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8月10日(土)
本日のスケジュール・内容
1)日本出国(JL741 成田発)
2)フィリピン入国(マニラ)
3)穴田さんを囲んでの食事会
4)ミーティング
 
1)日本出国
 前日には皆で分担して宿泊施設の掃除を終らせ、早朝には各自が布団類をたたみ、4:45に多磨全生園を出発した。空港までのバスの中からは暑そうな東京の様子が見られ、フィリピンではもっと暑いのであろうか、という疑問がふと浮かぶ。ほとんどのメンバーにとってはフィリピンに行くのは初めてである。メンバーのうち1名がバスの中にパスポート類を忘れるといったハプニングがあったが、空港ではフィリピンでお世話になる方々へのお土産を分担して買うことができ、いざ出陣。
 
2)フィリピン入国
 飛行機の出発が遅れるなどしたものの、無事にマニラに到着。出迎えてくれていたWHOのバスにてHoliday Innに到着。チェックインの手続きをしてくれたホテルの方が美人であったので、これからのフィリピンでの滞在が楽しいものになりそうだと、わくわくした男性陣も若干名。
 
3)穴田さんを囲んでの食事会
 フリージャーナリストである穴田久美子さんとハーバービューという海の見えるレストランで一緒に食事をした。穴田さんは85年からマニラに住んでおり、NGOのコーディネーター役もされている。穴田さんは活気に満ち溢れた人であり、伝えたいことがいっぱいあるためか話し出すと止まらない様子であった。
 以下に穴田さんから伺った話を記す。まず、フィリピンではカトリックを信仰する人が多く、中絶は禁止され、また離婚するにも手続きが煩雑である。中絶を医師やTBA(伝統的産婆)が行うと死刑になるが、薬草を飲む・川に入ってお腹を冷やす・わざと転がってお腹を打つ、などといった方法が紹介されることがある。なお、そういった中絶方法が失敗して奇形児が生まれてくることも問題になっている。
 この国では人口増加が問題になっているが、対策として人口ピラミッドで最多である15歳〜25歳を特に対象としてFriendly Clinicが避妊教育を行っている。私立であるこのクリニックはUSAIDが支援しており繁華街にある。全避妊の内訳としてはコンドームの使用率が2%、ピルが40%を占める。また、自殺の原因は日本と違いほとんどが失恋だということも伺った。
 次に、父親の賃金が低いことに問題があるということを言われた。いい教育を受けていない父親はいい仕事に就けずに肉体労働に就くしかなくなるのであるが、父親の稼ぎが少なすぎると子供は働かざるを得ず、その結果、教育のプログラムからドロップアウトする。かといって企業としては弱肉強食の世界のため父親を教育している余裕はない。では父親の賃金を上げるといいのかというと、その時には企業はさらに人件費が安い中国の人たちを雇うであろう。
 そこで、NGOやWHOの狙いは長期的なところにある。次世代につながることを考えているのだ。そして、実際に社会はどんどん変わってきており、昔は靴磨きをしていた人が議員になっている例もあるということである。
 しかし、問題がまったくないわけではない。子供を教育した場合には無教育である親をバカにすることが有り得る。また、NGOなどでは母親には洋裁のトレーニング、子供には教育を施しているが、父親は稼がなくてはならず学びに行く時間がないし、父親は家長としてのプライドがあるためか教えにくい。いわば父親が取り残されている状態といっていいかもしれない。さらに、子供のためには母親は父親の分まで頑張ることがあるが、そうした際には父親は家にいて、お酒・ギャンブル・愛人におぼれるといったことがあるということである。
 その他、いろいろなお話を伺った。穴田さんの感覚として、ここ10年で貧富の差がさらに広がっており、その理由としては金持ちを優遇する制度が挙げられる。また、中流階級も増えている。フィリピンにおいては財閥の解体と農地改革がされておらず、自国の産業がない。両親及び子供4人の家族が人間らしい生活をするのに最低必要な生活費(貧困ライン)は教員の初任給より高い。また、ゴミは焼却されない。というのは、焼却しない場合は貧しい人だけが被害を受けるが、燃やすことになると他の人にも影響が出るからだ。
 援助には、もし受ける側が現状に満足しているならためにならないが、フィリピンに関して言えば、本人たちは向上心を持っている。NGOは国内のものが多く、資金の多くは海外から援助されている。
 また、インターンの医学生が子供たちの健康診断や栄養教育をボランティアでするプログラム(Medical Mission)がある。その他にも企業は儲けの1%を寄付しようという動きがあり、そういうファンド(PBSP)もある。
 
