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産経新聞朝刊 2002年9月14日
【正論】小泉首相訪朝(3)日本の立場を真摯に説明し理解させろ
 静岡県立大学教授 伊豆見元
 ◆直接会うことに意義あり
 九月十七日に小泉総理が北朝鮮を訪問し、金正日総書記との首脳会談に臨む。私は、今回の訪朝の意義のひとつは、小泉総理が直接金正日総書記にたいして日本の立場、感心、政策、懸念などを説明し、相手側の理解を得るところにあると考えている。
 北朝鮮のように、ひとりに絶対的な権力が集中している世界では、正確かつ具体的な情報が最高権力者のもとに直接届くことは稀だと考えてよい。とくに、北朝鮮にとって不利に響く話は、さまざまに「加工」されたうえで金正日総書記の耳に入るのであろう。したがって、「拉致」問題が日本国内できわめて深刻な問題として受け止められていることを、彼は十分に理解していない可能性がある。同様に、日本が北朝鮮の軍事的脅威を肌身で感じていることを、十分に把握しているとも思われない。だからこそ、金正日総書記にたいして直接小泉総理が説明し要請することには意味があるのである。
 日本の立場や見解が、金正日総書記に正確に伝わることは、ピョンヤンの譲歩を引き出すうえからも重要である。たとえば、金正日総書記が心から経済の再建を望み、そのためには日朝正常化が不可欠だと位置づけているのであれば、彼はそれを実現させるために対日譲歩に踏み切ることを真剣に考慮するであろう。だがそのさい、日本側の正常化に取り組む姿勢が曖昧だと感じるなら、金正日総書記は譲歩することを躊躇するかもしれない。彼に対日譲歩を決断させるためには、正常化にたいする日本の真摯な姿勢を正確に理解させることが必要なのである。
 小泉総理は、九月十日にニューヨークの外交関係評議会でおこなった演説において、「核やミサイル等の安全保障上の問題や日本国民が北朝鮮に拉致された疑いのある人道上の問題」の解決を図ろうとする強い決意を表明した。そのうえで、「国交正常化は地域に平和と安定を創り出すものでなければなりません」と断言し、「今回の訪朝が懸案解決と朝鮮半島の緊張緩和に向けた重要な一歩となることを強く期待しています」と述べた。
 ◆一挙解決はありえない
 日朝関係に関するまことに当を得た認識だと言ってよい。「拉致」問題はもとより、安全保障上の問題の解決に取り組むことは、日本にとって喫緊の要事である。日朝国交正常化が、たんなる二国間の「過去の清算」にとどまらず、北東アジア地域の「平和と安定を創り出す」べきものであることも言うを俟たない。もちろん、今回の日朝首脳会談で、「拉致」問題も安全保障上の問題も一挙に解決に導かれることはあり得ないだろう。「懸案解決と朝鮮半島の緊張緩和に向けた重要な一歩となること」こそが、今回の訪朝の成果として位置づけられるものである。
 以下、それを前提にいくつか要望を述べてみたい。核問題に関しては、今回の小泉訪朝で北朝鮮は核査察の受け入れに積極的な姿勢を示す可能性がある。それ自体は歓迎すべき動きだが、われわれを満足させるものではない。重要なことは北朝鮮の「非核化」を制度化することである。そのためには、北朝鮮は(1)包括的核実験禁止条約(CTBT)に早期に署名しかつ批准する(2)一九九二年に発効した「朝鮮半島の非核化にかんする南北共同宣言」を完全に履行する(3)「IAEA(国際原子力機関)追加議定書」に署名し発効させる−−ことが求められる。小泉総理は、金正日総書記にたいしてその点を強く慫慂(しようよう)すべきであろう。
 ◆譲歩の必要性認識させよ
 ミサイル問題については、北朝鮮は「ミサイル発射モラトリアム」を二〇〇三年以降も延長することを表明する可能性が高い。これも歓迎される動きだが、それに加えて、MTCR(ミサイル関連技術輸出規制)に早急に加盟し、ミサイル輸出を放棄することを北朝鮮に受諾させることが必要となる。すでに実戦配備されたと考えられる「ノドン・ミサイル」の撤去廃棄を強く迫ることも不可欠であろう。また、CWC(化学兵器禁止条約)への加盟を強く北朝鮮に促すことも忘れてはなるまい。
 北朝鮮の譲歩を引き出すには、まずその「必要性」を彼らに十分に認識させるところから始めなくてはならない。小泉総理の訪朝がその重要な契機となることを期待したい。
 (いずみ はじめ)
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
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