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◆日米韓の役割分担が重要
 日本が北朝鮮との国交正常化を実現することによって、スターリン主義的な北朝鮮の独裁体制を延命させることに嫌悪感をもつ者も少なくない。しかし、それを論ずる場合、イラクの事態と同じく、われわれの目標が北朝鮮の政策変更(段階的な体制移行)であるのか、政権転覆であるのかを明確に区分しなければならないだろう。もしわれわれの選択が前者であるならば、国交正常化に伴う経済協力が最大の武器になる。北朝鮮経済の開放と改革を通じて、それが独裁体制の段階的な変更を促進することになるからである。しかし、そのためには一〇年、二〇年の歳月が必要とされるだろう。
 他方、われわれの目標が後者、すなわち政権転覆を通じた急激な体制変更であるならば、韓国政府の強い反対を排除しつつ、われわれはブッシュ政権とともに北朝鮮との軍事対決を準備しなければならない。もちろん、憲法上の制約を考えれば、日本のできることには限界がある。しかし、それでも、米軍に対する最大限の支援体制を整え、ノドン・ミサイルの本土攻撃にも備えなければならない。最悪の場合、北朝鮮攻撃は第二次朝鮮戦争に拡大するだろう。
 そのような観点から考えるならば、今回の日朝首脳会談が示す行動方針は明らかに前者の範疇に属する。「日朝平壌宣言」は双方が「日朝国交正常化を早期に実現するため、あらゆる努力を傾注する」ことを約束しただけでなく、「相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程でも、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む」ことに合意したからである。もっとも重要な経済協力についても、無償資金協力、長期借款供与、国際機関を通じた人道主義的支援、国際協力銀行を通じた融資、信用供与などが列挙されている。
 しかし、そうであればあるほど、今後に懸念されるのは、日本の穏健な交渉方針とブッシュ政権の強硬な北朝鮮政策との乖離である。イラク攻撃を準備中の米国は、とりわけ大量破壊兵器の規制に関して、北朝鮮の全面的な屈服以外のものを受け入れそうにない。日朝首脳会談の過程で金正日総書記が日本側に謝罪するのを見て、北朝鮮に強い態度を示せば、それだけ多くの譲歩を獲得できると確信したに違いない。通常戦力の「脅威削減」を含めて、高いハードルが維持されるだろう。
 韓国政府の立場は、これとは大きく異なる。直接当事者である韓国は何よりも平和を希望し、小泉首相の平壌訪問と日朝共同宣言を歓迎している。米国の強硬な姿勢が継続すれば、単独行動主義への懸念が再び国内の反米感情を高揚させるだろう。要するに、米国の立場はグローバルであり、韓国の立場はローカルである。リージョナルな日本は米韓双方の立場を併せ持って、独特の水先案内人かつ調整者的な役割を期待されているのである。日米韓の役割分担が円滑に実現されなければならない。
 
 
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