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◆日韓関係における負の遺産
 さて、最後に日韓関係について少しお話ししたいと思います。日韓関係は、昨年来、教科書問題、そして靖国参拝問題ということでいろいろ揺れまして、関係が険悪化したのはご承知のとおりであります。小泉総理が二回韓国を訪問して事態を収拾されたわけです。
 長期的に見ましても、この歴史問題は常にマイナスの、負のシンボルとして存在し続けました。しかし、二十年、三十年前の教科書問題と今回の問題は同じかということになりますと、『読売新聞』の一月十日の「論点」欄に少し書いておきましたが、私は同じだというふうには見ておりません。実際に、今回、教科書問題が浮上するプロセスを見ますと、それほど必然的にこの問題がクローズアップされて、日韓関係が悪化したということではなかったと思います。日本側の部分的な修正で満足する可能性も全くなかったわけではありません。金大中政権がもっと求心力を持っている時期であれば、つまり一年前とか二年前であれば、あの山は乗り越えたかもしれないというふうに見ています。
 しかし、政権の求心力が落ちておりました。野党は、政権批判の格好の材料としてこれを取り上げたわけでありますし、また、大手の新聞社と大統領府との間で大きなトラブルがありましたから、マスコミも一斉にこの問題を報じました。とくにテレビ報道が激しかった。そのようなことで、必要以上にというか、国民の意識以上にこの問題が拡大されたというのが私の見方であります。韓国の国民が激昂して、本当に日本との各種交流を絶とうとしたというようなことは実際にはなかったと思います。
 
 
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