◆日韓の意識改革促すワールドカップ共催
日本と韓国の間の交流は著しく増大しておりまして、ヒト・モノ・カネ・情報、すべての面で十年前には考えられなかったくらいの交流が今、実現しております。一日にどのぐらいの人が日韓の間を往来しているか、恐らくご存じないだろうと思いますが、年間の往来者数は三百六十万人を超えておりまして、今年は四百万人を超えるだろうと思われます。ということは、一日に一万人の人が日本と韓国の間を往来しているわけであります。日韓条約が締結された当時、一年間に一万人の人がやっと往来していたわけですが、それが今は、なんと一日で往来しております。
最大の課題は、そういった交流の拡大にもかかわらず、日韓双方に意識の面での遅れがあると言ったらいいでしょうか、すなわち実態と意識の間のギャップが表面化していることです。意識の方が実態についていけなくなっているわけです。どんどん実態は進んでしまっているのに、それにふさわしいような意識が日韓の間に依然として誕生していないというのが今の状況だろうと思います。そういう意味では、ワールドカップは非常に大きな意味を持っている。つまり、双方の国民に意識改革を迫るような意味合いを持っているからであります。
『読売』も『毎日』もやっておりましたし、その前には『朝日』もやっていたと思いますが、韓国の新聞と提携した世論調査によると、「韓国に親近感を持っている」とか、「韓国を信頼できる」というような数字が日本の側では急速に上昇しております。この二、三年の現象であります。この間に一五ポイントから二〇ポイントぐらい上昇しています。一番大きなのは『毎日』の数字だったと思いますが、「韓国に親近感を覚える」というのが六九%に達しています。要するに、教科書問題があったにもかかわらず、非常に大きな意識変化が日本の中で起きているということだと思います。特に若い世代の間で韓国の食文化、音楽、映画、観光旅行などに対する関心が非常に高くなっております。
韓国の側も日本ほどはっきりしておりませんが、五、六%ぐらいの上昇がみられます。しかし、実際の皮膚感覚はどうかというと、私は韓国の側でも数字以上の大きな変化が起きていると思います。特に若い世代の人たちは素直な形で日本の文化を受け入れているわけです。韓国のテレビドラマに日本のものが自然な形で出てくるようになりました。街を歩いていても、かつてなかったような現象があちこちで見られるわけでありまして、私は数字以上の「質的な変化」の始まりではないかと思っています。
国民意識については、結局韓国側により大きな問題が残されているということになります。それはなぜかというと、やはり歴史問題がマイナスのシンボルになっているということで、どうも議論が堂々めぐりしてしまうからであります。韓国が「歴史万能主義」の悪習から脱するためには、いましばらく実際の交流が先行しなければならないでしょう。その間に、韓国社会の多元化と価値観の多様化が一層進展します。また、われわれがこの問題から目をそらしてしまうのもよくありません。そういう意味でいうと、先般の天皇陛下のご発言は非常に大きなインパクトがあったように思います。
陛下のご意思を忖度することははばかれるわけですが、しかし、それにしても、桓武天皇の実母が百済の武寧王の子孫であったことで、韓国に「ゆかり」を感じますというようなご発言がありました。いわゆる「ゆかり発言」ですが、韓国の中では相当好意的に受けとめられました。これまでは、陛下の韓国訪問をどういうふうに考えるべきかは非常に難しい問題であったわけですが、日本の政府や国民がそのための道を開く前に、陛下がみずから道を開かれたというふうに考えていいのではないかと思います。韓国で公州の武寧王陵でも訪問されたら、それだけで大変大きな話題になり、双方の国民意識も大きく変化するだろうと思います。
要するに、全般的にみれば、日韓関係のトレンドは新しい段階に入っていると思います。ワールドカップを機会にして、もはや後戻りすることができなくなったと思います。一部にはワールドカップのために協力しているのだから、あれが終わったらまたもとのもくあみではないかというようなシニカルな意見もありますが、日韓の交流の実態を見ておりますと、そういう段階を超えてしまったのではないかというふうに思います。もちろん、これからも歴史の問題等でトラブルはあるだろうと思いますが、しかしそのことが交流全体をとめてしまうというような時代は終わっただろうと思います。
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