベントも行われます。
 アゴザール フィリピンでも、スポーツとしてダブルリガーを使った舟競漕が行われます。その舟は、漁業や小さな島同士の移動や輸送にも使われています。
 山田 古くから、海には海賊の問題もありますが・・・。
 赤嶺 歴史的に、東南アジアでは人は重要な資源。昔の海賊は労働力として人をさらっていました。連れていかれた人は、技量に応じて出世ができました。今の海賊は国境をスピードボートで移動して観光客をさらい、身代金を要求する。昔とは全く質が違います。
 フーセン  数年前に、マラッカ海峡の海賊問題が取り上げられましたが、今は海賊対策が効果を挙げ、ずいぶんと減っています。海賊行為は緊密な情報網に支えられた組織的犯罪。海賊が情報を手に入れられない仕組みを作れば、歯止めをかけられると思います。







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