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1995/04/09 読売新聞朝刊
北朝鮮はIAEA監視下で黒鉛炉の運転再開も 伊豆見元・静岡県立大教授に聞く
 
 米国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、懸案の軽水炉供与契約をめぐる実務協議を十二日からベルリンで再開する。日米韓三か国は「韓国型軽水炉」が唯一供与可能、との方針を確認したが、今後のシナリオを、米国平和研究所(USIS)客員研究員の伊豆見元(いずみ・はじめ)静岡県立大学教授に聞いた。(ニューヨーク・山岡邦彦)
 
 ――もめている軽水炉問題の本質は何か。
 「国際支援団『朝鮮半島エネルギー開発機構』が供与できる軽水炉は、実質的に韓国型しかないことは、北朝鮮も含めてすでに認識されている。問題は、名称だ。小さな問題のようだが、南北双方にとっては体面上、互いに譲れないという深刻な問題だ。韓国の姿勢は強硬で、このままいくと、北朝鮮は、凍結を解除する可能性がある」
 
 ――北朝鮮はいつ、どんな形で凍結を解除すると見るか。
 「軽水炉供与契約の締結目標期日となっている四月二十一日が過ぎると、北朝鮮はすぐにも、五メガ・ワット黒鉛原子炉の燃料の再装荷を行う可能性がある。さらに再処理施設では、第二再処理ラインの建設を再開したり、昨年六月に抜き出した使用済み核燃料を再処理するかもしれない。しかも、それを、国際原子力機関(IAEA)の監視のもとで行うだろう」
 
 ――IAEA監視下で行うことの意味は何か。
 「核拡散防止条約(NPT)の義務にはまったく違反していない、というのが重要なポイントだ。昨年五、六月に五メガ・ワットから燃料棒を引き抜いたときは、IAEAの立ち会いなしに強行したことが、NPT義務違反として問題になり、国連安全保障理事会での制裁案協議の理由となった」
 
 ――IAEA監視下で行った場合、安保理は制裁に動けるか。
 「非常に難しい。今回の北の行為は、米朝合意の違反でしかない。米朝合意は条約ではなく、法的拘束力は弱い。黒鉛減速炉の運転、再処理という行為自体は、IAEAの監視下でやる限りNPT違反でも何でもない。世界中で認められていることだ。北朝鮮が約束した黒鉛炉と再処理の凍結という行為は、NPTで義務づけられた以上の行為だ」
 「こうした内容を含んだ米朝合意を、安保理は昨年十一月四日の議長声明を通じ、歓迎している。IAEA監視というルールを北朝鮮が守る限り、制裁にもっていく合理的理由はなく、中国はもとより、ロシアも制裁には賛成しないだろう。ましてや、非同盟諸国はきわめて消極的な行動をとるはずだ。NPT延長会議中であれば、なおさらだ。日米韓が独自に、制裁を探るしかないだろう」
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
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