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◆北朝鮮の軍事優先領導体制
 北朝鮮はブッシュ大統領の「悪の枢軸」演説や日本、韓国訪問に激しく反発している。事実、「悪の枢軸」演説に対して、二月一日、北朝鮮外務省は「事実上の宣戦布告」であると非難する談話を発表したし、朝鮮中央放送は金正日総書記の相次ぐ前線部隊視察を報じた。また、ブッシュ訪韓後の二月二十二日、北朝鮮外務省は「わが方の体制に対するブッシュの妄言は・・・対話否定宣言と同じ」であり、「侵攻の口実だけを探すために提唱している」と断定し、ブッシュ大統領個人の人格まで攻撃した。これらはいずれも北朝鮮指導部が米国による体制批判や金正日非難にきわめて敏感になっていることを示すものである。
 また、ブッシュ非難と並行して、北朝鮮のメディアは韓国の保守派の有力大統領候補である李会昌総裁(野党ハンナラ党)に対する非難を強化した。二月六日の中央放送と平壌放送は、李会昌総裁を「米国好戦狂の走狗、第一級の事大売国奴」と規定し、北朝鮮の大量殺傷兵器の開発中断や通常戦力の後方配置に関する李総裁の訪米中の発言を激しく非難した。ブッシュ大統領の日本、韓国訪問と関連して、北朝鮮は明らかに李会昌の大統領当選による日米、米韓同盟の再強化、すなわち「ブッシュ―小泉―李会昌」の戦略的提携を警戒しているのである。
 しかし、それ以上に注目されるのが、「悪の枢軸」発言直後である二月一日、二日の金正日の前線部隊視察であり、趙明禄・国防委員会第一副委員長や金英南・最高人民会議常任委員長など、北朝鮮要人による「戦争の瀬戸際」発言である。金正日の還暦を祝賀して、二月十四日未明に白頭山の密営跡で開かれた「二・一六慶祝決意大会」において、趙明禄は「いま、米帝好戦狂らはわが方に対する侵略企図をさらけ出し、情勢を戦争の瀬戸際に追いこんでいる」と指摘した上で、「火は火で抑え、全面戦争には全面戦争で応える」と強調した。
 いうまでもなく、これらの反応は北朝鮮で強調されている「軍事優先(先軍)政治」を率直に反映するものである。その第一の意味は、労働者・軍隊・人民の「渾然一体」によって最高指導者を擁護し、銃隊で社会主義を守ること、すなわち金正日の「軍事優先領導体制」を確保することにほかならない。さらに、最近の北朝鮮メディアは「軍事優先政治」の意義を強調して国民に「一心団結」を訴えるだけでなく、全国の高等中学校で朝鮮人民軍への「入隊志願」集会が開かれる模様を報じている。これは一九九三年三月に北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)を脱退したときの状態と類似している。
 北朝鮮指導部が帝国主義勢力との軍事対決に備えることよりも、国内的団結、すなわち最高指導者とその指導体制の擁護を優先するのは、ルーマニア内戦やソ連での体制転換の教訓から学んだものである。したがって、アフガニスタンやイラクとの比較においても、かれらは朝鮮半島における軍事危機の本質を鋭利に理解している。
 要するに、国内に組織的な反対派が存在しない限り、北朝鮮に対する武力行使は犠牲の大きな全面戦争を意味せざるをえないし、自国兵の犠牲を恐れる米国も、ソウルを「人質」に取られた韓国も、それを絶対に許容できないと判断しているのである。
 そうだとすれば、北朝鮮にとっては、中途半端な妥協こそが危険なのである。事実、北朝鮮の「軍事優先政治」に関する文献は、「熾烈な外交戦」で威力を発揮する「最後の切り札」は軍事力であり、一九九三〜九四年の核危機で日米韓の制裁を回避できたのも、一九九八年の「地下核施設」危機を解決できたのも、北朝鮮が強力な軍事力を背景に原則的な立場を堅持したからであると解説している。また、かつて強調された金正日の「無比の胆力」に代わって、現在では、「白頭山の豪胆な攻撃精神」が強調されている。要するに、北朝鮮もまた、軍事力を背景とした外交を展開しようとしているのである。
 
 
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