もう1つ、これがいま一番有力かつ科学的だと言われている説で、わりと最近に出されました、イギリスのクリノースカという女性科学者が提唱している説です。鯨もまた渡り鳥のように、体の中に磁石を持っている。そして地球の磁場を関知しながらナビゲーションしているということです。そして地球の磁場を同じポイントをつないでいくと、地図で言う等高線や気象で言うところの等圧線と同じように、等磁力線というのがつくられますが、ストランディングが多発する場所は等磁力線が陸地と交差する場所に多いということを見つけたのです。つまり通常ならば磁力線に沿って航海していく鯨が、たまたまいつもと違う進路をとって、しかも磁力線に沿って動いているとそのまま海岸にぶつかってしまうという説です。
どんな鯨にマスストランディングが多いかということはわりと決まっています。すなわち沿岸にもともと暮らしている鯨は、マスストランディングをめったに起こしません。まったく起こさないと言ってもいいです。ヒゲクジラもマスストランディングを起こしません。ヒゲクジラにはエコロケーションの能力がないと言われているということもありますが。
マスストランディングが多い種類は、いくつか条件があります。1つは、ハクジラであること。それから沖合いの種類であること。そしてもう1つは、群れの中の社会性が高度に発達していることという条件がいくつか重なります。すなわち先ほどの寄生虫説も地形説も地磁気説もそうですが、みんながみんな間違いをおかしたり、みんながみんな寄生虫にやられている必要はないわけです。
近隣の地形を知らない沖合いの種類のグループが、たまたま沿岸に近づいてきたときに、たとえば群れのリーダーが寄生虫でやられて頭がおかしくなってしまった。あるいは群れのリーダーが未熟者で、遠浅の海を関知できなかった。あるいは群れのリーダーが磁力線に頼ってばかりいて、自分のエコロケーションの能力をふんだんに使わなかった。それだけで群れがいっせいにストランディングしてしまうというような考え方があります。つまりこの3つの説で言えば、どれも正しいと言えば正しいし、あるいは複合して起こっているのかもしれない。
さらにそのほかにどんな説があるかといいますと、眉唾なものからそれらしいものまでけっこうあります。この絵はシャチに追われてイルカが座礁しますという図です。たとえば水族館などがマスコミに、このイルカはどうして座礁したのですかと聞かれると、必ずこの答えを出します。これははやっているんです。すごくみんなにわかりやすいからだと思いますが、こんなことはめったに起きません。私が知る限り、日本ではこの事例は聞いたことがありません。ないことはないと思うのですが・・・。
そのほかに水温の違いによってストランディングを起こすという考え方もあります。これはうちの研究所の人間がけっこう強く主張している説で、先ほど等磁力線と言いましたが、等水温線に沿って鯨も移動します。誰でも暖かいところ、寒いところを行ったり来たりするよりは、同じ水温のところを泳ぐほうが楽だろうということです。例えで言うと、真夏のデパートを考えればいいと思います。
デパートの入り口はエアカーテンでし切られていて、中に入るとものすごく冷たいけれども、外へ出るとものすごく暑い。どちらか気持ちのいいところへ入ってしまったら、そこから出たくない。出たくなりから、そのぎりぎりのところで沿って泳いでいると、陸地にぶつかってしまったという水温説があります。
このほかに私が個人的に好きな先祖返り説というのもあります。すなわち鯨というのはもともと陸上に住んでいた動物で、足の骨も残っているくらいですが、その鯨が何らかの原因で海で溺れそうになった。つまり死ぬ間際になると鯨は泳ぐ能力を失います。しかも肺呼吸をする生き物ですから、ほとんどの鯨は最後に溺死するわけです。溺死しそうになったときに太古の記憶が蘇って、陸地に向かってまっしぐらに走ってくるのではないかという、ちょっと夢のある説もいまだに存在しています。
さて、陸上でストランディングが発生しますと、いろいろなマスコミの方が記事を書くのに鯨類研究所に問い合わせの電話をしてきます。私はストランディングを担当しているので、大概その電話は私のところへ回されてきます。必ず聞かれる質問が、近年、ストランディングは増えているのでしょうかという質問です。また、非常に答えにくい質問の1つでもあります。必ず聞かれるけれども、必ずわかりませんと答えます。
