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◆拉致問題解決の可能性
 もし、「毅然とした態度」がさらに踏み込んで、相当に極端な行動まで含んでいるとしても、それによって問題の解決を導くことは難しいと思います。極端な想定として言えば、かつてイラン革命のときに、アメリカがイランのアメリカ大使館に孤立したアメリカ人を救出するために砂漠を越えてヘリコプター特殊部隊を派遣したことがありました。途中でヘリコプターが故障してしまったので、これは失敗に終わったわけですが、しかしあのような作戦でさえも、人質がアメリカ大使館にいるということがわかっていて初めて可能なわけです。日本人救出の場合、被害者がどこにいるかという所在地さえもわからないわけですから、そのような作戦も不可能だということなのです。そうだとすると、「毅然とした態度」が重要であるとしても、それは外交交渉の否定のためではなく、その土台を築くためだということにならざるを得ません。
 わずかに、拉致問題を外交的に解決するチャンスがあるとすれば、私はブッシュ政権が北朝鮮に軍事的な圧力を加えるときかもしれないと思っております。かつて北朝鮮が日本との国交正常化を真剣に考えたのは一度だけでありまして、それは金丸・田辺代表団が訪朝したときであります。ソ連が韓国を承認するという事態が進展しておりまして、北朝鮮自身が国際的な孤立化という危険にさらされていたときであります。その後、国連への同時加盟ですとか、中国の韓国承認というようなものも進みましたが、そういった大きな変化の中で彼らが日本との国交正常化を真剣に考えました。それ以外のところで真剣であったかは、よくわからないのです。今回もし、北朝鮮側が日本との国交正常化を真剣に考えるとすれば、それはアメリカの非常に厳しい政策があって、それから逃れるため、それを回避するために日本との対話を進めるという形で出てくる可能性はあります。本当に危ないと思えば、そうするかもしれません。日朝交渉が進んで、国交正常化と拉致問題の同時一括解決というようなことになってくれば、幾らアメリカでもこぶしを振り上げているわけにはいきませんから、それによって危機が回避されるわけです。
 ですから、そういうシナリオもあり得なくはないと思いますが、ただ、これもなかなか難しい。もしそのときに日本側が国交正常化と拉致問題の一括解決ということで動き、北朝鮮側がそれに応じたとして、アメリカはどうだろうか、それを許容するだろうか、という問題が別途存在するからです。もし、国交が正常化されれば、拉致問題は解決されるかもしれませんが、しかし、日本からの大規模な経済支援も入るわけでありますから、金正日政権の軍事力強化に手を貸すだけではないかという批判が必ずブッシュ政権の側から出てくるでしょう。
 ですから、ミサイル等の大量殺傷兵器の規制に関する米朝合意と、日朝国交正常化を同時に進展させながら、しかも拉致問題を解決しなければいけないという非常に難しい外交になってくるわけです。念のために申し上げておきますが、私は国交正常化なしに拉致された人たちが日本に帰ってくるというようなことは考えておりません。「よど号」関連の被害者を別にすれば、そのようなことはあり得ないだろうと思っております。
 
 
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