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地域文化シンポジウム「シンポジウムなると’02」報告書 「先生もトクする教室でのマンガ・アニメの底力」

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


●第2部 谷川彰英・筑波大学教授 「ストーリーマンガを授業に活かす!」
要点
・今、教育現場では、教科と総合学習をどう関連づけるかといったことがすごく関心の的になっている。
・教科は学習指導要領というものがあって、教科ごとに目標と内容と内容の取り扱いが決められている。カリキュラムが国の枠で決められている。
・総合的学習の本質は何かと言ったら、その枠がないっていうことだ。
・学習方法の面で見たら基本的にそれほど違いはないが、どういう内容を教えるかということに関しては、学校ごとに決めていけばいい。
・だから総合学習は、どうしてマンガばかりやっているのですかと言われたら、説明する責任がある。国のカリキュラムにしたがっている教科と違い、これは真剣勝負だ。
・私はもう7、8年くらい学生と一緒に教材開発をして、小・中・高等学校で授業をやっている。
・ストーリーマンガでも、授業では作品を選ぶということがすごく重要。国語の教科書でも作品を探すのに、何百、何千というものを当たるという。マンガも同じことだ。
・たとえばかわぐちかいじ氏の「沈黙の艦隊」という作品。その中で、日本が国際的危機に落ち込んでいったときに首相を国民投票で選ぶという想定のもとに、4人の党首がテレビ討論会をする。最後にアナウンサーが、ある問題を提起して、あなたはどうしますかと尋ねる。
・教室では4つのグループに分け、それぞれの党首の立場で討論をする。
・子どもたちは、いろいろ考えてくると、あてがわれた役割だけでは満足しなくなってくる。そして最後は、選挙をする。
・これはディベートとは全然違う。ディベートは最後まで役割を外さないで、競技ディベートの場合はどちらが勝ったかを判定する。どちらが勝ったかというのは大して意味ない。
・命とは何か、生きるとは何か、民主主業とは何か、ルールとは何か、このようなテーマが全部出てくる。まさしく総合学習のテーマである。
・人間の成長に必要なことは二つある、比喩的に言うと教科書の世界とマンガの世界だ。
・教科書の世界は正しい、合理的、学問的、あるいはそれを覚えるとか記憶するとかいうような世界だ。マンガの世界は、手塚治虫氏によると3つのキーワードがある。夢見る力とチャレンジする力、批判力だ。
・この二つがつながって両方あることが必要である。
 