なぜかというと、これは日本鯨類研究所のデータベースに蓄積されているストランディングの記録を発生した年順に折れ線グラフにしたものです。これを見ると96年あたりから飛躍的にストランディングの数が増えていることがわかります。増えているじゃないかと思われるかもしれませんが、タイトルをよく読んでください。ストランディングの推移ではなく、ストランディング報告件数の推移です。
すなわちストランディングという事象自体は太古の昔から、人間が鯨の存在に気がつく前から、おそらく日本中の海岸であったはずです。だけれども人々がこれを鯨のストランディングだと認識して、日本鯨類研究所まで報告してくれるというのとストランディングの数は必ずしも一致しないわけです。
日本鯨類研究所がストランディングレコードの収集を始めたのが1986年からですので、ここでググッと伸びているように見えます。そして96年から、実は国立科学博物館と共同で、ストランディングのことを全国的に情報収集や調査をやろうと、関係者を集めて打ち上げたことがあります。それ以来、猛烈な数で報告が増えています。つまり協力してくれる人たちの数が増えると、報告の件数も飛躍的に増える。近年、水産庁のほうも、各都道府県、市町村に対して、鯨のストランディングがあれば必ず水産庁に報告しなさいというお触れを出していますから、それによってますますストランディングに対する関心が高まってきているのです。
グラフの2番目の線が、発見時に生存していた数です。3番目の線は、それに対して救助活動を行った割合です。ここで重要なのは、この開きです。つまり死体の漂着がうなぎ上りに増えているのに対して、生きているものの漂着はそんなに増えているわけではない。つまり、昨日までは単なる海岸のごみだったんです。それが海岸を歩く人々、あるいは鯨に関心のある人々がストランディングに注目してくれたおかげで、一気にストランディングの報告として増えてきたのだろう。私はそのように解釈しています。
マスコミの皆さんは、すぐに海で何か異変が起きているのではないかとか、海洋汚染が鯨たちを殺しているのではないかとか、あるいは鯨が増えすぎて漂着が増えているのではないかという話に持っていきたがるのですが、実際のところは単に協力者が増えただけではないかと個人的には思っていますが、これもまた証明することは非常に難しいです。
それではどんな動物にストランディングが多いのかという話を簡単にします。すでに以前のセミナーでもお話が出たと思いますが、鯨にはヒゲクジラとハクジラがいて、ヒゲクジラというのは上顎にブラシのようなひげがあります。ハクジラというのは、千差万別ですが、通常は歯がある鯨のことです。イルカと言われるのは、ハクジラの中の小さいやつのことです。
ストランディング・ベスト10ですが、まず第1位は、スナメリです。東京在住の方にはそれほどなじみのある鯨ではないのですが、たとえば伊勢湾、瀬戸内海、あるいは北九州、西九州のあたりですと、最もポピュラーな鯨というかイルカです。しかもものすごく沿岸性の種類なので、ストランディングの件数も非常に多い。たとえば2001年、昨年のデータですが、漂着が169件記録されたうち64件、つまり3分の1以上がスナメリでした。それくらいスナメリの漂着は多いのです。ある意味、日本を代表するイルカと言っても過言ではないと思います。関東以北では、実は外房から宮城県のあたりまで分布しています。
2番目が、オウギハクジラと言われる種類で、これは体長が5メートルくらいになる大型のハクジラです。これに注目していただきたいのですが、こちら側が背中で、こちら側がお腹です。ほどよく傷んでいますが、下のくちばしの真ん中あたりに大きな歯が一対飛び出しているのがオウギハクジラのオスの特徴です。ただしメスはこの歯が出てきませんので、同じ仲間の鯨との識別が非常に難しいという問題もあります。これは日本海側でストランディングが集中しています。全体で第2位になるくらいですから件数はものすごく多いのだけれども、ほとんどが日本海側です。
そして3番目が、カマイルカです。これは皆さんおなじみのイルカです。背びれが大きくて、鎌の刃のように見えるのでカマイルカと呼ばれています。これは日本海でも太平洋でもストランディングがけっこう多い個体です。
