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◆自由貿易協定が変える日韓関係
 二十一世紀の日本の国際的な立場というものをやや戦略的に考えた場合どうかということですが、私は韓国との関係が極めて重要だと考えております。韓国人も日本人もそのことを明確に意識していないところが問題なのだろうというふうに思います。つまり、日本と韓国は政治的な民主主義、経済的な市場経済、安全保障面でのアメリカとの同盟という三つの体制を共有しているのであります。当然、われわれが描く将来の国家像というようなものも類似せざるを得ないのであります。日本も韓国も地域的な軍事大国になろうと考えているわけではありません。そうではなくて、国際的な貿易国家として、そして先進的な技術国家として生きていくしかないわけであります。また、グローバル・スタンダードというものを満たして、それこそ人権その他の普遍的な価値を尊重する国として尊敬されるような国になりたいと考えております。体制を共有しているのですから目標も共有できるはずでありまして、目標が共有されれば描いてくる国家像というのは当然似たようなものになってくるわけです。双方がそのことを明確に意識していないというだけのことでありまして、実態は、私はそういう方向で動いていくだろうと思います。
 ワールドカップ以後、一番重要な問題として浮上してくるのは、「包括的経済連携」という言葉が使われておりますが、いわゆるFTA(自由貿易協定)だろうと思います。今回、小泉総理が訪韓して、投資協定を締結しました。ですから、今や日本と韓国の企業は、相手の国で国内企業と同じ資格で経済活動をすることができるようになりました。その意味ではFTAの要件の半分ぐらいはすでに満たされたということになるわけです。実際にFTAが締結されるのは、五年後なのか七年後なのかわかりません。しかし、中国がASEAN諸国との間で十年後のFTA締結を宣言しておりますから、それ以前にやってほしいものだと思っております。
 そして、包括的経済連携でありますから、単なる貿易の関税等の問題だけでなくて、例えば資格の標準化というようなものも進展するでしょう。韓国と日本のIT技術者の資格をお互いに認め合うというようなことが実現しておりますが、将来的には日本人の弁護士が韓国で法律活動を行っても、韓国人の医師が日本で医療活動を行っても一向に差し支えないような状況ができてくるだろうと思います。特に日本はこれから高齢化していきますから、韓国の若年労働力を引き受けるという大きなメリットがあります。やがて韓国も老齢化しますから、そのときには日本がノウハウを提供するということになるわけであります。
 そんなわけで、市場の単一化というものが五年、七年ぐらいのタームで相当に進展し、日本人と韓国人の意識を変えていくだろうと思うのです。歴史問題を歴史問題として論争してみても、領土問題を領土問題として論争してみてもなかなか解決しません。しかし、市場が単一化されて「新しい共同体意識」が誕生すれば、その問題も徐々に解決されていくだろうと思います。例えば、日韓の間で関税がかからずに人の往来が自由に行われ、先ほど来申し上げているような状況が出現したときに、竹島がどちらのものかというようなことがそれほど深刻な問題かということなのであります。やがて韓国の方で、あそこに守備隊を置いておくことのばかばかしさに気がついてくれれば、それで問題が解決されていく。共同体意識から相手に対する理解とか思いやりが生まれてくるはずでありまして、そういうものが困難な問題も解決していくだろうと私は信じております。
 
 
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