きっかけは矢口高雄先生との出会い
 最初に、私がどうしてマンガにかかわりを持ってきたかということについてお話します。私は昭和20年生まれですから、週刊マンガの雑誌が出始めたころは中学校1年生ぐらいです。長野県の山の中で育ちましたから、そんなもん手に入るはずもない時代で、中学校のころはほとんどマンガなんて読んだことがなかったわけです。
 小学校のころは「赤銅鈴の助」という世代で、それから中学校、高等学校、大学ときて、大学の教師になっても、ほとんどマンガという世界は無縁の存在でした。それが10年ほど前に急にマンガの世界に入ってきて、今はマンガ家協会の会員にもなって、マンガ家の応援団長みたいな役割をやっています。マンガにはまったのは、ある1人の作家との出会いがあります。
 小学校低学年に生活科という教科ができてから、ちょうど10年たちました。私は教育学で社会科をやっていて、1987年(昭和62年)に「授業を創る」という活動を始めたところ、すぐに小学校低学年の理科と社会科を廃止して生活科を作ることになったわけです。そのときに私は直感的に、これはいけると思って、表と陰の両面にわたって相当大きな貢献をしたと思っています。平成3年11月に「生活科完全実施100日前のシンポジウム」を開催したとき、矢口高雄さんに記念講演をお願いしました。矢口さんのお名前は知らなくても、「釣りキチ三平」って聞くと皆さんわかると思います。
 実は彼にエッセイがいくつかあるんですけれども、教育関係者に是非読んでほしいのが『ボクの学校は山と川』と『ボクの先生は山と川』です。彼は昭和13年生まれですから戦争直後に小学校に入ってるんですが、それから戦後の新教育時代に秋田の山の中でさまざまな自然体験をしたことを、エッセイとマンガで書いています。昭和20年代の日本の学校教育は何をやったのかということを、非常に克明に描いています。
 そんなことで、釣りもそうなんですけれども、自然体験の中で子どもは育つんだという話をしてもらったところ、えらい反響があったんです。普通、マンガ家って、描くのは得意ですが、しゃべるのは苦手なんです。でも、矢口さんは、絵を描いてもうまい、文章を書かせてもうまい、マンガはもちろんうまいし、カラオケもうまいという、何拍子もそろった方なんですね。
 矢口さんは10年ちょっと前に『僕の手塚治虫』という本で、自分がいかに手塚治虫の作品にしびれて、マンガ家になったかを書いています。彼は、高校を卒業してすぐ銀行に勤め、10年間くらいやってるんですけれども、どうしてもマンガの夢が捨て切れないというので、30歳超えてから妻子を田舎に置いて単身上京し、1年後か2年後ぐらいに「釣りキチ三平」でヒットしたんです。普通、マンガ家ってもっと若い時期からデビューするんですけど、こういう人はマンガ家の世界では極めてまれなケースです。
 彼の場合は自然を描いた作品がとても多いんですけども、特に奥羽山脈の自然を描いた作品が多くて、教科書にも入れてみようということで、実は平成4年度版から5年生の社会科の教科書に見開きで入れたんです。
 その会社は、平成4年から使われた教科書にドラえもんも入れたんです。小学校の先生はひょっとして使っている方が多いと思います。全国シェアが54〜55%いってますので。そのときも僕らは随分迷ったんです、ドラえもんを入れるか入れないか。ドラえもんとのび太としずかをキャラクターとしてあちこちにちりばめて、キャラクターに言葉を言わせるような形の教科書づくりをしたんですけど、それに対しては、学校の現場っていうのは保守的だから、マンガなんか取り入れたら逆効果じゃないかって言う人も随分多かったです。
 僕らもそれを心配したんですけれど、結果的には大ヒットでした。やっぱりドラえもん、のび太、しずかのキャラクターっていうのがうまく出てるんですね。のび太はどちらかというと伸び伸びじゃないですか。しずかはちょっと賢そうな女の子で、ドラえもんは何でも助けてくれるみたいなところがある。キャラクターの性格が少しずつ違っているので、うまく教科書に入り込めるということです。
 それで矢口さんのは、環境問題のところで釣りも入れながら環境を考えようというページを入れたんですけど、これも結構よかったと思っています。
 実は「釣りキチ三平」は、僕は別に感動しなかったんです。僕は釣りをやってるわけじゃないので。ただ、僕が完壁に負けたと思った小さな作品があるんです。『ボクの学校は山と川』が講談社の文庫に入れられたときに、矢口さんが意図的に一つのマンガの作品を組み込んだもので、「百日咳」という短篇なんですけども、これを読んで僕は全身から感動を受けました。それは、昭和22年ころ、矢口さんの三つ年下のトミオ君という弟が百日咳で死んでいくっていう話なんです。矢口さんの絵というのは描写力がすごいんです。僕は、京都で新幹線に乗るときキオスクで文庫を何気なく買って、東京までの間読んだんですけど、涙がとまらなかったですね。
 あの当時、おじいちゃんが全部お金を握っていて、風邪ごときで医者なんか行くなと。田舎ですから、町中まで出るのに20キロ余りあるんです。それで、お母さんが一生懸命トミオ君を看病するんだけど、最後に亡くなるんですよ。これはちょっとマンガの本質にかかわることなんですけど、マンガっていうのは基本的に絵ですから、僕が言葉でどんなに言っても矢口さんの絵を再現することは不可能です。ですからこれは読んでもらうしかないんですけれど、3歳の男の子が母親の胸の中で苦しみながら、目をがあっと開けて死んでいくっていうさまです。その後、お母さんがどうしたとか、大工のお父さんが自分で棺桶を作るとか、そういうところをずっと描いてるんです。
 これを見て、僕はマンガに対するイメージが180度変わりました。マンガというと、どちらかというと軽いもの、おもしろおかしいもの、そういうイメージを持っていましたが、根本的にそれは違うことなんだと僕が認識を変えたのは、その「百日咳」という作品によってです。
 日本のマンガというのは、ものすごくいろんなジャンルをマンガ化できる。ですから、石ノ森章太郎さんはマンガを「萬画」と言いました。すべてのものが書けるんだということです。だから、「仮面ライダー」とか「O09」なんか有名な作品ですけども、でも「ホテル」とか「日本の歴史」とか時代劇物とか、あらゆるジャンルのものを彼は書いていたわけです。
 よく、ストーリーマンガは手塚治虫さんから始まったと言われます。手塚先生は「マンガの神様」、石ノ森先生は「マンガの王様」と言われますが、順番としては石ノ森さんのほうが先だったようです。石ノ森章太郎さんはもともと手塚治虫さんのアシスタントをしていた人ですが、だんだん石ノ森さんが名声を博していくわけです。手塚治虫さんという人は、ものすごく嫉妬心の強い人だったらしいですが、一番嫉妬心を抱いたのがたぶん石ノ森章太郎だったろうと思います。それから、ジブリの宮崎駿さんです。宮崎さんはアニメで成果を収めているんですけども、もともとアニメーションも手塚治虫から始まってるわけですから、そのすぐれた才能に対して非常に嫉妬心を持って、絶対負けまいと思っていた。
 それで、石ノ森さんが「マンガの王様」と言われるようになると、手塚先生としてはおもしろくないわけです。あるパーティーの席上、手塚先生が石ノ森先生に、「君は最近マンガの王様と言われてるらしいけれど」と言ったら、さすがに石ノ森さんもすごいですね、「いや、先生はマンガの神様です」って言ったそうです。それでうまくいったんですって。王様より神様が上ですからね。
 そういうエピソードがあるくらいで、実は石ノ森さんという人は、手塚先生の開いてきたジャンルにはいっさい手をつけなかったんです。その周辺を固めたんです。だから僕は、その後いっぱい作家がいますけど、手塚さんと石ノ森さんの2人によって大きな富士山ができたんじゃないかと思っています。
 