そして4番目、ここでいきなり大物が出てきます。ミンククジラです。ヒゲクジラの仲間では日本沿岸で最もストランディングが多い種類です。ミンククジラの特徴は、胸びれに白い腕章のように帯が入っています。皆さん海岸を歩いていてヒゲクジラが転がっていたら、まずここを見ていただければミンククジラかどうかすぐにわかります。
5番目はまたハクジラです。これはハナゴンドウです。どちらかというと西日本、南日本に多い種類です。成長すると体中に白い傷がどんどん増えてきて、体が真っ白になってきます。この傷が松の葉に似ているので、マツバイルカという別名もあるくらいです。くちばしがなくて、上顎にも歯がほとんどありません。
6番目は、イシイルカです。これはお腹の白い模様、背中の白い模様が特徴で、漁業対象として日本で一番漁獲量の多い鯨類でもあります。日本海から三陸あたりに分布していて、南北に季節的な移動を行う種類でも知られています。
7番目は皆さんおなじみのマッコウクジラです。これもほどよく傷んでいますが、三浦半島の荒崎海岸に漂着したのを、私が自分で写真を撮ってきました。こちら側が下顎で、こちら側が頭です。
そして8番目はアカボウクジラです。アカボウクジラについてはあまりなじみがないかと思いますが、実際のところベスト10に入るわりには生態がよくわかっていない鯨の1つです。ただおもしろいことに、ストランディングを調べてみますと、相模湾と駿河湾に非常に多いというよりは、ほとんどそこで集中しています。しかもマスストランディングを起こします。最近はありませんが、70年代、80年代に何回かあって、データベースには6回のマスストランディングが記録されています。しかも駿河湾と相模湾のどちらかで起きています。ですからおそらくは太平洋のそのあたりにたくさんいるのだろうと思いますが、まだまだ謎の多い鯨です。
9番目、マイルカ/ハセイルカと書いてありますが、マイルカとハセイルカは少し前までマイルカという一種類で呼ばれていました。ごく最近になって、マイルカとハセイルカに種が分かれました。どこが違うかというと、吻の長さが違ったり、全体のサイズが少し違ったりするのですが、一般的にはひっくるめてマイルカと呼んでいます。これは日本海側とか太平洋側では、どちらかというと南のほうに分布しています。
10番目はコマッコウ、オガワコマッコウです。両者とてもよく似たかたちをしていますが、昔はこれもマッコウクジラの仲間と呼ばれていましたが、いまはコマッコウ属という別のグループに分類されています。これもストランディングが多いわりにはよくわかっていない鯨の1つです。大きさはコマッコウが3.7メートル、オガワコマッコウが2.7メートルと図鑑には書いてあります。どちらかというと南のほうのイルカで、オガワコマッコウは宮崎とか沖縄でストランディングが多く、コマッコウはなぜか関東付近でストランディングが多い個体です。
さて、ストランディングレコードを集めるというのは何がわかるのか、どんな意味があるのかという話があります。話せば長くなるのですが、最も簡単に言えば、生態・生物・病理・環境・博物学と私は答えています。生態学というのは、すなわちどこでどんな種類でいつごろストランディングが多いというのを調べることで、その鯨の生活史がわかります。たとえば先ほどアカボウクジラ、コマッコウがよくわからない鯨だと言いましたが、これらの鯨については何かデータを収集しようと思うと、ストランディングレコードが一番頼りになります。
しかもストランディングした個体を調査すれば、何を食っているとか、繁殖周期がどれくらいであるといったこともわかってきます。そういう意味で、鯨の生態を知るうえで、ストランディングレコードというのは非常に重要だということです。これは1件だけではだめで、たくさんのデータを積み重ねていかないと、なかなかこういうことはわかりません。それゆえに地道なストランディングレコード収集という作業が必要なわけです。10年、20年かけてデータを集めることで、だんだん鯨の生活像がわかってきます。
2番目は、生物学的です。日本で鯨の標本を手に入れようと思うと、われわれが行っているような捕獲調査とか、あるいはイルカの漁業の現場へ行って標本を手に入れなければならないけれども、それは限られた人たちしか手に入りません。だけれども日本中にストランディングする鯨の標本を有効に生かせば、鯨の研究をしたいという人たちに対する標本を供給できます。
病理学的といえば、なぜストランディングをしたのか。先ほどほとんどが病気の場合が多いと言いました。その原因をつき止めることは難しいのですが、それにしても病理学を調べることで、もしかしたら知られていない病気にかかっている可能性も否定できないわけです。そういう意義があります。
それから環境学的、よく言われるように、鯨というのは食物連鎖の頂点に立って、海洋の汚染物質を一身に蓄えていくわけです。それゆえに鯨の体を調べることで、どれくらい海の汚染が進んでいるのかということが調べられます。
博物学的というのは、たとえばいまでも鯨の新種は発見されます。つい最近も新種が発表されました。南米のほうだったか、詳しくは記憶にないのですが、そういう新種というのは、ほとんどがストランディングした個体を調べることで発見されています。洋上では新種と特定するだけの特徴を見極めることは難しいですから、ストランディングした個体を骨まで徹底的に、あるいはDNAを調べることで新種がわかるわけです。
日本でも新種が見つかったことがあります。イチョウハクジラというのは、1957年に大磯で見つかった個体をよくよく調べると、世界にまだ記載されていないオウギハクジラの仲間だということがわかって、日本人が新種として登録した鯨です。この写真はそのときの写真ではないのですが、イチョウハクジラというのは、オスだとここにイチョウの葉っぱのような歯が出てくるというのも名前の由来ですが、名付けた先生が東大の出身だったというのも関係しているらしいと噂されています。
もう1つ、これは今年の7月に漂着したばかりの鯨です。実はいままで日本にこんな鯨が漂着した記録はないんです。もしかしたら新種ではないかとかなり期待を持って、現在も調査は進んでいます。現段階でははっきりしたことを申し上げるわけにはいかないのですが、おそらく新種ではなく、タイヘイヨウアカボウクジラモドキと言われる種類だろうとほぼ確定しています。ただ、タイヘイヨウアカボウモドキは世界でもまだ3例しか確認されていない非常に珍しい鯨です。ましてやこんなにいきのいい状態で上がったのは世界初かもしれません。もちろん日本初記録です。このように特に博物学を志す人たちには、ストランディングというのは非常に魅力のあるものです。
さて、生態がわかるという話をしましたが、たとえば海域によるストランディングの比較をしますと、けっこういろいろなことがわかります。日本海側と太平洋側ではどんな鯨にストランディングが多いかというのは、順番が違います。日本海側ではカマイルカ、オウギハクジラ属と書いてありますが、ほとんど全部オウギハクジラです。
そしてミンククジラ、スナメリ、イシイルカという順になりますが、太平洋側ですとスナメリ、ミンククジラ、ハナゴンドウ、アカボウクジラ、カマイルカと、トップ5を構成する鯨種が変わってくる。すなわち日本海に棲んでいない鯨もいる。太平洋側には分布しているけれども、日本海側には分布していないということが、ストランディングレコードを調べるとわかってきます。
月別に見ると、いま日本海と太平洋を比較しているのですが、もっとはっきりと違いが出てきます。これは太平洋の記録です。漂着と混獲とそれぞれ載せていますが、漂着はこのように春から夏にかけてガーッと上がって、あとはどちらかというとそんなに差はありません。そのわりには混獲のほうは逆です。夏に少なくて、春から冬に多いという不思議な結果になります。そして発見したときの生存率は、冬に高くて夏に低いというような状況になっています。
ところが、これは日本海側です。まったく逆です。漂着は冬から春にかけて猛烈に多くなりましたが、夏になると激減します。1月になるまでほとんど増えない。混獲はどちらかというと太平洋によく似ています。夏に少なくて、冬に多い。そして生存率は、夏に高くて、冬は極端に下がります。太平洋側と日本海側を比べるだけで、これほど差が出てくる。なぜか。これはどちらかというと、日本海側のほうが説明しやすいです。日本海側で漂着を起こす種類、先ほど五つ挙げましたが、オウギハクジラ、カマイルカ、イシイルカ、これらの種類は冬から春にかけて漂着します。夏になると限りなくゼロです。
