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9.試験結果のまとめ
 平成13年と14年の2年間をかけて、代表機種として四機種を選定して環境試験を実施した。選定にあたっては、自動化機器の中から各社共通のものとして、機関のリモコン装置の電源装置として使用される電源部分(電源パネル)、複数の発電機を電源ラインに導入するための自動同期投入装置、今後、機関のリモコンの表示装置のCRTがLCDへ移行する傾向にあることから液晶表示装置を選定し、航海設備としては点滅装置を有する船燈のうち閃光燈の4種類が選定された。これらの「電源パネル」、「発電機の自動同期投入装置」、「液晶表示装置」および「閃光灯」の四機種の機器に対して船舶の環境条件での性能測定と評価を行い、その対応策について検討した。試験基準には適用基準としてNKの自動化機器及び装置の環境試験基準を用いた。航行安全機器や自動化機器に適用されるIEC60945の規格は、現行の型式承認試験基準と比較し、試験範囲の異なりや試験条件もより過酷な高温・低温試験、振動試験、および腐食試験等12項目におよぶ試験が要求されている。
 これらの規格については、現行のIEC60945第3版規格とNK規則の対比表を平成13年度の中間報告書の資料1に、さらにIEC60945規格の第3版と第4版の対比表を同様に資料2として巻末に添付しているので参照されたい。NKの自動化機器および装置の環境試験基準により供試品の試験を行った結果の詳細は、平成13年度の中間報告書の各章において述べられている。特記すべき事項として、温湿度試験で液晶表示装置が基準外となった。また、振動試験において電源パネルが基準外となる結果となった。
 陸上用機器として開発されたものを海上用機器として使用する場合、防湿対策、塩害対策など海上と陸上の環境の相違を常に念頭においておく必要がある。陸上用規格を前提に設計された機器は、船舶に搭載するとすぐに故障を起こすことはよく知られている。まず初めに起こることは接触不良に起因する故障である。つまり、絶えずある振動で電子回路基盤のエッジコネクタが、常に揺すられている状態となり、その接触部分が接触不良を起こすとの発生原因が周知され、コネクタ部分の改良により、現在では大きく改善されている。
 平成14年度は、基準外となった液晶表示装置および電源パネルに関して基準内になるための対策を段階的に行い対策の効果を検討した。温湿度試験において、液晶表示装置の表示画面の色が変化し、ビデオ信号が入力されていない状態でも緑色が発色していた。この機種は常温で2日から3日間を放置して表示画面を再チェックしたところ正常に復帰していた。この異常の再現性を見るために再試験を行ったが同様の結果となった。しかし、他の液晶表示装置を試験した結果、変色しなかったことから、提供された液晶表示装置固有の問題であると考えられる。液晶表示装置は今後ブラウン管式表示器に代わって広く使用されることが予想される。消費電力が低いこと、奥行きが数センチ以内であることなど適した表示装置である。これからの船舶用機器の表示装置としてすぐれた特性をもっている。しかし、このような湿度の高い状態で使用されることは、一般の陸上用機器では想定されておらず、船舶用としては高い湿度の状態、状況によっては露が表面につくような状態でも使用できることが要求される。今まで、船舶用機器の製造メーカは陸上用として製造された部品やモジュールなどに対して、新たに防湿処理を施しているのが現状である。液晶表示装置は今後ますます多くの機器に使用されると考えられる。
 また、その他の平面表示パネルとして、プラズマディスプレィや有機ELディスプレィなど新しいデバイスが陸上用機器として現れている。船舶用機器において、ブラウン管式の表示装置が液晶表示装置に変わりつつあり、さらには携帯電話中心に普及していくとみられている有機ELディスプレィが今後、普及していくとことも予想される。有機EL方式の表示装置は電圧を加えると自ら発光する特殊な有機化合物を発光層に用いたもので小型化、省電力性が期待でき、携帯電話用に普及すれば部品価格も安くなり広く採用されることと思われる。船舶用にはようやく液晶パネルが普及しつつある段階で今回の調査研究がなされ、その船舶での使用に向けた対策も検討された。
 船舶用機器は、その動作に対して厳しい信頼性が要求されるとともに、陸上よりも厳しい環境条件が要求されている。しかし、厳しいコスト競争にある陸上用に開発された機器やモジュールは安価に求めることが可能である。したがって、船舶用機器メーカにおいては、このような部品やモジュールを効果的に使用し、所要の温湿度対策のような処置を施すことで船舶用としても転用できるノウハウを積み重ねておくことが重要となろう。
 振動試験において機械式メータリレーが破損したが、取り付け方法、補強対策および設置の向きなどを検討することで対策が可能である。機械式メータリレーは動作の範囲の設定が容易で使いやすい部品であるが、振動対策は十分に行う必要がある。対策部品としてのインシュレータに「ゲルブッシュ」という商品の使用を試みた結果、一応の成果を得た。振動対策に関して、多数の機器の振動試験を行っている担当者からの話では、振動試験で破損する部分は、「一見して予想ができる」とのことである。しかし、機器の設計者としては、「弱そうなことは分かっているがコストの問題がある」とのことで、設計段階でのコストとの妥協点の設定にかかっている。また、今回、対策を行って基準内となったメータリレーであるが、ユーザにとって「使いやすい、設定しやすい」という利点の下に変更できない部品もある。メータリレーは作動原理が極めてシンプルで確実な部品であるが、振動には構造上の理由で弱点であることは容易に理解できる。ユーザに好まれ使いやすい可動部分がなくてもアナログ的表示の可能なメータリレーが有機ELディスプレィを使ってでも安価に製作できることを期待するものである。







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