日本財団 図書館


7. 課題の整理
 以上のように、バラスト水中の水生生物処理技術の中で、最も実用的であると考えられた機械的殺滅法に関する各種実験・検討を行い、船舶への搭載を想定した試作機を製作した。また、試作機を用いた陸上実験を実施して、各種水生生物に対する処理効果を明らかにし、閉塞対策と耐久性に関する有効性も確認した。陸上実験の範囲では、現在の試作機は充分に実船への搭載に適用できるものと考えられる。
 ただし、実際の航海では様々な自然環境の変化に遭遇する。これら変化に充分に適応可能な装置とすることが必要であり、実船への適用を想定した水生生物に対する処理効果の安定化、安全な閉塞対策の実施、耐久性の向上等が次なる課題となる。
 以下に、課題内容の詳細について記す。
 
(1)水生生物に対する効果関係
 本装置の効果は、漲水時と排水時の両方で処理する2pass処理を想定した場合で、動物プランクトンに対しては95%以上、植物プランクトンに対してはやや低く20μm以上で概ね80%程度である。プランクトン、特に植物プランクトンは、航海中のバラストタンク中が暗黒で光合成ができないことから、バラスト水の漲水から排水までの航海期間中に死滅する細胞もあるため、実際にはさらに高い効果が期待できる。よって、現在の処理要件であるスリット部流速約30m/secでも本装置の効果は一定レベルに達していると考えられる。
 ただし、小型サイズの植物プランクトンや二枚貝類の浮遊幼生、及び多膜類繊毛虫の Favella など、現在の処理要件では低い効果しか得られない水生生物も存在している。このような水生生物が広い海域で常時多数出現しているわけではないが、どのような状況においても安定した効果を取得するためには、さらなる効果向上策を検討する必要がある。
 本調査研究では、小型装置の実験中に高速処理での効果を検討した。その結果、流量を増やしスリット部の流速を速くすることにより、効果が向上することを確認した。実船ではポンプ能力との調整が必要となるものの、効果向上の有効な1手段となるであろう。また、スリット板と衝突板の間隔を5mmに設定しているが、この間隔を変更することによってキャビテーション崩壊の効果を増幅させることも有効である可能性がある。
 現在、MEPCでは処理基準に関する活発な議論が行われている。さる2003年3月に開催された第2回中間期バラスト水作業部会では、2002年10月に開催されたMEPC48時点のパーセント基準及びサイズ基準の並列から、両者を統合した次の処理基準をスターティングポイントとして、早期決着を目指すことで合意された。
 
<現時点での処理基準案(第2回バラスト水作業部会中間会合、IMO(MEPC)>
バラスト水排出時の水生生物濃度が、[10μm]以上の植物プランクトン[200細胞/ml以下、[10μm]以上の動物プランクトン[25個体/L]以下、[及び指標病原体が検出されないこと]
注:[ ]の数宇は仮の値と表示
 
 処理効果向上策の検討・設定及び方法の選択は、この処理基準の議論の推移を注視しながら最終的に決定する。本装置は、現時点でも一定レベルの処理効果を有し、また、先に記したようにさらなる効果向上が可能であるので、最終的には基準を達成できると考えるが、多くの選択肢をもって柔軟に対応するためには、各種効果向上策を検討しておくことが有効であると考える。
 
(2)閉塞対策及び耐久性関係
 現在の試作機における閉塞対策及び耐久性は、2000m3レベルの処理では問題なく作動し、耐久性も十分であることを確認している。しかし、実船への適応を考えた場合には、より簡易で耐久性にも影響しない簡易な閉塞対策、また、単純で強度に優れたスリット板や衝突板の準備も必要であり、開発を進めることは有意義であると考える。
 
(3)その他
 現在の陸上実験は、1気圧の状態で行っている。しかし、実船での装置搭載場所は、背圧が生じる高さに設置する場合もある。よって、背圧が生じる場合における水生生物への影響も把握し、効果の低下を招くようであれば対応を検討する必要がある。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION