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7−5 既存ストックの有効活用に関する政策シミュレーション
(1)調査目的と概要
 ここでは、既存ストック活用における「需要量の変化」を把握し、鉄道整備において効率的な推進を図る上で必要となる基礎資料とするものである。
 
 既存ストック活用による効果を定量的に把握するためには、個々のプロジェクトについて評価する必要性があるが、プロジェクト内容によっては、効果の発現が小さく、また、特定の地域に限定されることが考えられる。このため、個々のプロジェクトについての組合せを行い、さらに本調査においては、以下の理由により、提案路線との組合せにより需要予測を行うこととしたい。
(既存ストック活用は重要な課題であるが、今後とも利用者利便性向上を図るため新規路線の整備等が必要である。新規路線の事業期間は長く、また、トレンド的にみても既存ストック活用と同時並行的に事業化されてきた。)
(2)分析プロジェクトとネットワーク
 既存ストック活用策とネットワークの組合せについては、以下の考えに基づき、整理した。
 
(1)既存ストック活用策とネットワーク整備における事業期間に相当の開きがあること
(2)既存ストック活用策の事業難易
(3)ソフト及びハード施策のグルーピング 
 
表 7-5-1 分析対象施策とネットワークの組合せ
施策 分析対象施策 ネットワーク
事業中 A A+B A+B+C A〜D
I ・ダイヤ調整
・乗り継ぎ連絡通路等設置
・バリアフリー化
        
II ・急行運転化
・優等列車停車

・貨物線旅客化
     
III ・既設路線延伸
・路線再編
・相互直通運転化
IV ・乗り継ぎ運賃制度拡充      
V ・速度向上(主要路線)        
※◎印の箇所が今回検討を行った組み合わせ
 
 《事業中路線》
・ 京都市交東西線、大阪市交8号線、中之島新線、西大阪延伸線、北港テクノポート線、大阪外環状線、国際文化公園都市モノレール、京阪奈新線、ポートアイランド線延伸
 
a)シミュレーションの前提条件
(1)ダイヤ調整
 比較的乗換利用者が多く事業者が異なる路線間において、優等列車を中心とした昼間時間における待ち時間短縮のためのダイヤ調整により、ネットワーク機能強化が進むと思われる路線について、待ち時間を表現する指標として、乗り継ぎ時間を現行の75%に設定した。
(2)乗り継ぎ連絡通路等設置
 既設駅間が近接し乗り継ぎ通路等設置や既設駅移設により、ネットワーク機能強化が進むと思われる駅について、乗り継ぎ距離を一律100m短縮した。(歩行時間換算=○分)
(3)乗り継ぎ運賃制度拡充
 乗換利用者が多く、乗り継ぎ運賃制度の新たな適用によって、ネットワーク機能強化が進むと思われる駅(路線)について、普通運賃を100円割り引くこととした。(定期については、100円×1ヶ月定期相当分割引)
(4)バリアフリー化
 乗換利用者の多いターミナル駅を中心としたバリアフリー化の推進により、ネットワーク機能向上が進むと思われる駅(路線)について、エスカレータを設置する。
※乗換抵抗指標
 従来の需要予測モデルでは、鉄道間の乗換を乗換回数及び乗換時間により「抵抗」として表されてきたが、連絡通路やエスカレータ等の設置等、乗換経路上の抵抗の軽減に関する利用者の要望は高く、これらの軽減に関する政策評価が必要となってきた。そのため、本調査においては、乗換抵抗を乗換に要する「エネルギー」として「乗換抵抗値」の指標化を行い、需要予測モデルの構築を行った。
 運動の強さを示す指標としては、METs(metabolic equivalents)が知られており、運動エネルギー消費量は、以下の式により算出される。
(運動エネルギー消費量)=(個人の安静時代謝)×(METs)×(時間)
  (METs)
立位 1.25
歩行 2.74
階段(昇降) 4.82
 
(5)急行運転化
 以下のような路線を対象に検討する。
○路線延伸などにより運転区間が長くなる路線
○既設路線との競合性が強く、相互に効率的な運行が可能と思われる路線
○新規路線開業により利便性向上が可能と思われる路線
○既設路線の優等列車を活用したネットワーク機能強化の必要性が高く、比較的距離の長い路線
 なお、停車駅については、現況において乗降客の多い駅や乗換駅を中心に設定した。
(6)優等列車停車
 優等列車を活用した既存路線とのネットワーク化が必要と思われる路線及び相対的に乗降客の多い駅を中心としたダイヤ改善が必要と思われる駅について、優等列車の停車駅とした。
(7)貨物線旅客化
 旅客線化により既存の旅客路線とのネットワーク機能強化されると思われる路線及び輸送サービスの新たな供給となる路線について、旅客線化した。
(8)既設路線延伸
 比較的近距離に既設路線があるが接続していない路線について、既設路線の延伸によりホームtoホーム、連絡通路設置等により、ネットワーク化が可能と思われる路線の延伸を仮定した。なお、運行本数、表定速度は既存路線と同一とし、設置駅は既存路線の駅間隔を参考に適用した。また、既存路線との延長割合や輸送サービスの連続性等から、既存路線とのネットワーク化により需要効果が図られる可能性のある路線を対象とした。
(9)路線再編
 都心部に位置しながら相対的に輸送需要が少なく、また、今後、隣接する路線の整備により需要転換等の影響発生が予想される路線及び軌間等仕様が同一である路線におけるネットワーク機能強化が可能と思われる路線について、相互直通運転化を想定した。
(10)相互直通運転化
 相互直通運転化により、ターミナル乗換混雑の緩和及び都心と郊外エリア間の所要時間が短縮される路線について、相互直通運転化を想定した。
(11)速度向上
 路線延伸などにより運転区間が長くなり、ダイヤパターンの変化が予想される路線、比較的運行距離が長く、放射状路線である路線の表定速度を平均「5%向上」させた。







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