10. 調査の概要
10−1 概要
(1)調査背景と目的
平成元年に策定された運輸政策審議会答申第10号の目標年次である平成17年まで2年程度となっているが、この間に答申に位置付けられた路線についてそれぞれ整備が進められ、一定の成果を上げているところである。一方で、少子高齢化や交通に対するニーズの多様化、厳しい財政事情など、鉄道整備を取り巻く状況も変化しつつある。本調査は、こうした社会情勢の変化をふまえつつ、近畿圏の経済活力と質の高い市民生活を支えるための、高速鉄道を中心とする公共交通体系のあり方について、総合的に調査・検討を行うものである。
大阪市を中心とする概ね半径50kmの範囲で、京都市、神戸市の交通圏を含む地域とする。「近畿圏」の範囲は、次の条件のうち1つ以上を満たす市町村とする。
(1)前回答申予測の対象地域
(2)直近の国勢調査結果における3大都市への通勤・通学5%以上依存圏
(3)直近の国勢調査結果における3大都市への通勤・通学500人以上依存圏
調査対象交通機関は、鉄軌道及び乗合バス、自家用自動車とする。
(拡大画面:157KB) |
|
10−2 平成13年度調査概要
(1)運輸政策審議会答申第10号の概要
a)10号答申時の社会経済状況
交通需要は、経済成長とともに増加を続けてきたが、特に、昭和40年代後半から50年代における経済の高度成長期においては大幅な増加となった。
その後も首都圏の交通需要については顕著な増加を示したが、平成元年頃になると、首都圏と近畿圏との格差が顕れてきた。
(拡大画面:69KB) |
|
|
資料:都市交通年報、数字でみる自動車 |
b)10号答申における政策課題・目標
国土総合開発計画、近畿圏基本整備計画と鉄道整備計画の流れ
(拡大画面:123KB) |
|
c)答申第10号のねらい(諮問理由)
大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備については、都市交通審議会答申第13号による昭和60年を目標とする基本計画に基づいてその推進を図ってきたが、近年、都市構造、人口分布及び交通流動等の情勢もかなり変化してきている。また、同圏域では、全国的・国際的な中枢拠点としての機能を果たすため、各種の大規模プロジェクトが積極的に推進されつつある。
このため、改めてこれらの情勢の変化に対応し、更に長期的な展望に立った高速鉄道を中心とする交通網に関し基本的な計画を早急に策定し、その整備を図る必要がある。 |
|
d)整備状況
表 10−2−1 答申第10号の基本的考え方と対応する路線の整備状況
ねらい |
種別 |
路線数 |
路線延長 |
営業・工事率 |
大規模プロジェクト等への対応 |
新設 |
30路線 |
304.0km |
38.9% |
線増 |
13路線 |
170.5km |
31.8% |
混雑の緩和 |
新設 |
9路線 |
81.6km |
47.9% |
線増 |
− |
− |
− |
鉄道サービスの高度化 |
新設 |
14路線 |
190.8km |
50.2% |
線増 |
1路線 |
2.8km |
100.0% |
合計 |
新設 |
36路線 |
389.1km |
41.7% |
線増 |
12路線 |
173.3km |
32.9% |
|
e)輸送量
答申第10号(予測年次2005年)当時の需要予測結果と、現況(1998年)における実際の需要を輸送密度で比較した結果、概ね予測結果に近い実績となっている(再現率が0.95)が、一部の路線について、予測値より実績値が下回っている路線がある。
(拡大画面:84KB) |
|
図 10−2−3 |
|
答申時需要予測結果と現況実績値(1998年)の輸送密度比較(プロット)(右)は拡大 |
|
点線は誤差10%以内 |
その乖離要因としては、人口による要因(開発計画の遅れを含む)が大きく、人口設定の大小が予測する需要量に大きな影響を与えることとなる。
図 10−2−4 |
|
答申時と実績値の予測誤差の原因(数字は誤差率) |
|
f)答申路線整備による効果
答申路線の整備は、乗換時間や乗換回数の減少、アクセス時間短縮などの鉄道サービス向上に寄与してきた。
表 10−2−2 答申第10号当時から現在までの鉄道整備による効果
(答申当時の指標を100とした比)
(拡大画面:35KB) |
|
※ |
上記の数値は、都市鉄道調査(平成11、12年度)で用いた需要予測モデルを用いて、平成12年の現況鉄道ネットワークにおける予測結果と、同年において答申路線が未整備だった場合を仮定したネットワークにおける予測結果を比較したものである。 |
表 10−2−3 鉄道整備による利用者便益
ケース |
利用者便益(億円/年) |
答申当時→平成12年 |
1,191 |
|
※ |
ここで言う「利用者便益」とは、「鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル99」(運輸省鉄道局(当時)監修、(財)運輸政策研究機構発行)における費用便益分析手法に則って試算したものである。
|
g)未整備路線における主要な要因、背景
(1)沿線の開発プロジェクト等の進捗の遅れ
(2)関連する他路線の整備の進捗
(3)新設路線についての事業主体の不明
(4)経済成長の鈍化に伴う財政上の制約 |
|
h)まとめ
■大規模プロジェクト等対応」「混雑緩和」についての政策目標はほぼ達成された。
■一部路線・列車種別では現在においても150%以上の混雑が続き、また、都市の郊外化等による混雑の長時間化が進展しているなど、輸送サービスの高度化という政策目標については、課題が残されている。
■鉄道路線間や鉄道とバス間の乗り継ぎ利便性向上への要請が強まりつつある。
■今後は情報機器等を活用した鉄道間やモード間のネットワーク・シームレス化が大きな課題と考えられる。
■答申第10号で掲げられた「計画実現方策」における建設費低減と高齢者や女性の社会進出を見とおした需要喚起策の両面を強力に推しすすめることが、利用しやすく事業性の高い鉄道を中心とする新たな交通ネットワーク形成の実現へと繋がるものと考える。
|
|
|