4)ミーティング
 さて、穴田さんのお話はレストラン近くの工事の音が大きくて近くに座った人しか話がよく聞こえなかったため、以上のような情報を皆で出し合うという形で夜にミーティングが行われた。14人が顔を合わせてまだ3日だったためか、このミーティングでは空気に変な違和感というか緊張感といったものが感じられつつも、それぞれの、どこかわからない一部がそれぞれ少しずつ融けだして馴染んでいく風でもあった。ミーティングが情報を出し合い共有するという形式をとっていたものの、次のような議論も随所で行われた。
 【父親を援助、教育しようとしてもアル中やギャンブルや愛人に走る・・・といった話になり、フィリピンの父親がダメオヤジなんだという雰囲気になった。その時メンバーの一人が『でも、ちょっと待って。その男ばかりが悪いのではなくて社会病理というか、もっと社会全体的にも要因が考えられるのでは』と思い、『フィリピンだけでなく日本と比べてみたらどうかな』と提案してくれたことから、議論が始まった】
 
 「フィリピンでは父親が働いてないと(批判するように)言うけど、日本でも失業率が増えてきている。リストラされている人が増えてきているよ。つまり、父親が働いていない状況。フィリピンでは社会にも問題があるんじゃないかな」
 「日本の社会に関しては本人には仕事が斡旋される。また他に、失業保険・職業安定所・職能訓練所などの社会保障の充実もあげられるよね」
 「だけど、日本ではリストラされた人は働こうという気持ちを強く持っている。フィリピンではどうなのかな?働こうとするモチベーションが低かったら日本とは状況は違うよね」
 「モチベーションというよりは、『父親が働いていない』という事実が意味する状況が日本とフィリピンとでは違うんじゃないかな。日本では失業率の増加に家族の崩壊という今まで潜在的に存在した問題が重なった結果、野宿生活をするおじさんが増えてきている。でも、フィリピンではお父さんがダメ父さんでもお母さんや子どもが頑張って、家族が崩壊することもなく普通に(暮らしは苦しいが)生活している。この違いの根底には日本の側の『家族の崩壊』って問題もあるよね。フィリピンのお父さんの中には『働いていない』状態が普通になって、何となく生活している人もいるかも。だから、フィリピンではお父さんが働いていなくても比較的のん気にしているように見えるのかも」
 
 以上のような議論を数回はさみつつ、また、出てきた疑問点を確認しながら、これからの日々に期待と不安をもって本日のミーティングが終了した。 (担当:長崎 忠雄)
 
8月10日 今日のひとこと
伊藤:穴田さんのマシンガントークは聞いていて時間を忘れてしまった。機会があればまたゆっくりお話を伺いたい。
安藤:フィリピンに来れてよかった(マジで)。八谷先生ありがとうございました。
大森:どこかに似ていると思ったら、やっぱり沖縄だった。
千田:久美子さんのバイタリティにただただ呆然。きっと根っこがしっかり張っているから、こんなに強くいられるのだろう。それでは私は・・・?
瀧村:湿気が苦手な自分にとってフィリピンはちと辛いかも。この後のフィリピンでのスケジュールはハードなので、ここで十分な唾眠と休養を取って立て直しておくのも一案です。
長崎:海を見ながらのおいしい食事。賛沢な気分を味わった。
江崎:みんなと食べた初めてのフィリピンディナー。とっても美味しかった。溢れるような知識を休みなく話しつづけてくださった穴田さんのパワーに感激。
河合:フィリピン料理を堪能!穴田さんは迫力満点。いろいろなことを教えてもらい、熱い討論が始まった。
馬場:いざ、フィリピン!
井上:パワフルな穴田さんのペースに初めついていけてなかったけど、だんだん話しにのめりこんでる自分がいた。
斎藤:穴田さんなんて、パワーだーーすげーーよーしゃべるわ、ほんと。エビはほんとびっくりだったなー。
須貝:4時起きの頭と体にどっと押しよせてきたフィリピン。動いているエビを食べてしまった!!
高田:フリージャーナリストの穴田さんのお話は、とてもおもしろかった。フィリピンの教員の初任給が、貧困ラインを下回っていることを知り、「私はまだまだ東南アジアを知らない」と思った。
鳥羽:食った〜食った〜食べまくった〜(海辺での夕食)。







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