マンガと総合学習
 そうやってマンガ家の皆さんといろいろ接してきたんですけれど、それが今度の総合的学習でどう生かされるかという問題ですね。
 これから総合的学習に関して話しますから、この話は是非理解していただきたいんです。これは実に単純なことなんです。総合に関しては、いろんな人がいろんなことを言ってますが、ほとんどが十分認識されていないというか、本質を理解してないと僕は思っているんです。今から話すのは僕の解釈なんですけど、簡単に言うとこういうことなんです。
 今、教育現場では、教科と総合をどう関連づけるかといったことがすごく関心の的になっている。総合の文言と教科の文言が似てるじゃないですか。主題を自分で選択するとか、問題解決能力とか、表現とか、そんなのはほかの教科でもやってきたことでしょう。それで混乱しているわけですよ。現場の先生方は、教科と総合の関係をどうしようかと考えて、いろいろやってるわけです。ところが、そこに実は落とし穴がありまして、この関連を考える以前に教科と総合はどこが違うのかということをきちんと押さえないと、本質がわからないんですよ。
 簡単に言うと、教科と総合がどう関連するかではなくて、どこが違うのかということだけなんです。教科というのは学習指導要領というものがあって、教科ごとに目標と内容と内容の取り扱いが決められていることは、だれもが知ってることです。道徳も特活もそうです。これはいうなれば、国の一定の基準があるってことなんですよ。例えば、漢字は何年生に何を教えるか決まってますね。社会科だったら、歴史は6年でしかできない。うちの学校は特殊な事情があるから歴史を4年生でやりたいといっても、それはできない相談なんです。カリキュラムが国の枠で決められているから。教科は全部そうですよ。
 ところが、総合的学習の本質は何かと言ったら、その枠がないっていうことなんです。枠がないから、総合のカリキュラムは、各学校ごと、教師ごと、あるいは地域ごとで作ってもいい。だから、総則ではどんなネーミングでも構わないって書いてあるじゃないですか。だから、道徳は全国どこへ行っても道徳ですが、総合の場合は学校によって、何とかタイムと言ったり、何とかの時間と言ってみたりしてるじゃないですか。
 もう一つ皆さんに理解してもらいたいことは、問題解決能力とか何とか書いてあるから、表面的には従来の教科と同じように見えますし、学習方法の面で見たら基本的にそんな違いはないんです。どういう内容を教えるかってことに関しては、これは各学校ごとに決めていけばいいっていうだけのことなんですよ。そういうことだから、総合は本質的に説明責任があるんですよ。
 私が指導に行ってる学校で、総合的学習をマンガを軸にしてカリキュラムを作りたいと言うのです。僕もその気になってるんですよ。それは一つの特色だから、各学校の特色を持っていったらいい。では、説明責任というのはどういうことか。教科の場合は、分数は何年生で教えるのかと保護者に聞かれたら、指導要領でこうなってると言えばいいじゃないですか。でも総合は、どうしてマンガばっかりやってるんですかって言われたら、説明する責任があるんですよ。だからこれは真剣勝負なんです。教科が真剣でなくてもいいっていうわけじゃないけど、総合は本当に真剣です。







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