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(2)公共交通利用促進における課題と対応
a)課題
 自家用自動車利用と対比して公共交通を利用する上における最大の課題であるとともに公共交通のもつ弱点は、「乗換というバリア」が存在することであり、今後の高齢社会に向け早急かつ確実に解決しなければならない課題となっている。このバリアには、例えば、乗換に伴う移動時間や待ち時間、新たな交通機関を利用するための運賃加算といった、複数の公共交通を乗り継ぐ場合において、公共交通をスムーズにかつ連続的に移動できないことなどが挙げられる。また、公共交通を利用するための鉄道駅やバス停までの移動というバリアも存在する。
 一方、利用したい「時間や目的地」に対して、利用できる十分な公共交通が整備されていないケースがあること、さらに個々人の自由なトリップに対応できる自家用自動車に対して、特に鉄道は、大量かつ定型的な需要に対しては効率的な対応が可能である反面、専用通路を有するが故に、弾力的かつ多様な輸送サービスを提供することができないこと、また新線整備には長期的な時間を必要とすること等が課題である。また、バスについても、道路幅員等の整備状況や自動車交通量によって、運行できる路線が限られるなどが挙げられる。
 
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b)対応
(1)運賃改善、ICカードの活用
 公共交通を便利にする方策の一つとして、運賃の改善が挙げられる。利用者アンケート等にみられるように、運賃という乗車抵抗が最も高くなっている今日、早急に改善しなければならない課題と考えられる。
 近年、乗車券のカード化が進み、乗車や乗換時における乗車券購入というバリアは無くなりつつあり、平成15年度から順次導入される予定の「ICカード」は、カードそのものの購入というバリアも取り除かれることとなり、公共交通の利用促進に繋がるものと考えられる。すなわち、乗車や乗換に伴う抵抗を和らげることによって、付加価値の高い輸送サービスが実現することとなり、快適に早く目的地に行けるという利用者ニーズを適合したものとなる。
 
(2)乗換、最短経路等に関する情報提供の充実
 また、自動車交通のもつ快適性は、ナビゲーションシステムやFM放送等を通して、常に所要時間や混雑状況、また最短ルート等の情報を得ることができることであり、公共交通においても、情報技術を活かした乗換等に伴う通路案内やダイヤ情報、また、目的地までの所要時間や個々人に適した最短経路等を提供することが必要である。
 
(3)ネットワーク化、バリアフリー化等の利用者ニーズに対応したサービス提供
 このようなソフトを中心とする施策展開とともに、近畿圏鉄道においては、個々の路線における混雑緩和等輸送サービスは飛躍的に改善された中で、圏域全体で捉えたネットワーク化という面では、乗換駅間が離れていることやダイヤ調整が適切でないことなど、利用者にとっては大きな課題となっている。
 このためには、第4節で触れたように、都市構造の変化等新たな利用者ニーズに対して適切な輸送サービスを提供すること、並びに、既存ストックの高度利用とともにネットワーク機能向上において適切な新線整備を一体的に進め、また、上記に示したような「情報技術」の活用等を同時並行的かつ複合的に行うことが重要である。さらに、バリアフリー化やコストダウンによる競争環境の改善、沿線における人口構造の変化等ライフスタイルに適合した適切なサービスを提供することである。
 
(4)鉄道駅施設の改善
 また、公共交通の利用促進においては、鉄道における点(駅)の改善が重要である。例えば、駅の多機能化を図る施策として「行政コーナーや保育施設」等が考えられるが、これらを充実することによって点(駅)としての利便性や魅力を向上させ、路線と一体的に鉄道利用を促すようにすることである。また、地域整備と連携した駅前広場整備も点(駅)の充実に繋がり、アクセス性向上に伴う公共交通利用促進を図ることができる。
 
(5)公共交通を重視したまちづくり
 さらに、公共交通の利用促進を図るために最も重要なことは、都市における交通手段として、公共交通を重視したまちづくりを進めることである。具体的には、限られた都市空間を最大限に活用する観点から、地元住民の合意のもとで、LRTの導入、TDM施策の実施、バス専用・優先レーンの設置、トランジットモールの導入等、公共交通の専用・優先空間を確保すること等により、公共交通と一体となったまちづくりが可能となる。また、コミュニティバスの活用等、高齢者にも利用しやすく、買い物、通院等の日常生活と調和した公共交通の充実がまちづくりの一環として重要な要素である。
 
(6)公共交通利用促進のための市民意識の醸成
 公共交通の利用促進を図るための需要サイドへの働きかけとして、市民一人一人が公共交通の意義の理解を深め、積極的な利用の動機付けを与えるための取り組みが重要である。このためには、個々人の交通行動に即した効果的なキャンペーン実施、学校における総合学習への取り入れ、企業における公共交通利用の推奨等、各主体による対話型アプローチの効果的な手法の検討が重要である。
 
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