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1994/03/23 読売新聞朝刊
「北」核問題再燃 伊豆見元・静岡県立大助教授に聞く 制裁・回避両面の対策を
 
 【ニューヨーク21日=山岡邦彦】朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑問題が再び国連安全保障理事会の協議にかけられることになった。日本が今後、直面する課題について、訪米中の朝鮮半島問題専門家、伊豆見元(いずみ・はじめ)静岡県立大助教授にニューヨークで緊急インタビューした。
 
 ――安保理常任理事国が決議採択に向け動き始めたが。
 「今度の決議の目的は制裁ではなく、北朝鮮に態度変更を求めるものだ。北朝鮮の対応が問題だ。決議後、北朝鮮に態度変更を促す最後通告的な米朝高官協議の呼び掛けがあると思う。その後、北が再処理施設の再査察に応じて、これ以上の逆コースに向かわなければ、もう一度、米朝が外交交渉レールに乗ることは論理的には可能だ」
 
 ――うまくいかなければ、どうなるか。
 「経済制裁発動へのすべての条件が整うだろう」
 
 ――経済制裁の場合、直面する問題は。
 「制裁をやるのは、北朝鮮の態度変更を促すためだ。核拡散防止条約(NPT)から完全に脱退し、さらに核開発を進めるという逆コースに、北朝鮮が動くのを防ぐ対策が必要だ。制裁が効いて、北が態度を改める場合には、その態度を持続させ、より良い方向にもっていくための準備をしなければ、制裁発動の意味はない。国際社会のルール順守を定着させるよう、北朝鮮を誘導すべきだ。経済再建に協力することで、北朝鮮が国際社会の中で安心して生きていくことを奨励することが必要だろう。だが、北の態度が変わらなければ、制裁を一層強化する覚悟がいる」
 
 ――具体的には。
 「経済制裁には、まず食料や医療品などの人道的物資以外の禁輸がある。次に資産凍結、送金停止がある。日本が現行の法律で効果的にできないなら、立法措置が必要だ。だが、最悪のシナリオは制裁が失敗、朝鮮戦争が再発することだ」
 
 ――その場合の日本の対応は。
 「軍事的衝突が朝鮮半島で起きた場合、在日米軍の行動を、日本はどう支援するかが問題だ。朝鮮戦争(一九五〇―五三年)の時、米軍占領下だった日本の米軍への支援、補給体制は十分だった。今は違う。現行の法律の枠内でやると、米軍支援へ様々な制限がある。たとえば自衛隊は公海上で米軍に補給できない。軍事的衝突に効果的に対応できないとすれば、新しい立法措置をとることを考えねばならない」
 「さらには北朝鮮が崩壊した場合、その後の復興の問題がある。朝鮮戦争では日本は特需で潤い、米中ソが南北の復興に金を出した。いま金を出せるのは日本だけだ」
 「こうした悪いシナリオがあるからこそ、北朝鮮の非核化を定着させ、国際社会にふさわしい一員として迎え入れるための、誘導策を真剣に考えねばならない。制裁が効果をあげた危機回避後の対策を今から講じておくべきだ。同時に、新たな立法措置など危機管理面での対策もたてることが重要だ」
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
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