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8月9日(金)
本日のスケジュール・内容
国立療養所多磨全生園
高松宮記念ハンセン病資料館訪問
 
<座長> 国立療養所多磨全生園 園長 青崎 登 先生
 
9:00〜10:00 「ハンセン病の現状と国際協力」
国立感染症研究所 ハンセン病研究センター長 松尾 英一 先生
 
 ハンセン病には差別と偏見が伴っている。この問題を解決するにあたり、現在のハンセン病にだけ目を向けていてもだめで、過去の、また世界中のハンセン病についても知る必要がある。
 ハンセン病は旧約聖書にもそれと思われる病気が記されているし、中国でも唐の時代から麻酔される病気、麻風として知られていた。スルホン剤が開発されてからはハンセン病は治療できる病気となり、現在ではMDT(多剤併用療法)により治療される。
 市民の過剰反応が偏見を生み、患者を苦しめてきたわけであるが、このことはもうあってはならないことである。なぜこのような偏見が生まれたかの背景の一つに、病因学が欠けていたことがあげられる。病因学はその大切さとは裏腹に現在の医学には欠けている。病気には原因があるわけであるが、その原因が一つであることは極めてまれで必ずと言っていいほど複数存在することを忘れないでほしい。世界のハンセン病の現状として、有病率は減少しているのに対し、新患率は増加している。これは我々の知らない病因が存在するということである。
 これらのことはハンセン病におけるだけの問題ではない。
 
10:00〜10:50 「ハンセン病の基礎と臨床」
国立療養所多磨全生園 皮膚科医長 小関 正倫 先生
 
 らい菌は1873年にノルウェーのハンセン氏によって発見された。抗酸菌であり結核菌の仲間である。生育温度は30〜34度で感染力は極めて弱い。未だin vitroでの培養不可能である。
 ハンセン病はらい菌による慢性の感染症であり、一次的に末梢神経、二次的に皮膚やその他の臓器にまで障害が及ぶことが多い。患者はらい菌に対してのみ免疫能力が弱く、その他に対しての免疫能力はふつうである。診断は知覚障害の伴った皮疹、末梢神経の肥厚、らい菌の証明によってされる。ハンセン病はWHOにより、少菌型と多菌型の大きく二つに分類されている。それにより治療法も異なる。早期発見、早期治療ができればほぼ後遺症もなく治る。
 
10:50〜11:30 園内見学
 
 青崎園長の案内のもと、治療棟、リハビリ棟、病棟を見せてもらった。治療棟を使うのは園内の患者だけだそうだ。園内に住む元患者は、病気はほとんど治っていて、あとは後遺症をどう克服していくかであり、彼らのモチベーションをどうあげていくかが課題だそうだ。青崎園長は、彼らに残りの人生を楽しんでもらいたいと考えていて、なにか良い案があったらぜひ連絡をくださいとおっしゃっていた。病棟はとてもきれいだった。
(担当:青木 孝浩)
 
13:00〜14:00 高松宮記念ハンセン病資料館見学
 
 資料館と全生園内の見学に行った。
 資料館ではハンセン病患者への誤った知識によるいわれのない差別・迫害の話を伺い、何ともやるせない気持ちと怒りがこみ上げてきた。
 その中の話の一つに「洗濯場事件」という当時の暗黒の療養所を象徴する事件があった。
 ・・・療養生活の大半は患者自身の低賃金による作業で支えられていた。洗濯作業もあった。1941年、山井道太は、破れた長靴では足の穿孔症や神経痛に悪いと新しいものを要求したが拒否されたため仕事を2、3日休んだ。その結果、汚れた包帯やガーゼを腐らせたとして監房に入れられたのだ。獄中山井は重体となり、出獄後すぐ亡くなってしまった。
 現在の全生園は、閑静で病院も設備も整っており、過去にそんなおぞましいことがあったなど思えないのどかなところであった。
 
14:30〜16:30 「開発途上国と結核対策」
(財)結核予防会結核研究所 国際協力部 副部長 須知 雅史 先生
 
結核とは→
飛沫核感染(空気感染)
感染を規定する要因としては排菌量、せきの程度と持続、社交性、環境条件がある。
感染と発病は別である。感染後生涯にわたり発病するのは10〜20%にすぎない。リスクが大きいのは塗抹検査で陽性の人で、発病するのは感染から2年内に約80%で、その後は散発的にでるのみ。
治療は、かつては気胞療法、肺切除もあったが、現在は複数薬の併用による化学療法が主。
世界における結核→
世界人口の約1/3(18億6000万人)が既感染である。日本はネパールなどの国よりも高く、先進国の中では群を抜いて多い。
難民が出るとき、結核は緊急を要する課題ではないので一日死亡1/1万人にならないと始めない。それまでは、はしか・下痢など水系感染の疾病や髄膜炎などに留意する。また、少なくとも6ヶ月留まると考えるときだけで、結核では塗抹陽性患者が優先である。
WHOの結核対策・・・DOTS(Directly Observed Treatment, short course)
分析→
喀痰塗抹陽性の患者の発見と治療、出産直後のBCG接種という効果的な戦略も十分な保健医療にかかれないアクセスの悪い地域では効果があがらない。
方針→
結核対策への政府の取り組み
喀痰塗抹検査による患者の発見
喀痰塗抹陽性の患者に対する短期化学療法の導入など
広がり→
148の国でDOTSを採用。
367万人の全結核患者が届出。
153万人の喀痰塗抹陽性の患者が届出。いずれも2000年
STOP TB Initiative:結核高負担国を重点的に行なう。
 
参考資料: 全生園の隠れた史跡めぐり(リーフレット) 
須知先生のプリント
(担当:阪下 紀子)
 
多磨全生園研修棟前にて 国内研修の様子
 
8月9日 今日のひとこと
伊藤:サブリーダーが一時帰宅することに。一人欠けただけだけど、その穴はでかいなぁ。明日また合流できればいいが。
安藤:園長先生のネクタイの柄がサッカーボールだったのは、ワールドカップの影響だろう・・・!
大森:人工的な街の雰囲気は、なぜだか気持ちを落ち着かせた。
千田:ハンセン病患者さんたちの陶芸作品に圧倒される。芸術は束縛から生まれるのか?
瀧村:整然と静かな全生園に思うところ多し。他のメンバーの凄さに圧倒されるかもしれませんが心配御無用、みんな同じ思いです。
長崎:歴史という縦のつながりと、他との関係という横のつながりから見るという物の見方を教わった。
江崎:八谷先生、いろんな意味で「ごちそうさまでした」。
河合:初めて来ることができてよい経験になった。実際に患者さんとお話してみたかったなぁ。
馬場:歴史、そして他と多磨全生園との比較などここでしか伺えない話をもっと聞きたかった。
井上:将来を考える時、どうしても結婚というものが女性の仕事に大きな影響を与えるもので、八谷先生の話はとっても素敵だった。
斎藤:これから、どんどんハンセン病に取り組んでいこうと感じた。
須貝:全生園のひっそりとしたもの哀しさが印象的。
高田:収容施設ができる以前は、ハンセン病患者の方々は、川岸に藁葺きの小屋を作って住むなど、さらに劣悪な環境に置かれていたことを知り、ショックだった。
鳥羽:八谷先生の奥さんって幸せだな〜(夕食での会話の感想)。







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