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 学生―オリジナルから離れたエピソードを清水さんたちが作った場合、それに対して尾田さんは原作者としての権利をどこまで主張できるのですか。
 
 清水―マンガのキャラクターを使ってアニメーションを作っていますから、基本的にテレビアニメーションの原作者は尾田さんですし、これからアニメーションのストーリーの半分を僕たちが作っても、原作は尾田さんということになります。
 
 学生―アニメーションを止めるかどうかは誰が決めるのですか。尾田さんが止めると言えば止めるのでしょうか。
 
 清水―アニメーションを作っているのは僕たちですから、映像に関する権利はこちらにあります。続けるか止めるかは、テレビ局、代理店、アニメーション制作会社、出版社が話し合って決めます。
 
 学生―ドラゴンボールGTというアニメーションはどうだったのですか。
 
 清水―あの番組は2年間放送しました。ドラゴンボールのキャラクターを使って、うちのスタッフが作った作品です。鳥山明さんは、ドラゴンボールGTのためにキャラクターの何体かは起こしていますが、ストーリーづくりには全然入っていないはずです。キャラクターを使っているので鳥山さんにはロイヤリティを払いますが、やはり映像権はこちらにあります。
 
 森川―ワンピースを1本作るのに、いくらぐらいかかりますか。スタッフや声優さんに支払う割合はだいたいどのくらいでしょうか。
 
 清水―それは企業秘密なんですが、テレビ局からもらうのは1本(30分)につき約900万円です。でも、1本作るのに約1100万円かかりますから200万円の赤字で、月に4本作るので毎月800万円の赤字です。うちの会社ではテレビシリーズを6本作っているので、毎月約5千万円の赤字が出ていることになります。
 そうすると会社はどんどんダメになるはずですが、実際には会社の株はどんどん上がって、不景気にもかかわらず株価は大変高くなっています。そこにアニメーションビジネスの秘密があります。
 
 学生―赤字なのに、どこから収入があるのですか。スポンサーから利益があるのですか。
 
 清水―そうではありません。キャラクターの版権やDVD化したときのロイヤリティなどがあります。例えば、グラスにワンピースやドラゴンボールの絵がついていれば、そのキャラクターライセンス料が積もり積もってものすごい額になります。だから、アニメーションビジネスに多くの人が注目しています。特に日本のアニメーションはマンガから出ているので、キャラクターが前面に出ています。アニメーションのキャラクターは世界中から注目されています。スピルバーグもドラゴンボールを映画化しようとしていますが、もしそうなったら集英社と鳥山さんには相当なお金が入るはずです。
 それから、森川先生の質問の続きですが、現場にかかるお金は7、8割、残りは受けた会社の間接費です。
 アニメーションをやっている人はみんな貧乏ですね。何回か先に、演出の西尾大介さんが講師として来ますが、彼が監督したアニメーションのドラゴンボールはあんなに大ヒットしたのに、非常に貧乏です。むしろ、貧乏を自慢していますが。
 アニメーションの絵を1枚描くと約300円になります。30分のテレビアニメーションだと3000枚ぐらい描きます。背景の絵は250枚ぐらい描きますが、1枚1800円から2000円です。背景は1日2枚か3枚しか描けませんから、背景だけ10年ぐらい描いている人でも、2000円×4枚で8000円ぐらいが1日の収入なのです。現場はそういう中で作り続けていますが、僕たちとしてはそういうことに甘えず、現場で働いている人たちにももっと十分なお金が行くようにしていきたいと思っています。
 これは日本のアニメーションが内部に抱えている問題です。周りからは、日本のアニメーションは素晴らしい、世界に出ていけると言われるけれど、実際の現場はそんなにすごいところではないのです。みんなアニメーションが好きでこういう仕事についているけれど、これからは働いている人たちも潤うように改善していきたいと考えています。
 アニメーションは、どうしても1人では描けないので、人海戦術で何人も関わって描いていますが、これからはコンピュータを使った色づけや撮影など、機械的な作業はデジタルで省力化もできます。それによって、もっとクリエイティブな仕事にお金を還元できるようになるかもしれません。そうすれば、アニメーションの現場に入ろうという人がもっと増えるかもしれません。
 そうやってデジタルを使うようになると、もっとアニメーションの可能性が出てくるけれども、最初に言ったように一番の魅力はアナログであることに変わりありません。紙に描いたものをデジタルで取り込んで、デジタルで放送するけれど、ストーリー1つ作るにしても人間が考えなければなりませんから、僕たちの仕事はどこまでもアナログでやっていくことになります。
 
 学生―マンガがベースではなく、一から作られたアニメーションはありますか。
 
 清水―たくさんあります。「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」もそうですね。宮崎さん、高畑さんは東映アニメーションの先輩です。会社は組織ですから、自分のやりたいことがなかなかやれないので、今から30年ぐらい前に会社から出て、自分でやっているのです。
 
 学生―マンガから作るのと、一から作るのと、どちらが簡単ですか。
 
 清水―人によるでしょうが、僕はどちらでも大丈夫です。全くオリジナルでやれるなら、それも楽しいでしょうね。ゲゲゲの鬼太郎という妖怪ものを作ったときは、毎回僕たちが1話完結のストーリーを作りました。たくさんあるキャラクターはマンガのものを使っているけれど、オリジナルアニメーションに近いですね。僕の場合は、原作に沿ってやるにしても、オリジナルでやるにしても、最終的におもしろいものを作るということは同じなので、どちらでも楽しいです。
 僕の年齢の関係もあって、どうしてもヒットさせなければいけないので、有名な原作があるものが必然的に多くなります。自分で全くオリジナルで作りたいと思っているものもあります。例えば、2週間ぐらい前に休みがとれたので、仲間と横浜のブリキのおもちゃ館に行きました。そこで、ブリキのおもちゃを主人公にしたアニメーションができないかと、仲間と考えています。毎日、酒を飲みながらそういう話をするのが楽しいですね。僕は、自分の仕事が大好きなので、休みの日も一日中仕事をしているようですが、それを仕事とは思っていません。
 
 学生―西洋の大人向けにもアニメーションを出したいと考えていますか。それともやはり子供向けに出したいのですか。
 
 清水―両方やりたいですね。
 毎日のニュースを見ていると、アフガニスタンのこと、ニューヨークの事件、日本でも親が子供を殺したり、子が親を殺したりするような、いやなニュースがたくさんあります。そして、僕たちには、そういうものを見て感じたことを表現する手段があります。今の子供たちはすごい重圧の中で生きていると思います。助けてくれと悲鳴をあげているのかもしれない。僕たちはその一人一人は救えないけれど、日本では1千万人がワンピースを見ているのです。テレビの向こう側にいる子供、例えば自殺しようと思っている子供に、直接言葉では言えないけれど、とにかく自殺するのは今日はやめておけと言いたい。ワンピースを見てから自殺してくれ。今日見たら、来週も見たくなるだろう。そうしたら自殺を1週間延ばしなさい、と。そのうちに彼らも、いつの間にか大人になっていく。だから、一生懸命に元気に生きようというメッセージを、僕たちは明るく、楽しく送っています。
 
 学生―ヨーロッパやアメリカにはまだ、アニメーションは子供のものだというステレオタイプな見方がありますが、どうやって大人も見られるようにしていくつもりですか。
 
 清水―これからそういう偏見も崩れていくと思いますが、僕は今やっているワンピースという作品が非常によいドラマだと思うので、アニメーションでもこういうすばらしい、大人が見てもおもしろいドラマがあることを伝えたいと思いますし、そういう方向を模索していきます。







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