つまり、これらの鯨がこの季節にだけ集中的に漂着するので、日本海側はあのようなグラフになります。冬から春に多くて、夏に少ない。なぜかといいますと、おそらくイシイルカ、カマイルカまでは明らかにそうですが、オウギハクジラもまた季節的に回遊してきて、冬から春にかけて日本の沿岸に密度が高くなるのだろうということが、これらの解析から推測されます。生存率に関して言えば、日本海側では冬は非常に気象が悪いということ、それからそもそも気温が低い。それから水温の夏と冬との差が太平洋側よりも大きいということなどが、その原因だろうと言われています。
太平洋側の図はないのですが、太平洋側で夏に急激に数が増えるのは、実はスナメリが原因です。スナメリという種類は5月から6月にかけて出産時期を迎えるので、この時期に猛烈にストランディングが多くなるという傾向があります。先ほど言ったように、スナメリというのは日本で一番漂着の多い種類ですから、それが原因で太平洋側の夏場の漂着数を押し上げているというような結果になっています。
先ほど生存率の話をしましたが、生存しやすい鯨とそうではない鯨というのが存在します。ヒゲクジラはだめです。発見されたときに生きていた例はわずかです。一般に大型の鯨は生存率が悪い。その中でもシャチとか大型のゴンドウクジラの仲間は比較的発見時の生存率が高い種類と言われています。もう少し小型の種類になると、ハナゴンドウ、バンドウ、マダラスジ、マイルカ、シワハ、コマッコウといったあたりの種類は生存率が高い。そしてなぜかカマイルカは猛烈に低くて、ネズミイルカ、スナメリというのも発見時に生存している割合は10%未満です。このように鯨種によって漂着したときの生存の割合が違うという不思議な現象があります。これはストレスに強い弱いということも関係するのかもしれません。
ストランディングした鯨は誰のものなのかという話があります。これもよく聞かれる質問の1つですが、まず鯨はどのように法的に定められているのかという話です。まず1つは、漁業法というのがあります。これは捕獲を規制しています。大型鯨類については、例外を除き、捕獲、所持、販売がすべて禁止されています。これは去年の7月に法令が変更になり、より厳しくなりました。
ここで言う大型鯨類というのは、IWCが指定している種類で、すべてのヒゲクジラと日本ではマッコウクジラがこれに含まれます。そして小型鯨類、それ以外の種類については、指定漁業を除き捕獲禁止ということになっています。何が違うのかといいますと、小型鯨類については、ストランディングした個体を取って食おうが、おとがめは法的にはないんです。でも大型鯨類については、取って食うと犯罪になります。この違いがあるということです。
それとは別に、水産資源保護法というのがあります。シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ、この3種に限っては例外なく捕獲、所持、販売が禁止されています。これは漁業法の大型鯨類よりも厳しいんです。どこが厳しいのかといいますと、例外を除きという部分がありません。この例外というのは、指定を受けた捕鯨業とか、もちろん捕鯨はいま商業捕鯨モラトリアムですから、捕鯨業が存在しても割当てはゼロです。
ただ、いま日本が行っている捕獲調査とか、もう1つ特例として定置網に混獲された大型鯨類については、DNAを登録すれば流通してもかまいませんという例外があります。それらの例外がこの3種については適用されませんというのが、水産資源保護法です。ですからスナメリは日本で一番漂着が多いのですが、そのスナメリを勝手に持っていったりすると、実は犯罪になります。これは研究者を非常に悩ませている法律です。全然保護になっていない。研究を妨げるばかりだという批判もあります。
ほかに行政通達があります。すなわち小型鯨類は法律で定められていない部分があると言いましたが、それを穴埋めするためにこのような行政通達が出ています。ストランディングしたイルカが生きていれば海に戻しなさい。死んでいるものは埋却、焼却しなさいというような行政通達を出しています。これがいまのところすべてと言っていいくらい、鯨の法律の枠組みです。
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