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◆平和体制構築こそが日本の国益
 ところで、北朝鮮と関係を正常化して日本に何の得があるのかという非常に素朴な、しかし、ぐさっとくるような質問を受けることがございます。それに対しては、今申し上げたような拉致疑惑やミサイル問題が解決されなくてもよいのですかという答えが可能なのですが、それ以上に、私は朝鮮半島の長期的な平和や安定が日本にとって大きな国益であると指摘しなければいけないと考えております。明治以後しばらくの間、日本の安全保障の焦点は朝鮮半島にありました。現在もまたそうです。朝鮮半島で平和と安定が確保されれば、突然ミサイルが飛んでくるようなことはないのです。
 したがって、ただちにそうならないにしても、朝鮮半島の平和体制とはどういうものなのか、それを構築するために今できることは何なのかということを、われわれは常々構想しておかなければなりません。そのような観点から言えば、南北間に平和共存が定着して、周辺の四力国を含めた多角的安保体制が朝鮮半島に形成されることが、われわれにとっての長期的な国益であります。そして、その体制の中でやがて南北が平和的かつ段階的に統一されていけば、それでいいのです。しかし、例えば日朝間の国交正常化なしに、また米朝間の国交正常化なしに、それがあり得るでしょうか。そこに大きな疑問を感じるわけです。
 中国やロシアの学者と意見を交換していますと、時々こんなことを言われます。昔、アメリカ人も日本人も朝鮮半島でクロス承認を実現しなければいけないと言っていた。クロス承認が完成すれば朝鮮半島は安定すると言っていたではないか。冷戦が終結する過程で、われわれはそれをやりました。中国もソ連も韓国を承認しました。だけど、何であんたたちはやらないのか。それでは平和は到来しないではないか。こういうことを言われますと返答に窮してしまうわけです。大局的に見れば、彼らの言うことが正しいからです。やはり、あまり遠くない時期に、そういう状態に持っていかなければいけません。
 日本の地域的な役割は、韓国が非常にローカルで、自分たちのことばかり考えるようであればそのような傾向を正し、アメリカがあまりにグローバルに問題を設定しすぎて、局地的な問題をないがしろにするようであればそれを諌めていくことです。北東アジア地域全体のことを考えつつ、その中で日本の国益を達成するという地域大国としての役割を常に認識して、行動していかなければいけない、このように考えでおります。
 どうやら時間になりましたので、このあたりで私の話を終えさせていただきたいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。
 
(本稿は二〇〇〇年四月十七日の定例午餐会における講演の記録である。文責 編集部)
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
 
 
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