日本財団 図書館


デジタル制作過程のデモンストレーション
川上陽介(セルシス社長)
マルチメディアコンテンツの企画・制作や、グラフィックス関連のPCアプリケーションの企画・開発を手がけている。
 
 川上―今日は、マンガとアニメーションをコンピュータで作る話をします。
 皆さんが先日見学した東映アニメーションでは、仕上げ工程は100%コンピュータを使っていますが、そのツールはほぼすべて我々が開発したものです。後ほど、そのツールの実際の使い方などをご紹介します。
 我々がアニメーションをデジタル化するソフトウェアの開発を始めたのは11年ほど前です。それまでは3Dコンピュータグラフィックスのプログラミングやデザインをしていました。ところが、3DCGのソフトウェアは、アメリカ、カナダを中心に優れたものがどんどん開発されていました。
 そこで、我々はCG技術を活かして何か別の産業を支援できないかと模索していました。当時、日本のアニメーション業界はコンピュータを全く使っていませんでした。前回ここで講演された清水慎治さんをご紹介いただいて、東映アニメーションではどういう作業をしているか見学させてもらったところ、アニメーションの制作工程にはコンピュータでやれるところがたくさんあることを実感しました。それから開発が始まったのです。
 アニメーションの工程は、作画と仕上げという2つに分けられます。作画の工程は、絵コンテ、原画、動画を描く作業です。仕上げの工程は、色付け、撮影、特殊効果の作業です。現在、仕上げの工程はほぼ100%コンピュータ化されています。作画の工程については、例えば東映アニメーションでは5分の2をデジタル化しています。したがって、作画工程をデジタル化している作品については、撮影まで完全にデジタル化されていて、紙などのアナログのものは全く使いません。
 では、まず作画部分のソフトウェア、次に仕上げ工程のソフトウェアをご紹介します。作画工程のソフトウェアは今年7月に発売されたばかりの最も新しいソフトで、同様の機能を持ったソフトウェアはほかにありません。本日は、当社の古賀太朗(開発部チーフスタッフ)および竹内久美子(営業企画部スタッフ)の二人にプレゼンテーションをしてもらいます。
 
■アニメーション用ソフトウェア「スタイロス」「コアレタス」
 古賀―最初に「スタイロス」、次に「コアレタス」というソフトウェアについて説明します。アニメーションの制作はいろいろな工程に分かれていて、スタイロスは、すべての工程ではありませんが、かなり広い範囲をカバーしています。絵コンテ、レイアウト、原画、動画、色指定、仕上げ(ペイント)までが可能です。撮影だけは複雑な機能が必要なので、コアレタスという別のソフトウェアになっています。
 今まで我々は、ペイント、スキャニング、シューティングそれぞれに別々のソフトウェアを使っていました。しかし、現在はほとんどの会社でデジタル化が達成されてきたので、次の目標は工程を管理することに移っています。
 スタイロスを起動すると、スプレッドシートのようなものが表示されます。横に作業工程をとり、縦にカットが示されています。あるカットがどの工程まで終了しており、誰が作業したかもわかるようになっています。
 ペインティングはかなりデジタル化されていますが、紙もまだたくさん使われています。アニメスタジオでは、紙の封筒に動画用紙がたくさん入ったものが積み上げられていて、リアルタイムに進行状況を把握するのは難しいのですが、デジタル化されれば工程管理もしやすくなります。
 では、デジタル化されたアニメーションの制作過程を説明します。絵は、タブレットを使って描きます。紙に描くようにフリーハンドで描いた線が、このソフトウェアではベクターに変換されています。ベクターなので、いくら画像を拡大してもジャギーは全く発生せず、線は滑らかなままです。
 アニメーションの制作ではまず、レイアウトを決めます。キャラクターがどこに立っているか、どういう背景かを、簡単な線で示します。
 次に、原画担当者が、このレイアウトをもとに原画を描きます。まず、2枚の白紙を用意します。動作の始めと終わりの絵がそれぞれ必要だからです。レイアウトのイメージをライトテーブルに読み込み、それを半透明状態にして、そのうえに原画を描きます。
 ほかにもドローイングのソフトウェアはありますが、スタイロスがほかと違うのは、アニメーションのために開発された特別な機能があるのです。重要な機能の1つは、画像を回転させられることです。例えば、有名なソフトウェアである「Photoshop」も画像を回転させることはできますが、あのようなラスター(ビットマップ)タイプのソフトウェアでは、1回回転させるごとに画像は劣化していきます。アニメーターは描きやすいように紙を回しながら描くので、画像を回転させる機能は必要なのです。
 また、ペイントにおいても、スタイロス独自の機能があります。普通、アニメーションの線は黒で描かれますが、黄色と青色というように異なる色が直接接している部分もあります。このとき、境界線を赤で描いておき、バケツツールで彩色するときに、赤にチェックを入れて黄色の部分を塗ると、赤い線の部分まで黄色に塗れます。残りの部分を青で塗ればよいのです。すなわち、赤い線を後から黄色ないしは青色に変更する手間が1つ減ったわけです。
 小さいことですが、こうしたことはアニメーションの制作では非常に大事なのです。日本のアニメーションは1つの作品に約3000枚の絵を使いますから、どうやって時間を節約するかが重要です。
 そのほか、細かい領域に分かれているところを囲むだけで、一度に色を変えることもできます。
 ところで、これまで長い間紙の上で描いてきたトラディショナルなアニメーターには、すぐにはタブレットに変えられない人もいます。そういう人のために、紙に描いたものをスキャンして、それをベクターに変える機能もあります。スキャンしただけでは当然ジャギーが出てしまいますが、ベクターに変換するので滑らかな線にすることができます。
 現在、アニメーションなどデジタルコンテンツの業界では、ワンソース・マルチユース(1つの素材をいろいろな目的に使う)が重要になっていますが、オリジナル画像をベクターで持てば、後からハイレゾリューションなものにも、ローレゾリューションなものにも使えるメリットがあります。
 続いて、コアレタスを使った撮影について説明します。
 撮影のプロセスは非常にシンプルです。従来のフィルムで撮影する場合は、台の上にセルを置き、宙吊りのカメラで撮影します。それをコンピュータ内部で再現するのです。
 左側にタイムシート(エクスポージャーシート)があります。これは音楽の楽譜のようなものです。縦にレイヤーがとられています。背景のレイヤーの上に、Aセルのレイヤー、さらにBセルのレイヤーという具合に重ねていきます。横にフィルムのフレームがとられています。さらにセルの配置を決めるステージがあります。
 これでコマを動かすのですが、ズーミング、カメラの回転などの複雑なカメラワークも、最初のフレームと最後のフレームを決めるだけで、自由自在にできます。キャラクターが移動する場面で、前景は速く、後景はゆっくり動かすこともできます。
 日本のアニメーションでは特殊効果をよく使いますが、10種類ほど用意された特殊効果用フィルターを用いて、簡単にいろいろな特殊効果をつけることもできます。
 コアレタスは、スタイロスで作られたベクターのデータをそのまま使うことができます。したがって、例えば、最初にゲーム用の解像度の低い画像として作ったものを、後から映画に使いたいという場合にも、アウトプット解像度を大きくするだけで対応することができます。
 そして最後に、こうして撮影されたカットをビデオスタジオで編集し、声優の声などを入れます。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION